ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

桃さんのしあわせ

2012-10-09 23:34:24 | た行

こういう映画、好きやねん。

「桃(タオ)さんのしあわせ」77点★★★★


**********************

現代の香港。

家政婦の桃さん(ディニー・イップ)は
13歳のときから60年間、ある一家に仕えてきた。

一家は海外などにバラバラに暮らすようになり、
桃さんは一人実家に残った息子ロジャー(アンディ・ラウ)の面倒を見ている。

そんなある日、ロジャーが仕事から帰ると、
家のなかで桃さんが倒れていた――。

病院に運ばれた桃さんは
「もう仕事ができないから辞める」とキッパリいう。

そしてロジャーはある行動に出る・・・。

**********************

裕福な家庭に長年奉公した桃さんは
独り身の、誠実で温かみがあって、でも毅然とした女性。

そんな彼女が歳を取り
「さあ、これからどうする?」と思うと

なんと奉公先の息子が
実の家族同然に、いやそれ以上に面倒を見てくれるという話。
しかも仕事ができて優しくてハンサム、という(笑)

「え~そんな都合のいい話あるかア?」というそこのお方、

これなんと、この映画のプロデューサーの
実話に基づいてるんですよ。

ああ~なんともほっこりする、いい話じゃあありませんか。

60年も人に尽くしたそのあとに、
こんな温かな幸せが待っているとしたら、
なんと素敵なことだろうって

あたしゃ心の底から思いましたよ。


しかも演出センスも抜群で
いわゆる一般的に劇的なこと(病気の予兆とか、死、とか)
そういうものをあえて描かずに、

品のいいユーモアやクスクス笑いを散りばめながら
優しいドラマを構築していってくれる。

現代的な老人ホームや介護、といった話が出てきますが
決して辛気くさいものではなく、
全編が自然なおかしみに溢れてて、
あちこちで笑いが起きるんですよ。

単なる“人のいいカワイイおばあさん”ってわけじゃない
桃さんのキャラクターもいい。

これぞ「情けは人のためならず」。
善い行いは、やがて静かに自分に戻り、
あなたを幸福に包んでくれるんだよ、という温かさにじんわりしました。


★10/13(土)からBunkamuraル・シネマで公開。ほか全国順次公開。

「桃さんのしあわせ」公式サイト
コメント (2)
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情熱のピアニズム

2012-10-07 17:13:58 | さ行

世の中にゃスゴイ人が
まだまだいるもんです。

「情熱のピアニズム」68点★★★☆


全身の骨が砕けた状態で生まれ
“骨形成不全症”という障害を持ちながら

しかし類い稀な音楽の才能に恵まれたピアニスト
ミシェル・ペトルチアーニの人生を描くドキュメンタリー。

彼は30枚近くのアルバムを出していて、
確かにどれか、CDジャケットを見た記憶はある。

でも
そんな障害を持った人だとは
全然知りませんでした。


身長1メートルに満たない彼は、
1962年、フランス生まれ。

音楽好き一家に囲まれ、幼くしてピアノの才能を発揮。
9歳でプロと競演し、その後デビュー。

“障害のあることなんて気にさせない”才能っぷりで
年間200もの公演をこなす売れっ子になった・・・という話。


天賦の才に加え、
彼のテクニックは、骨が軽いことで可能になる超高速の連打と、
独特のタッチだそう。

でもものすごく力強く弾くために、
演奏中に骨が折れることもざらだったんだって。痛・・・

すごいなあ。

さらに
「人より長くは生きられない」と生まれたときから
知っていたのでしょう。

天性のチャームを発揮し、女性にエラモテ(笑)
大勢の女性を愛し、子までなしてるのもすごい。

ドキュメンタリーとしての構成は時系列パターンでいたってフツーなので
いい音楽も相まって
ついつい睡魔にも襲われましたが

こういう人がいたんだ、という驚きと
障害なんて関係なく
聴いて「あ、いいな」と思える音楽に溢れた103分でした。

あと
プレス資料が凝っててカワイイ!



★10/13(土)からシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。

「情熱のピアニズム」公式サイト
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推理作家ポー 最期の5日間

2012-10-06 17:17:00 | さ行

ポーって実際に
ミステリアスな人物だったんですねえ。

「推理作家ポー 最期の5日間」52点★★★

*********************

1849年、米ボルティモアで
陰惨な殺人事件が発生した。

刑事(ルーク・エヴァンス)は殺害現場が
ある推理小説に酷似していることに気づく。

エドガー・アラン・ポーの
『モルグ街の殺人』だ。

当のポー(ジョン・キューザック)は
スランプで酒浸りの日々。

刑事はポーに
事件への協力を求めるのだが、
さらに
ポーの小説を模した第二の殺人が起こり――?!

*********************

「Vフォー・ヴェンデッタ」(05年)の監督が、
推理作家ポーとその模倣犯による頭脳ゲームを描いた作品。

まず、かなり凄惨な猟奇描写がキツいので注意!


