ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

アバウト・レイ 16歳の決断

2018-02-04 00:20:47 | あ行

公開の延期から
ようやく~!のお目見え。


「アバウト・レイ 16歳の決断」69点★★★★


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16歳のレイ(エル・ファニング)は
自分の体に違和感を持ち
ずっと「男の子として生きたい」と願ってきた。

母親(ナオミ・ワッツ)も
同居する祖母(スーザン・サランドン)も
レイの味方で、とっても理解があるけれど

いざ、レイが心も体も男の子になるための
ホルモン治療を希望すると

母親は躊躇してしまい
おばあちゃんは
「レズビアンじゃいけないの?」と言う。

さらに治療のためには
母と昔に別れた、レイの父親のサインまで必要だという。

業を煮やしたレイは
一人、父親に会いに行くのだが――?!



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「リトル・ミス・サンシャイン」の製作チームによる作品。


非常に現代的なテーマで、

心は男なのに、女の子の体を持って生まれた
トランスジェンダー(FTM)のレイを
エル・ファニングがビビッドに演じています。

レイを「息子」として受け入れる
母(ナオミ・ワッツ)は立派だし

おばあちゃん(スーザン・サランドン)が
レズビアンってのも面白い設定。

しかし
そんな理解ある一家にも
世代間の「理解」の限度や温度差があったり
いざ「治療」となると迷ってしまったり。

さらに、その背景には
母親自身の過去の過ちが――?!とか

いろいろと練られてはいるのですが

やっぱり
ちょっと脚本が弱い!のが残念。


せっかくいい役者揃いなのに、
いいセリフがないのが惜しいんですよ。


もともとこの作品には紆余曲折があったそうで
2015年に一度完成していたものが、17年まで公開延期。
日本でも16年に公開予定だったものが
いまのタイミングになったんですね。

2015年の段階で
完全にレイにスポットを当てていた話を
その後、
母子三世代の話にシフトさせたそうなんですが

といっても、このスター俳優たちを揃えて
撮り直しをしたわけじゃないだろうなあと思うし
素材を換骨奪胎しすぎてしまったのかなあ、という印象もある。


ただ、
きれいごとでない当事者たちの苦しみは十分に伝わるし

“男の子”なエル・ファニングの
ざっくりしたしぐさや、話し方、そのたたずまいが
ドキッと魅力的なのはたしかです。


★2/3から新宿ピカデリーほか全国順次公開。

「アバウト・レイ 16歳の決断」公式サイト
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苦い銭

2018-02-03 14:30:10 | な行

163分で観客は、
このほの暗い路地で暮らす一人になっていく。


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「苦い銭」72点★★★★


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「三姉妹~雲南の子」(12年)「収容病棟」(13年)などで知られる
ワン・ビン監督が
中国・淅江省(せっこうしょう)の縫製工場で働く
人々を写したドキュメンタリーです。

2時間43分(!)をじっくり味わう
相変わらずのワン・ビンの超・観察っぷり。


浙江省・湖州は縫製工場の町で
30万人を超える出稼ぎ労働者が働いているそう。

みな
田舎から出てきて、狭い寮をあてがわれ、
コミュニティを作って暮らしている。

そんななかで
果てのない夫婦ゲンカにハラハラし
ミシンの下で布地を複雑に動かし、瞬く間に“洋服”にしていく
人々の手に感嘆し、

長時間労働に付き合い
時にウトウトしながら(ははは。笑)、

完全に自分が、このほの暗い路地の、
この場所で暮らす一人になっていく。

その感覚が
とてつもなく不思議でおもしろい。


働けど、働けど、暮らし楽にならず。
でもみんな、必死に働いている。

嗚呼、自分と同じだ、と思う。


「仕事とは、生きること」。
改めて感じつつ、
なんでか、
じんわり熱いものがこみあげてくるのでした。


★2/3(土)からシアター・イメージフォーラムほか全国で公開。

「苦い銭」公式サイト
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ローズの秘密の頁

2018-02-02 23:20:51 | ら行

ジム・シェリダン監督は
「THE PROMISE 君への誓い」テリー・ジョージ監督の盟友。

奇しくも、同日公開!


