ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

野のなななのか

2014-05-12 23:47:01 | な行

なぜか宮沢賢治のイメージがある。
楽隊のシーンがそう思わせるのだろうか。


「野のなななのか」72点★★★★


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現代の北海道・芦別。

3月11日、14時46分、
元医師の鈴木光男(品川徹)が92歳で亡くなった。

告別式のため鈴木家の親族たちが集まるなか、
謎の女・信子(常盤貴子)が現れる。

信子によって、明かされる光男の過去。

それは1945年8月15日以降も、
まだ戦争が続いていた樺太で、光男が体験した出来事だった――。


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大林宣彦監督の新作。

“なななのか”は「四十九日」という意味です。


前作「この空の花 ―長岡花火物語」の姉妹編という感じで

戦争と震災後の現代をつなぐ
ファンタジックで、
しかし現実的でもある不思議な語り口といい

北海道・芦別という“場所”との縁で生まれた点にも
共通するものがあります。


全編171分あって、観る前はかなりビビリましたが
本当に意外とあっという間だったことに驚いた(笑)。

章立ての構成が見やすく、

幕間に不思議な楽隊が
北海道の美しい四季の風景のなかを
行進するシーンが挟まれるのも印象に残りました。


そのシーン含め、
全体に幻想的なイメージを持ちつつ
しかし戦争や原発問題など主張や意見は、
ぼやかすことなくストレート。

何より
長丁場を見せ切るためには
核にしっかりした“物語”があることが大きいですね。

死者と生者が混じろうとも
時空を越えようとも

決して話の根本、テーマを曖昧にせず
謎は明らかになり、謎の人物の来歴も明らかになる。

こちらをモヤモヤさせない
さすがの技だなあと思いました。

★5/10(土)から北海道先行上映。17(土)から有楽町スバル座ほかで全国順次公開。

「野のなななのか」公式サイト
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シークレット・チルドレン

2014-05-10 22:12:12 | さ行

久々に、うーん……(笑)


「シークレット・チルドレン」14点★


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近未来のある国。

36年前に人間の手により
「シークレット・チルドレン」と呼ばれる
3万人のクローンが生み出された。

平和に共存していた人間とクローンだが、

しかし1年前、大統領がいきなり
「クローン廃絶運動」を打ち出す。

クローンたちが次々と殺されていくなか、
それに抵抗しようとするクローンが現れて――?!


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アメリカで映画を学んだ中島央監督が、
日米のスタッフと、アメリカ人キャストで描いた
近未来SF作品。

クローンとして生み出された人々が、
政府によって廃絶されるという話で、

繰り返しSFの題材になったモチーフを
アクションもCGもなく、おそらく予算もなく、
描くという試みはいいんですが

残念ながらこの描き方では
足りないものを「回避している」ようにしか見えなかった。


銃声や足音だけで巨万の軍隊の脅威を想像させるのも
「最後まで描かず」も方法だけど

何度も繰り返されると
「観客の想像力にそんなにもたれかからないでくれ!」と言いたくなる。

オルガン(なのか?わからん)が奏でる
“切な系”音楽も繰り返されすぎだし。


なにより
「なんのためにクローンを作ったのか?」
「なぜ廃絶されることになったのか?」全然わからんのですわ。

下手にテーマが大きく
キャストもけっこうしっかりしてるだけに
残念感も大きいのか。

とりあえず
脚本をもっと練ってほしいで賞。


★5/10(土)からヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開。

「シークレット・チルドレン」公式サイト
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百瀬、こっちを向いて。

2014-05-08 23:39:43 | ま行

ヒロインの後ろ姿を印象的に写すのが
なかなか心憎い(笑)。


「百瀬、こっちを向いて。」67点★★★


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小説家としてデビューし、
久々に帰省した30歳のノボル(向井理)は
高校時代のある出来事を思い出す。

非モテのダメ男子だった15歳のノボル(竹内太郎)は
先輩の頼みで
ある女の子の「ニセの彼氏」役をすることになったのだ。

彼女の名は、百瀬(早見あかり)。
勝ち気で気ままな百瀬に振り回されるノボルだったが――?!


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みなさんも劇場でおなじみの
あの「NO MORE 映画泥棒」のCMを手がけた
耶雲哉治監督の長編映画デビュー作。

渡り廊下走り隊のドキュメンタリーを手がけるなど
女の子を撮るのに定評があった方だそうで

なるほど、本作でも百瀬役の早見あかり氏を
とても魅力的に撮っている。

物語も
「猟奇的な彼女」入ってるツンデレ少女と
気弱~な主人公の青春話で悪くない。

悪くはないんですが
ちと淡すぎるのが、ワシには物足りなかった。


冒頭ハイキーな白に
百瀬の後ろ姿のショットや
ナナメ後ろや横顔のショットも印象的なんだけど

正面からだと意外と素朴な丸顔というのも
うまく作ってあるなあとか(ファンに殺されそう・・・。笑。いや、美少女なのは間違いないっすよ!)