設定はおもしろくて

スランプ状態にあるポーが
おそらく自分のファンであろう犯人から挑戦され、

殺人をストップするために
犯人の仕掛けたゲームを解いていく――というもの。

なんですが
どうも
盛り上げポイントや見せ方がいまひとつで
アクションも謎解きも退屈だった。


まあ、自分の推理が
ぜ~んぜん外れたってのもあるんですけどね・・・(苦笑)


ビジュアル的には
ジョン・キューザックのキョト顔オンリーだと辛かったけど
正統派イケ顔のルーク・エヴァンスがコンビを組んでくれて
正直なところ助かった!という感じですね。


実際のエドガー・アラン・ポーも
こんな顔だったそうですが
(いかにも、苦悩してそうな・・・


40年の短い生涯は
けっこう波瀾万丈で、
その死も相当に謎めいているらしい。


コッポラ監督の「ヴァージニア」でも
ポーがクローズアップされてたりと、

改めてポーの影響力や
存在を考える機会にはなりました。


★10/12(金)から全国で公開。

「推理作家ポー 最期の5日間」公式サイト
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マヤ ―天の心、地の心―

2012-10-04 23:16:04 | あ行

オカルトチックな話ではありません。
世界全員に関わる“いまそこにある危機”の話。

「マヤ-天の心、地の心-」70点★★★★


マヤ歴によると2012年12月21日に
人類は滅びると言われている。

しかし、本作は予言とかオカルトな話ではなく
自然に畏敬の念を払いながら
「この地球に住まわせてもらっている」という思いを持って生きている(素晴らしい!
現代マヤ人たちの暮らしを描くドキュメンタリー。


まず
メキシコのチアバス州と、グアテマラに暮す
現代マヤ人たちの生活が紹介される。

色鮮やかな民族衣裳やビーズ、
神聖な儀式、

そして豊かな自然の風景――特に湖に浮かべたカヌーが
静かに湖面を滑る美しさは格別!


しかしそんな暮らしのなか、
次第に開発で枯れ果てた山林の様子も見えてくる。

彼が語る差別や虐殺の歴史は衝撃的だし、

そして……ここでも出た!悪徳企業モンサントの悪事!(失笑)
「モンサントの不自然な食べもの」参照)

そうした現実を訥々と映しています。

この映画が描くのは
こうしたマイノリティの悲鳴は
我々人間全体に及ぶものなのだ、という深刻なメッセージ。

なのに
なぜ、気づかない?――という警告でしょう。

マヤの聖書の文言は
まさに現代社会の真理をついている。

「神は人間が賢くなりすぎたので、人間の目を曇らせた。
だから人間は近くのものしか見えなくなった」

……原発の未来も、環境破壊の結果も、
“賢いはずの”人間にまったく見えなかったのだ。
しかもまだ見えていない模様。

少し考えればわかることなのに。
なんたるアホ?なんたる傲慢。

今こそ人間は目をかっぽじって・・・ん?いや
目を見開き、耳をかっぽじって
自然にも動物にも他者にも謙虚さを持たねばならない、とつくづく。


★10/6から渋谷アップリンクで公開。

「マヤ ―天の心、地の心―」公式サイト
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ビラルの世界

2012-10-03 22:31:10 | は行

このクリクリおめめ
女の子かと思ったら男の子なんですねえ。

「ビラルの世界」69点★★★★


インド、コルカタ(カルカッタ)の
貧困地区に暮らす3歳の少年ビラルの日常を追ったドキュメンタリー。

両親が共に盲目で
経済的にも厳しい環境にあり、

リアル「スラムドッグ$ミリオネア」
評されるのも納得な世界なんですが

まだまだビラルの世界の9割は
狭い路地と家のなか。

深刻な危険性とは無縁のところにあって
「ここならば安心!」とばかりに
ビラル少年はわんぱくぶりを発揮。

その様子にハラハラしつつ
ハハハと笑ってしまうんです。

だって叩かれても叩かれても、彼のわんぱくは止まることなく、
小さい弟をいじめるわ
年上の近所のガキにつかみかかっていくわ

唯一おとなしい寝顔に「ホッ」とするほど。

しかし、次の瞬間
「キラリン」とばかりに目が開くと
「うへぇ。堪忍して」と思わず思ってしまうのもおかしい(笑)。


ビラルの家庭は
最下層の貧困家庭というわけではないらしいですが、
まあその暮らしぶりは大変に厳しい。

なんだけど、そこでの営みは
万人共通というか変わらない。

例えばビラルの両親は
もともと仲良しっぽいんだけど、

それでも
お父さんの仕事がない間、奥さんの機嫌はどんどん悪くなり、
家庭の空気も、夫婦仲も険悪になっていく。

で、お父さんが再び仕事をはじめると、
ビスケットも買えるし、夫婦仲も修復される。

どこの世界でも
愛とお金、そして心の余裕の仕組みは同じだなあと
「フッ」と笑みがもれたりもしました。

祖母や親戚が同じ長屋暮らしで
お兄さんお姉さんが代わる代わるビラルの勉強を見てくれたり、
世話を焼いてくれるのも微笑ましいしね。

被写体が全てを語る、
これも映像の力ですねえ。


★10/6(土)からオーディトリウム渋谷で公開。ほか全国順次公開。

「ビラルの世界」公式サイト
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