ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ナイトクローラー

2015-08-20 00:07:22 | な行

見終わって思わず「やるう」、と声が。


「ナイトクローラー」79点★★★★


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米・ロサンゼルス。

ケチなコソ泥をしているルイス(ジェイク・ギレンホール)は
あるとき、交通事故の現場で
“ナイトクローラー”と呼ばれる報道専門のパパラッチに出会う。

彼らは警察の無線を傍受しては事件現場に急行し、
生々しく衝撃的な映像を
テレビ局に売っているのだ。

「これは俺にピッタリかも――」と思ったルイスは
簡易なビデオカメラと無線傍受機を買い、
ナイトクローラー業を始めるのだが――?!


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「ボーン・レガシー」の脚本家
ダン・ギルロイの初監督作。

思わず「やるぅ」と声を出してしまうほど
見ごたえありました。

題材の新しさ、おもしろさに加え
主演のルイス役のジェイク・ギレンホールが凄い!

この人、
「プリズナーズ」でも
感嘆したんですが、顔芸が凄い。

「プリズナーズ」は顔面チックをうまく使ってたけど
今回は、白眼。白眼の余白。
白眼芸と名付けましょう(笑)

その白眼芸とぬぼ~っとした不気味さが
死に神かハイエナか、ってくらい究極の“イヤなやつ”にハマるハマる。


彼が演じるルイスという男は
モラルも社会性もゼロなくせに
「自分は“もってる”」的な自己評価だけは高いという
“やっかいな若者”の見本のような男なんです。

そんな彼が
偶然に報道パパラッチの仕事に出会い
モラルも遠慮もないから
現場にずうずうしくグイグイ入り込み
それがテレビ会社に売れるわけですね。

ワシだって
「やだやだこういうの」とかいいながら
やっぱり衝撃映像は見ちゃうわけで。


で、それを嬉々として撮ってる男が
他者への思いやりなど微塵もなく、ネットとテレビの世界に暮らし、
そのくせ自己顕示欲だけは強い――という、このイヤ~なリアルさ。

ゾッとしつつ、それを見てる自分の胸にも
手を当ててしまうという。


物語も予想可能な方向に行くようでいて
いや、こうなるとはね、と。

ぜひお試しあれ。


★8/22(土)からヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテほか、全国順次公開。

「ナイトクローラー」公式サイト
コメント (6)
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夏をゆく人々

2015-08-18 19:26:10 | な行

不思議に魅力的。


「夏をゆく人々」73点★★★★


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イタリア中部・トスカーナ周辺の田舎で
昔ながらの養蜂を営む一家。

父(サム・ルーウィック)は
長女ジェルソミーナ(マリア・アレクサンドラ・ルング)を特に寵愛し
養蜂の技術を彼女に託そうとしている。

ある日、一家が湖に遊びに行くと
テレビ番組の収録が行われていた。

女神のように美しい司会者(モニカ・ベルッチ)に
魅了されたジェルソミーナは
番組のコンテストに出たいと考え始める。

同じころ、一家は
一人の少年を預かることになり――?


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第67回カンヌ国際映画祭グランプリ作品です。


「養蜂」「少女」「少年」からイメージしたのは
やさしい陽光溢れる
ボーイミーツガールもの。

でも、全然違ってました(笑)