「ローズの秘密の頁(ページ)」71点★★★★


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1980年代、
アイルランドのある精神病院に
老女ローズ(ヴァネッサ・レッドグレイヴ)が暮らしている。

彼女は
「自分の赤ん坊を殺した」罪で
ここに40年間!収容されているが

しかし、彼女はそのことを否認し続け、
密かに日記を記していた。

新しく彼女を看ることになった
精神科医のスティーヴン(エリック・バナ)は
ローズの過去に興味を抱く。

そして、次第に彼女の驚きの過去が
明らかになり――?!


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「マイ・レフトフット」(89年)
「父の祈りを」(93年)
そして「イン/アメリカ/三つの小さな願いごと」(03年)などの
アイルランド出身の名匠
ジム・シェリダン監督作品。


アイルランドの精神病院に40年も収容されていた老女。
その過去に一体何が――?!

アイルランドの歴史を背景に、
厳格な宗教規範と、閉鎖的な社会で起こる悲劇を
ドラマチックに織り上げます。


教会に取られた子どもをめぐる
ジュディ・デンチの「あなたを抱きしめるまで」(14年)も同じ問題を扱っていて

さまざまな作品が歴史背景のなかでつながるのも
おもしろいなあと。

そして
40年前の主人公を演じるルーニー・マーラが
強さとはかなさを併せ持つ役柄を
見事に体現していて、美しかった!


奇しくも同じアイルランド出身で
「父の祈りを」で脚本も担当した
盟友テリー・ジョージ監督の「THE PROMISE」が同日公開。

テリー・ジョージ監督はインタビューで
「ストーリー・テリング好きなのは、アイルランド人の気質!」とおっしゃっていましたが

まさに!

この歴史背景×ドラマチックさ。
扱う題材、基盤は変化していても

通底するものが、確かにあるなあと感じ入りました。

併せて観ると、よりおもしろいかもです!


★2/3(土)からヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国で公開。

「ローズの秘密の頁」公式サイト
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THE PROMISE 君への誓い

2018-02-01 23:05:05 | さ行

「ホテル・ルワンダ」(04年)の監督が
再び“虐殺”をテーマに!


「THE PROMISE 君への誓い」75点★★★★


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1914年、南トルコ。

将来有望なアルメニア人青年ミカエル(オスカー・アイザック)は
医学を学ぶために
イスタンブールにやってきた。

彼は下宿先の家で
ヨーロッパ育ちの快活な女性アナ(シャルロット・ルボン)と出会う。

最初からどこかピンとくるものを
感じ合った二人だが
アナにはアメリカ人ジャーナリスト(クリスチャン・ベイル)という恋人が、
ミカエルにも
故郷に残してきた婚約者がいた。

そのうち
国内でアルメニア人への弾圧が高まり、
ミカエルは強制労働へと送られてしまう――。


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「ホテル・ルワンダ」のテリー・ジョージ監督が、
1915年、150万人が犠牲になった
オスマン帝国(いまのトルコ共和国)による、アルメニア人大虐殺を描いた作品です。

トルコ政府が
虐殺の事実を認めていないこともあり、
世界的にもあまり知られていない話で、

ワシも最近では
ファティ・アキン監督の
「消えた声が、その名を呼ぶ」(15年)
初めて知った。


アルメニアにルーツを持つ
カナダのアトム・エゴヤン監督の
「アララトの聖母」(02年)も
この話を描いているんですね。


でも、この映画
そうした歴史を背景にしつつつも
重く苦しいだけでなく

リアルにジリジリする男女の切ない愛や運命を
見事に織り込んであるんですねえ。



「タイタニック」なみのドラマチックもあり

こんな状況でも
「人って、こうやって生々しく、
生きてるんだよな」と思える。


そのおかげで
「歴史」がこちらの心に刻み込まれる。


それこそが、監督の意図だろうなと
さすが、うまいなあと感じ入りました。


そして。テリー・ジョージ監督に
「AERA」(2/10発売号)で
インタビューをさせていただきました!


ロヒンギャ問題などがリアルタイムに起こっているいま
なぜ、虐殺という題材を描き続けるのか。
そして
なぜ、悲劇は繰り返されるのか。
我々は、そのなかで、どう行動すべきか。

伺うことができましたので
ぜひ
インタビューをご一読いただけますれば!


★2/3(土)から全国で公開。

「THE PROMISE 君への誓い」公式サイト
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