あと、やっぱり
30歳のノボル(向井理)と、15歳のノボル(竹内太郎)が
同一人物イメージとしてハマるか?が微妙なところでしたね。

竹内太郎氏も向井理氏もそれぞれいいので、
もそっと違うアプローチできなかったかなあ、とか。

あとね~ラストが
う~、もっと、こう、なんか、できなかったのか!と
もだえ苦しむ感じ。

いろいろあげつらうのは
「いい感じ」の裏返しと、歯がゆさからなんで
今後も期待したいですね。

★5/10(土)から全国で公開。

「百瀬、こっちを向いて。」公式サイト
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WOOD JOB!~神去なあなあ日常~

2014-05-07 23:08:23 | あ行

珍しく原作先で見た邦画。


「WOOD JOB!~神去なあなあ日常~」68点★★★☆


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お気楽な高校男子・勇気(染谷将太)は
大学受験に失敗し、進路に行き詰まってしまう。

そんなとき、ふと目にしたのが
「林業」のパンフレット。

表紙の美女(長澤まさみ)につられて、
1年間の林業研修プログラムに参加することを決めたものの

着いた先は、ケータイの電波も届かない
山奥の神去(かむさり)村で・・・?!

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三浦しをん原作×矢口史靖監督による
青春林業エンタテインメント(宣伝ママ。笑)


不可も無く、まとまってはいるけれど
「ハッピーフライト」「ロボジー」(最高!笑)の矢口作品としては、
かなりフツーというか、
さほど笑えなかったのが残念。

原作に、というより
山という「場」にちょっと引きずられたのかな。

山も緑も本当に気持ちがいい風景なんですが
てらいなさすぎて、シンプルすぎて、
引っ掛かりどころが難しいんですよね。

それにもはや
大気汚染の都会より、コンビニの便利より
自然豊かな山奥のほうがいいに決まってるじゃん!って
趣味嗜好の歳になっちゃってるんで、
いや、時代もちょっとそっちに行ってるし、

「不便!田舎!野蛮!」より
もう数回転ひねったアプローチが
必要なのではないか、とも思った。

ただクライマックスのお祭り風景とか
そのダイレクトさに
「・・・やっぱ、田舎は難しいかも」と思ったりもするんで(笑)
まあ考えられてはいると思いますが。

あと主演の染谷将太氏、
いままで見たことのないような明るさで
ボケ倒していて、なんか嬉しかったです。

★5/10(土)から全国で公開。

「WOOD JOB! ~神去なあなあ日常~」公式サイト
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ブルージャスミン

2014-05-05 23:45:58 | は行

どん底顔で、
ケイト・ブランシェット
アカデミー賞主演女優賞受賞!


「ブルージャスミン」78点★★★★


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ニューヨークのセレブリティだった
ジャスミン(ケイト・ブランシェット)は

夫との結婚生活も、資産もすべて失い、
人生のどん底にいた。

シングルマザーである妹(サリー・ホーキンス)の
質素なアパートに身を寄せたジャスミンは
なんとか生活を立て直そうとする。

しかし
見栄っ張りで、プライドの高い彼女の前途は多難で――?!

*************************

ウディ・アレン監督の最新作。

ここ最近は連勝・失敗ナシのクオリティで
本作も間違いなし、です。


セレブから平民に堕ちた女性のギャップを
シニカルに可笑しく、風刺を込めて描いていて

これは本当に主演のケイト・ブランシェットが素晴らしい。
彼女の持ち味を活かして
こういう風に使ったウディ・アレンのセンスが素晴らしい。

ジャスミンを単なるイヤミな女”にしないためには
ケイト・ブランシェットの「本物のエレガンス」が肝なんですよねえ。

で、
そんな“本物感”あるジャスミンの
セレブ暮らしが崩壊してしまう。

精神を病み、ボロボロになっても
ジャスミンはプライドを捨てずに
なんとか、人生を立て直そうとがんばる。

しかし、そのがんばりが、かなーり見当違いで
いきなりインテリアデザイナーを目指すとか
気持ちはすごくわかるんだけど、違うだろそこ!って(笑)

堅実の“け”の字もないジャスミンの悪戦苦闘、
そこに生まれるちぐはぐさ、滑稽さが可笑しいんですね。


あまりにうまく行かないジャスミンの人生、
ちょっと切なく、気の毒な気もするんですが

これは個人攻撃ではなく
「ジャスミンのような」悲劇を生む社会の価値観や視線を、
蹴っ飛ばしているだと思えるので、いいんでしょうね。

しっかし
彼女の持ってるエルメスのバーキンが
だんだんくたびれてくる様子といい

アレン御大、やっぱりなにもかも
わかってらっしゃるなあと。

★5/10(土)から全国で公開。

「ブルージャスミン」公式サイト
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