確かに陽光溢れてるんだけど
陰影もくっきり、ときにゴツゴツと荒々しい。

長女が巣箱から逃げた蜂を
手でグワッともとに戻すシーンとか、忘れられない。

でも、少女の心のゆらぎなどは繊細で、
説明少ないなかでもグイグイ引き込まれるんです。


まず「時代がいつか」の描写もないんですからねー。
たぶん現在だろうと思うけど。

主役となるのは
隣家も見当たらないような田舎で
小さなコミューンのようにして暮らす一家。

子どもたちは学校にも行ってないようだし
父親は外にマットレスを敷いて眠てるし(なんで?笑)。


そんな一家の長女ジェルソミーナは
養蜂家の後継として父親に頼りにされている。

彼女は誇らしさの反面、
休みなく奴隷のように働かされる理不尽さや、
長女であることの疎ましさも感じている。

が、あるとき
父が一人の少年を家で預かると言い出して
さらに一家の暮らしを
テレビ番組のロケ隊や
付近の農家がまき散らす除草剤が浸食していく――という展開。


「どんな映画?」と聞かれて
一番困るタイプではあるんですが(苦笑)
現実をきちんと主軸にし、詩的で幻想的な世界が
広がってる感じが、とてもいい。

ラストシーンもいいんです、これが。


お話にはアリーチェ・ロルヴァケル監督の
自伝的要素も入っているらしいです。本人ははっきり言ってないそうですが。

そして彼女は
一家のお母さん役のアルバ・ロルヴァケルの妹なんですって。
ちなみに
アルバ・ロルヴァケルって
「ミラノ、愛に生きる」
ティルダ・スウィントンにそっくりな娘役だったあの人です。
ほへぇ~。


★8/22(土)から岩波ホールほか全国で公開。

「夏をゆく人々」公式サイト
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あの日のように抱きしめて

2015-08-12 22:52:34 | あ行

「東ベルリンから来た女」(12年)
監督×主演男女コンビが再び。


「あの日のように抱きしめて」59点★★★


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1945年、ドイツ降伏の前月。

ユダヤ人の元声楽家ネリー(ニーナ・ホス)は
強制収容所で顔に大けがをさせられるが
親友レネ(ニーナ・クンチェンドルフ)の手はずで
なんとか整形手術を受ける。

終戦後、顔の傷が回復したネリーは
生き別れた夫ジョニー(ロナルト・ツェアフェルト)と再会することを望む。

だが、レネはそれに反対する。

ネリーは反対を押し切って、夫ジョニーに会うが
ジョニーは彼女を自分の妻だと気づかない――。


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うーん。
ミステリアスな題材なんですが
まず、そもそもの設定に引っかかってしまってダメだった。

いくら混乱の状況だったとしても
いくら顔が変わっていても、
――妻であるかそうでないか、夫なら気づかないか?って。

でもね

これはたぶん
そういう話じゃないんだと思います。

ミステリー要素を想定してしまったのが
ワシの敗因。

というか、二人の過去とか回想シーンとか一切ないので
見てる間はわかんないのです。

まあ
見てからのお楽しみにしたい方はここまで





で、映画を見た方を想定して話すと

この話、見終わって時間がたつと
「この夫、本当は妻だとわかっていたんじゃないか?」と思いません?

「フレンチ・アルプスで起きたこと」
の夫が、プチ雪崩に遭遇したとき
とっさに妻と子を置いて、ひとりで逃げてしまったことを
「え?そんなことしてないよ?」と言う、あの精神状態みたいなもので

記憶の誤操作っていうの?

それもあるかもだし、

そもそもこの夫は
成功した声楽家であるユダヤ人妻の財産を狙ってたんじゃないか?
で、やばくなって彼女を密告したんじゃないか?

その記憶を
自分でも消そうとしているんじゃないか?

とかね。

そう考えると、おもしろい。


さらにドイツ語がわかる方には
もっと理解の手がかりがありそう。

プレス資料にあるドイツ文学者の松永美穂さんによると
(松永さん、『ツウ本2』にもご登場いただいています!)

この映画ではドイツの親称の二人称と、
敬称の二人称がさりげなく使い分けられていて
「妻であることに気づかない夫が
ずっと敬称を使っているのに、ふと親称になることがある」んですって。
これ重要なヒントだと思うのですが

実は
『ツウ本 2』で
「東ベルリンから来た女」について伺った
ドイツ語ネイティブのサッシャさん(ラジオDJ)も
まったく同じ指摘をしていたんです。

「主人公(ニーナ・ホス)と医師アンドレ(ロナルト・ツェアフェルト)の
親称と敬称の使い分けが、二人の関係に
とても大きな役割をしている」って。


監督の手法、ここに見たり?(笑)


ラストは好きだし、
見終わったあとに、じっくり考えるタイプの作品かもです。


★8/15(土)からBunkamura ルシネマほか全国順次公開。

「あの日のように抱きしめて」公式サイト
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彼は秘密の女ともだち

2015-08-08 14:06:14 | か行

タイトルどおりではあるんだけどね。


「彼は秘密の女ともだち」70点★★★★


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クレール(アナイス・ドゥムースティエ)には
7歳のときから“永遠の友達”と誓い合った
親友ローラ(イジルド・ル・ベスコ)がいる。

成長した二人はそれぞれ結婚し、
それでも友情は続いていた。

――が、ローラは
夫ダヴィッド(ロマン・デュリス)と
まだ赤ん坊の娘を残して、病気で亡くなってしまう。

二人を心配したクレールが
ダヴィッドを訪ねてみると――?

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フランソワ・オゾン監督の最新作。


タイトルどおりではあるんですが
意外に「おっ、こういう方向にいってくれるか」もあって
スッとする。

まず主人公クレールの
なんか小動物っぽい、パッとしない加減が(すんません)
逆に目を引く。

彼女は親友だった女性を亡くした
まあ潜在的レズビアンであり、

その親友亡きあと、
女装に目覚めた彼女の夫に対し、
驚きながらも、次第にその状況を受け入れ、

“女どおし”として仲良くなり、
さらに新たな展開にのっていく。


かなりジェンダー的には込み入ってるというか
複雑怪奇ではあるんですが(苦笑)

深刻ぶらない軽やかさがあって
ソープオペラとして楽しめるし、
ワシなんかは
「案外、こういうことってあるかもな~」と思ってしまう。

クレールも、ダヴィッドも
同じ女性を愛していたわけで

それがこういう形で、表面化するのは
自然な感じもするし。

そう思わせるオゾン監督、うまかったですね。

でもね、一番印象的だったのは
フランス人ってもっと同性愛にも女装にも寛容なのかと思ったら
意外と保守的で無理解なのね!ってことかなあ。


★8/8(土)からシネスイッチ銀座、新宿武蔵野館ほか全国順次公開。

「彼は秘密の女ともだち」公式サイト
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最後の1本 ~ペニス博物館の珍コレクション~

2015-08-07 23:47:10 | さ行

全然エッチな話じゃないんです。
マジメな映画ですよ(笑)
いや笑っちゃいけない、笑っちゃ……(笑)

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「最後の1本 ~ペニス博物館の珍コレクション~」70点★★★★


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いや~笑いました(笑)
「馬々と人間たち」も記憶に新しいけど
また、やってくれたアイスランド映画って謎だわー。


アイスランドの小さな町にある
世界で唯一の“ペニス博物館”のドキュメンタリー。

しかし
博物館を作ったのは
元・中学校教師、校長まで務めたマジメな人物。

彼はあくまでも「生物学的」研究観点から
あらゆる動物のペニスをコレクションしてきた。

しかし、まだひとつだけ
どうしても手に入れられていないものがある。

彼の悲願である
その最後のコレクションは……人のペニスだった!という

なんだかギャグのような展開なんですが
「人のペニス」を展示するのって
難しいんですね。

でもそこに
「ワシのを寄付する」という人物が現れて……?!という展開を
映画は追っていきます。

まず
館長が本当にマジメな人物であることが
写し出されるので

決してフザけた淫らな話でなく、
タブーに挑戦する学問である、と
マジメに受け止められるんですが

しかし、その館長が
「これは趣味」といいながら
ペニス型のオブジェとかをニコニコして作ったりとか
アンタ、信じてたのに、ホントにマジなの?と言いたくなる(笑)

そして途中から
「人類最初の標本となる、ペニスを寄付したい」という米国人男性の
パラノイアに巻き込まれたりとか
はたまた
アイスランドを代表する冒険家が「寄付する」と言い出したり

面倒なことになっていく。

そして
諦めかけた館長に
最後の最後で悲願が叶うシーンが喜ばしいというか。

思ってもいなかったものを見せられる
おもしろさもまたドキュメンタリーなんだと

笑いました。


★8/8(土)から新宿シネマカリテほか全国順次公開。

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