ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

六月燈の三姉妹

2014-05-25 23:19:36 | ら行

あ~鹿児島行きて~


「六月燈の三姉妹」70点★★★★


***************************


舞台は鹿児島。

夏祭り「六月燈(ロッガッドー)」の準備に忙しい
商店街の和菓子屋「とら屋」に

次女(吹石一恵)の夫(津田寛治)が
東京からやってくる。

実はこの二人、離婚調停中なのだが
夫はどうしても諦めきれず、次女を追ってきたのだ。

さらにとら屋は
母(市毛良枝)もバツ2、
長女(吉田羊)も出戻りのバツイチ、
三女(徳永えり)も婚約破棄、と

なにやらいろいろ事情がありそうで――?!


***************************


最初つまんなくて、でも
ラストに向かって俄然よくなる映画。

最初よくてラストダメと
どっちがいいか、っていうと
意外と前者のほうが心に残りやすい。


商店街のメンバーたちが
ちょこちょこ登場する部分をまるっと省き、
最初から三姉妹に絞ればよかったと思う。


あえて「地域復興」を入れようとしたのかとも思いますが
だんだん本筋に関係なくなってくるし、
ちょっともったいないなーと。

加えて
次女(吹石一恵)とダンナ(津田寛治)の離婚の理由も
ちょい複雑な一家の事情も
なかなかはっきりせず、

前半、かなり「もやん」とした
ゆるい雰囲気が長すぎる。

しかし中盤、三姉妹が六月燈でキャンディーズを踊り、
そのあたりから、家族の物語に焦点が絞られ、
面白くなっていきます。

そのあたりは、さすがベテラン・佐々部清監督だなと思いました。

三女役の徳永えりさんが
特に上手くて

三女の抱える問題で、
女性たちの個性が見えてくるのも
ああ、あるよなあと。

それに
個人的に、鹿児島大好きなんで
あったかい言葉も、人も、市電も、ロケ場所も、焼酎も、
見ていて楽しめたし

「あ~鹿児島行きて~!」となったので
ご当地ムービーとしては大成功だと思います。


★5/31(土)から公開。

「六月燈の三姉妹」公式サイト
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

万能鑑定士Q モナ・リザの瞳

2014-05-24 21:17:58 | は行

自分、いま中学生なら
デートムービーにこれを選ぶ人がいい(笑)


「万能鑑定士Q モナ・リザの瞳」67点★★★


*************************


並外れた記憶力と知識で
あらゆる物事の真偽を見抜く
天才鑑定士・凜田莉子(りんだりんこ)(綾瀬はるか)は

40年ぶりに日本にやってくる絵画「モナ・リザ」を守る
学芸員に推薦される。

莉子は偶然知り合ったダメ記者・小笠原(松坂桃李)と二人で
ルーヴル美術館で行われる試験に向かう。

しかし、そこには「モナ・リザ」を巡る
巨大な陰謀が渦巻いていた――。


*************************

なんでも鑑定できる
天才鑑定士(綾瀬はるか)が
モナリザを巡る事件に巻き込まれるミステリー娯楽作。

『万能鑑定士Qの事件簿』という
人気シリーズが原作だそうで

これ、原作もけっこうおもしろいかも。

明晰な女性主人公が活躍し
見る人(読む人)が「へぇ」と知識を得られる点では
『ビブリア古書店の事件手帖』シリーズに似てる感じ。

映画でも綾瀬はるか氏が
ダメ記者(松坂桃李)の腕時計をチラ見しただけで、

入社年から彼のいまの状況を
スラスラと言い当てたりとか、
気持ちいいんですわ。

頭のいい主人公、って設定が好きなミステリファンには
たまりませんね。


天才とダメ記者という
ミステリーの鉄板たる凸凹コンビもいいし

ルーヴル美術館内部の撮影もゴージャスだし

けっこう楽しめるんですが

ただ
終盤が余分に長く、詰めが甘いのが惜しい!

特に大ラスのあのシーン、
世紀の名画を、あんな場所で・・・?!って、ツッコミたくないけどさ~。

中盤の鑑定訓練シーンも長すぎるし
全編1時間半でまとめていれば、なおデート向けだったのにー。


★5/31(土)から全国で公開。

「万能鑑定士Q モナ・リザの瞳」公式サイト
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ぼくたちの家族

2014-05-23 20:08:33 | は行

監督、これが20代最後の作品なのか!
どんだけ達眼~


「ぼくたちの家族」75点★★★★


****************************

東京郊外のニュータウンに住む若菜一家。

玲子(原田美枝子)は
長男(妻夫木聡)と次男(池松壮亮)を育て、
小さな会社を経営する夫(長塚京三)と、のんびり暮らしていた。

が、玲子は最近ちょっと様子がおかしい。
物忘れが多く
真っ暗な部屋で電気もつけずボーッとしていたり。

長男と夫に連れられて病院に行った玲子は
なんと余命1週間と告げられる――。

****************************


巧いなあ、石井裕也監督。


なんといっても
母親が突然病気になり、
どうしていいか分からなくなる男三人の

その
「どうしよう」加減が巧すぎる。

フリーズする夫
全てを背負うとする長男
冷静さを装う次男。

ここに娘が一人いたら、全然違うんだよなあと思いつつ、
他人事のようで、他人事じゃない
家族の内情に引き付けられました。


設定だけみると“お涙”な題材だけど
淡々としつつ思わぬアクションで来られるので、
いわゆる
病気モノの定番とは違う後味がある。


例えば冒頭、まだ元気な玲子さんが
友達とランチしていた街から
郊外の(田舎の)自宅まで延々と電車に揺られて帰る場面の

その時間の経過に写る
彼女のぼんやりとした、あきらめの感情とか

男たちが相談事をする、
地元の中華料理屋の中途半端さとか

病気とは直接関係ないような描写が
妙に心に残るんですね。

そこに
いきなりシビアなお金の問題が
ドカンと降ってきたり。

少女のようになっていく母親役の原田美枝子さんが
無邪気に本音をズバズバ言い出して
男たちがオロオロする場面には吹いたなー。

妻夫木氏の“男の不器用さ”も巧いけど
この映画では次男役の池松壮亮氏が
すごく自然で、光ってました。


★5/24(土)から新宿ピカデリーほか全国で公開。

「ぼくたちの家族」公式サイト
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

マンデラ 自由への長い道

2014-05-21 23:30:44 | ま行

本当にいい意味でしっかり勉強になりました。


「マンデラ 自由への長い道」70点★★★★


*****************************


1918年、南アフリカに生まれたマンデラ(イドリス・エルバ)は、
大学を卒業し、黒人初の法律事務所を開業する。

白人に虐げられる黒人たちを弁護するうちに、
彼はアパルトヘイト反対運動に加わっていく。

だが、いくら声をあげても
政府には届かない――。

苛立ちと、切迫する状況から
マンデラたちは次第に武力闘争に転じていく。

そして1964年、ついにマンデラは逮捕されてしまい――?!


*****************************

監督は
「おじいさんと草原の小学校」(10年)の
ジャスティン・チャドウィック氏。

脚本は
「グラディエーター」(00年)「レ・ミゼラブル」(12年)の
名脚本家・ウィリアム・ニコルソン氏。

なーるほど、いいコンビで編み上げられた作品でした。

147分は確かに長くはあるけれど
でもまあ、これで最短かも(笑)


「マンデラ氏って、実際どんなことやったの?」という
素朴な疑問がすべて解き明かされるのがおもしろく

法律家としての青年時代から
彼の歴史と南アフリカの辿った道がよく整理され、
わかりやすく描かれてます。


特に
はじめは非暴力だった運動が
武力闘争へと進んでしまうその道筋は
マジで勉強になりました。


その中でのマンデラ氏のリーダーシップは
「これは逮捕されるてもしかたないわ・・・」と思えるくらい
目立つものだったこともわかる。

実際、かなりタッパもあった人みたいですね。

シスルという彼の同志が
マンデラに示唆を与えた賢人なことも、興味深く、

さらに
27年の投獄後、自由になったところで
物語が終わらないのもミソ。

彼を支えてきた妻との間に起こった問題、
そのなかで「私は赦した。あなた方も赦せるはずだ」のあの名スピーチが
めちゃくちゃ響きます。

マンデラ役のイドリス・エルバの熱演もホントにすごい。

特に老年になってからの、
ナナメ後ろから漂わせる雰囲気とか素晴らしくて
決して似させてるわけじゃないのに
「その人になる」。

これぞ“役者”で
それを見る我々も冥利に尽きるというものです。

ただ「ネルソン・マンデラ 釈放の真実」に出てくる

例の人物の話は残念ながら出てこなかったですね(笑)

★5/24(土)から全国で公開。

「マンデラ 自由への長い道」公式サイト
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ディス/コネクト

2014-05-19 13:26:49 | た行

もうスマホもツイッターもない世の中なんて
想像もできないっすよね。

この映画、リアルだわ・・・。


「ディス/コネクト」77点★★★★


*************************

子どもを亡くしたシンディ(ポーラ・パットン)は
夫(アレキサンダー・スカルスガルド)にナイショで

同じ境遇の人とチャットで会話し、
自分を癒している。

しかしあるとき、夫から
「クレジットカードが使用停止になった」と連絡が入る。

学校で無視されている
内気な少年ベン(ジョナ・ボボ)は

ジェシカという名の少女からメールを受け取り、
顔の見えない彼女との会話に夢中になる。

しかし、それを送っていたのは
ジェシカではなかった――。

*************************

ネットにツイッター、Facebookなど
SNS社会で生きる人々を描いた作品。

チャットにハマる妻、
SNSをいじめの道具に使う子、
未成年の性的サイトの問題を追うレポーター・・・と、

別々の話がSNSという媒介で繋がり、
やがて収束していく構成が上手で

“SNS時代のディスコミニュケーションを描いた「バベル」”という
例えはピッタリですね。


ネタは
ちょっと作りすぎ?という部分もあるけど、

人と人とのコミュニケーション形態が
劇的に変化している現代を捉えようとする
意欲作だし

それに
けっこう、他人事でないリアルがあります。

個人情報の漏洩やなりすましが
こうやって起こるものなのか・・・
自分を取巻く環境が、よーく見えてきて、それが怖い。

全てに被害者も加害者もないフラットな視線にも
いまどき感があり、おもしろく見た次第です。

しっかしいまの時代、
キャプテン・アメリカでなくとも
ほんの数年、冷凍保存されるだけで
かなーり浦島太郎になるよね・・・。怖っ。

★5/24(土)から新宿バルト9ほか全国で公開。

「ディス/コネクト」公式サイト
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする