ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

セル

2017-02-12 23:14:53 | さ行

スティーヴン・キング原作、自ら脚本を手がけています。


「セル」58点★★☆


****************************


ボストンの空港に降り立った
コミック作家のクレイ(ジョン・キューザック)は
別居中の妻と息子に電話をかける。

だが、途中でバッテリーが切れ
やむなく公衆電話を探して電話をすることに。

が、その最中、異変が起きる。

携帯電話を使っていた人々が次々と頭を抱え、口から泡を吹きながら
携帯を持っていない人に襲いかかったのだ!

血みどろの惨劇の場となった空港から
なんとか抜け出したクレイは
地下鉄の運転手(サミュエル・L・ジャクソン)と出会い――?!


****************************


携帯電話を使った人に異常が起こり、暴徒化していく――というスリラー。

地震や災害、異変など
有事の際にはまず携帯を使うよね!という
“現代の条件反射”を逆手に取り

みんながつい、携帯を使っちゃって
そのせいでどんどん暴徒化していくという
導入がおもしろいです。


セル(CELL)=セルフォン(携帯電話)であり
セル=細胞、という意味もあるそうなので
キング先生はそのへんから、
このストーリーを膨らませたんじゃないかしら・・・と想像したり。

あと
自分だってスマホばっかり見てるのに
ふと、客観的に周囲を見回すと
誰もがスマホをいじっていたり
飛行機を降りたとたんにみんなが電話してたりする様子が薄気味悪く

自分を棚に上げて
やや嘲笑気味に感じられることってあると思うんですが
(え?そんな性格悪いのワシだけ?
その“イヤな感じ”をくみ上げたんだろうなあと思います。


携帯を使わずに
難を逃れた主人公たちのサバイバルもハラハラするんですが

ただ、結局のところ
人間VSゾンビものなので、
敵味方が二極なんですよね。

本当にコワイのは人間・・・的な含みがないのが残念なのと
中盤から「収拾、つくのかな・・・」と思ったら、え!というオチで(苦笑)


そう考えると
「ミスト」(07年)はやっぱりおもしろかったなーと。


そもそも
すごーく申し訳ないことに
最近、ジョン・キューザック、
なんというか、演技に「走り」感があるというか
ちょっと彼だと映画に入り込めないジンクスがあって(すんません)。

「1408号」もそうだったんだけど。

実はエドワード・ノートンにも
同じ感覚があり(苦笑)

いやいや、そんなの吹き飛ばしてくれる
作品を望んでいるんですけどね。

ただ、映画終わって、試写室を出て
習慣のようにスマホの電源を入れるのを
「なんか、やだな」とためらってしまったのは事実。
それはそれで
かなり心にひっかき傷になったかも(笑)


★2/17(金)からTOHIシネマズ六本木ヒルズほか全国で公開。

「セル」公式サイト
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

世界でいちばんのイチゴミルクのつくり方

2017-02-11 23:38:43 | さ行

ほっこり系をイメージすると全然違います(笑)


「世界でいちばんのイチゴミルクのつくり方」40点★★


******************************

ドイツの真ん中にある小さな村。

平和で平凡なこの村に
ある大手企業の人々がやってくる。

彼らはこの村を
「世界一、平凡で平均的な村」として
マーケティングのリサーチ対象にしようと
やってきたのだ。

大人たちは大喜びするが
子どもや老人たちは、すべてを観察され
まるで人体実験をされているようでうんざり。

ついに子どもたちは
大人たちの横暴に立ち向かうのだが――?!


******************************


ドイツ発。
わんぱく子どもたちが、わからずやの大人に挑むコメディ。

想像よりかなり・・・ハチャメチャ、ドタバタです(苦笑)

ええとですね
「おかあさんといっしょ」の強烈版みたいな?


平和な村に、黒ずくめスーツの男たちがやってきて
「現代的なるもの」に侵略され、のびのびした生活が不自由になっていく。

それに対抗する子どもたち・・・というイメージは
やはりドイツ出身の作家
ミヒャエル・エンデの「モモ」を思い起こさせもしましたが

うーん、やっぱりちょっと違うかな(苦笑)
まあとにかく、読めないんですよ。

子どもたちを本当に自由に動かしていて
彼らはキャーキャー騒ぎながら画面を右往左往し(おかしいんだけどね。笑)
おとなたちを翻弄し、
発明もするけど、破壊もしまくる。{/face2_shock_m/


同じ視点を持てる子どもが観ると、
けっこう楽しいのかも・・・と思いました。

あ、アライグマのような
ハナグマがすごくかわいいです。


★2/11(土・祝)から109シネマズ二子玉川ほか全国公開。


「世界でいちばんのイチゴミルクのつくり方」公式サイト
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

海は燃えている

2017-02-10 23:56:43 | あ行

ニュースな現場のドキュメンタリーなのに、
なんと静かで美しいのだろう・・・!


**********************


「海は燃えている」75点★★★★


**********************


アフリカ大陸に近い
イタリア最南端の島、ランペドゥーサ島。

人口5500人の小さな島に
アフリカや中東から毎年5万人もの難民たちが海を渡って押し寄せている。


「ローマ環状線、めぐりゆく人生たち」の
ジャンフランコ・ロージ監督が
その島にカメラを向けたドキュメンタリーです。

アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門にノミネートされ
最有力ともされています。


「ローマ~」を知っている方は
「なるほど」と思うかもしれませんが、
普通に
「難民問題を描いたドキュメンタリー」と思って見ると
きっと想像を裏切ると思うんです。

ニュースっぽさやセンセーショナリズムはゼロ。

本当に驚くほど静かな作品なんです。
しかも詩的というか、美しいくらい。

映画のほとんどは島に暮らす
12歳のサムエレ少年の日常を写していて

野山を駆けまわって遊び、おじさんと漁に出ると船酔いしてしまう
屈託のない少年のキラキラとした日々。
少年の家族の食卓や、ふだんの暮らし。

そんなひとつひとつのシーンは、
まるでアキ・カウリスマキ映画の一コマにも見えるほどで

そんな島の人々暮らしを縦糸に
難民を乗せた船からひっきりなしに鳴るSOS信号や
海上で保護され、島のセンターに移され身体検査を受ける
難民の映像が挟まるんです。

その対比、つながり。
その手法が、見事に響く。
そして、ここで起きている問題に、目を向けさせるんですね。

そこでいま起きていることを知らせるために
こんな方法があるんだなと
思わせてくれる映画でした。


来週2/14(火)にアップされる
通販生活web「今週の読み物」で(現在は「息の跡」(2/18公開)小森はるか監督インタビューになっております)
ジャンフランコ・ロージ監督にインタビューをさせていただきました。

この映画の意図するところ
じっくり聞いておりますので
映画と合わせて、ぜひ!


★2/11(土)からBunkamura ル・シネマほか全国順次公開。

「海は燃えている」公式サイト
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

たかが世界の終わり

2017-02-09 23:48:35 | た行

どこまで走るか
グザヴィエ・ドラン!


「たかが世界の終わり」69点★★★☆


**********************************


12年ぶりに実家に帰ってきた
ルイ(ギャスパー・ウリエル)。

人気作家となった彼は
妹(レア・セドゥ)や母(ナタリー・パイ)
そして兄(ヴァンサン・カッセル)と、兄嫁(マリオン・コティヤール)に
大歓迎される。

だが、そのもてなしは
どこかぎこちなく

ルイはルイで、家族に大事なことを伝えるために
帰ってきたのだが
なかなか言い出せない――。


**********************************


実家と疎遠だった息子の、半日ほどの里帰り。

たったそれだけのことで、これほど観客の心をかき乱してくるとは!
さすが“恐るべき”グザヴィエ・ドラン!といえると思います。


とにかく人物のアップ、寄りの画の応酬で
緊張感途切れず、つんのめるような、目のくらむような感覚がある。

イヤに突っかかてくる兄貴、オドオドな兄嫁、
兄を心酔する妹に、騒がしい母親――。


近すぎるカメラが、どんな家族にもある
家族だからこその距離やイライラを切り取って

そのリアルがすごく、胃の腑にくる。

すべてが印象的ではあるんですが
ただ、主人公が家族に言い出せない「こと」が
あまりに思わせぶりすぎて
イライラがつのりすぎた(苦笑)。


「トム・アット・ザ・ファーム」もなんですが
これも人の原作なんですよね。
ドラン監督の料理の仕方には、好みがあるのかもしれません。


★2/11(土・祝)から新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国で公開。

「たかが世界の終わり」公式サイト
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

サバイバルファミリー

2017-02-08 23:13:08 | さ行

「ロボジー」
矢口史靖監督。


「サバイバルファミリー」71点★★★★


*******************************


東京に暮らす平凡な鈴木家は

父(小日向文世)、母(深津絵里)
無口な大学生の息子(泉澤裕希)と
スマホ命の女子高生(葵わかな)の4人家族。

ある朝、一家が目覚めると
テレビも冷蔵庫も、エレベーターも車も
一切の電化製品が使えなくなっていた。

しかも会社も駅も、すべてが同じ状況。

「すぐに元に戻るわよ」と思っていた一家だが
一週間たっても、電気は戻らない。

不便な生活のなか、父がある決心をし――?!


*******************************


ある日突然、電気が使えなくなったら・・・?!

都会に住む一家の状況を描き
けっこう大まじめに「使える」サバイバル映画。


いやでも震災のあの状況を思い出すし、
あれから6年のいま
すでに備え甘くなっている自分を実感します。


「教訓」をもらえる有益な作品だと思います。



「プッ」とする笑いは、多少あるけど
でもそれよりも
かなりマジに日本列島パニック系。

しかも、その描写がリアル。

たとえば
電気も水道も、すべてのインフラが停止したなかで
普段なら1本200円もしないようなペットボトルの水が
「はい、大特価1600円だよー」と売られているわけですよ
(正確な値段は忘れたけど、そんなもん)。

当然
「ぼったくりだ!もっと普通に安いところがあるはず!」と
お父さん(小日向文世)も、観客も、その売り手を無視するけど
しかし先に進むと、コンビニで1本2500円とかになっている!

見ながら
「ああ、そういうものだよな。ケチらずに、最初で買っとこ」とか(苦笑)
本当に思ったし

真にサバイバルできるのはやっぱり
「農家や漁師など、自然や土地と密接して暮らす人々なんだ」ということも
ふかーく刻まれました。


けっこうシビアでもあるサバイバルのなかで
お母さん役の深津絵里氏が
「根はしっかり者だがほわんととぼけた主婦」として、息をつかせてくれます。

しかしこれを見て、
ワシ7年乗ってた自転車買い換えたし(笑)
農家、やっぱいいなとか思っちゃうし。

生き方、考えさせられますよ。


★2/11(金)から全国で公開。

「サバイバルファミリー」公式サイト
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする