ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

THE GUILTY ギルティ

2019-02-19 23:53:04 | か行

・・・・・・緊迫した!

 

 

「THE GUILTY ギルティ」71点★★★★

 

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デンマークの緊急通報司令室で

日々、市民からの電話を受けている

オペレーター、アスガー(ヤコブ・セーダーグレン)。

 

彼は元・警官だったが、ある事情で一線を退き、

オペレーターをしていた。

 

ある日、アスガーは1本の電話を受ける。

それは「いま、まさに誘拐されている」ある女性からの通報だった!

 

彼女と通話だけを頼りに、その場所を割り出し、

事件を解決しようとするアスガーだったが――?!

 

 

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デンマーク発のサスペンス。

 

 

警察の緊急オペレーターにかかってきたSOSの電話。

誘拐された女性が、ギリギリの状況でかけてきたらしい。

電話を受け主人公アスガーは

通話だけを頼りに彼女を助けようとするが――?!というサスペンス。

 

緊急コールセンターを舞台にした映画では

最近のハル・ベリー主演の「ザ・コール 緊急通報司令室」が思い浮かびますが

確かにシチュエーションは似てるけど

本作はホントに極限まで

「音だけ」を頼りにしてるところがポイント。

 

さらに

オペレーターである主人公アスガー自身が

なにやら事件を起こして、この部署に飛ばされてきたらしく

ワケありな感じなのが、第二のポイント。

 

そのアスガーが、事態を自分で解決しようとヘタに立ち回り、

結局、思い込みと、尊大さから

重大ミスをやらかしちまうとか

 

「音のみの世界」という手法だけに頼ったサスペンスでなく、

人間が往々にしてやらかす「愚かしさ」まで、

しっかりあぶり出されているのがよいと思いました。

 

ワシも途中まで、完全に誤解してたし

すいません!と思いましたわー

 

そして、主人公アスガーを演じたヤコブ・セーダーグレンが、

渋くて、いいんすよ。

 

★2/22(金)から全国で公開。

「THE GUILTY ギルティ」公式サイト

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半世界

2019-02-15 23:42:01 | は行

さあ、「普通」がこんなにおもしろいですぞ!(笑)

 

「半世界」76点★★★★

 

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とある山間の地方都市。

紘(稲垣吾郎)は、父から受け継いだ炭焼き窯で

備長炭を作る炭焼き職人だ。

 

ある日、自衛隊員として海外派遣されていた

旧友・瑛介(長谷川博己)が

突然、町に帰ってきた。

 

紘は地元の旧友の光彦(渋川清彦)にも声をかけ、

紘の妻・初乃(池脇千鶴)の手料理で、久々の酒を酌み交わす。

が、瑛介の表情は硬く、暗く、

何か深い事情があるようだった。

 

事情を聞くに聞けない紘たちは

いろいろ瑛介の世話を焼こうとするのだが――?

 

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阪本順治監督。

安心品質、は想像してたけど、それ以上でした。

 

稲垣吾郎氏、長谷川博己氏、渋川清彦氏、そして池脇千鶴氏――

みんな、いい!(シンプルだな、おい。笑)

 

舞台となる山村も、そこに居る人も、しっかり「存在」していて

心のなかに、ずっと彼らのいた形跡が残るような。いいっしょ?w

 

 

ワケありらしく故郷に戻ってきた親友・瑛介(長谷川博己)を、

悪友たち(稲垣吾郎、渋川清彦)が気にかけてやる。

 

瑛介の事情は深そうで

「何があったのか」なかなか話を聞き出せないけど

しかし、故郷で人生やってきた悪友たちにも

いろいろうまくいかないことはあるんだよなあ――と、いうお話。

 

まず炭焼き職人という

仕事設定にすごく惹かれるものがあった。

 

地元で40年、それなりに生きてきた彼の

やや惰性と諦めに傾いていた日常が

旧友の帰還をきっかけに、すこーし変わっていく、

その過程も丹念でよかった。

 

演じる稲垣吾郎氏も

いやいや「フツー」をうまくこなしていて、びっくりしました。

 

地場産業の職人には、ずっと尊敬と憧れがあったけど、

監督は、その状況の大変さもしっかり見せてくれて

ちょっと切なくもなったなあ。

(そうか、焼肉屋が閉店したら、炭も切られるんだ!とか

新規開拓の営業に行くところとか。

うう、フリー稼業はつらい!

 

元自衛隊員で、

意外な武闘派っぷりをみせる長谷川博己氏も

前半の沈黙から一転、

後半は「シン・ゴジラ」を思わせるハキハキ体育会系&キレた芝居で魅せるし

 

なにより、池脇千鶴氏のすごさに目を奪われた。

 

地方主婦のもっさり&どっしり感を漂わせつつ、

かわいらしさと艶もあって

 

夫と向き合ってミカンを食べながら、

「なーに馬鹿なこといってんの」と一笑に付す

あのシーンに

ワシ、樹木希林さんの片鱗をみましたよ(なんか、嬉し涙)。

 

★2/15(金)からTOHOシネマズ日比谷ほかで公開。

「半世界」公式サイト

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盆唄

2019-02-14 22:31:06 | は行

 

「ナビィの恋」中江裕司監督が、福島を撮った。

 

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「盆唄」70点★★★★

 

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2015年、福島県の双葉町。

帰還困難区域に指定されたこの町には

かつて「双葉盆唄」が歌い継がれていた。

 

双葉を離れ、いまも避難生活を送る横山久勝さんは、

盆唄に欠かせない太鼓作りの名手だったけど

いまはもう作ってはいない。

町民たちは散り散りになり、盆唄は存続の危機にあった。

 

そんなとき、横山さんたちは

ハワイの日系移民の間に盆唄が受け継がれていると知る――。

 

沖縄をベースに作品を撮ってきた中江監督が福島を撮る?どんなんだろう?と思ったら

やっぱり

普通のドキュメンタリーとはひと味もふた味も違っていた。

 

舞台はハワイに飛び、富山に飛び

アニメーションが挟まるわ、歌のステージがはじまるわ

やっぱり中江監督らしいかも(笑)

 

震災、原発事故、避難民、という悲劇はあっても

映画に悲壮はなく、

写る人々も、写す目線にも、やっぱり人肌のぬくもりがあって

あったかい。

 

100年以上も前にハワイに渡り、福島とハワイをつないでいた「盆唄」。

さらに我々は、双葉町の相馬地域の人々が

200年以上前に大凶作や疫病にみまわれ

富山に移民として渡ったという歴史の事実も知ることになる。

 

人の世にはこうして

長い長い時間をかけて、「継がれていくもの」が確かにある。

そして、人間って、けっこう強い。

 

そこに、希望があるんだと

ほわ、っと思えました。

 

おなじみ「AERA」の「いま観るシネマ」で

中江監督にインタビューをさせていただいております。

なぜ、福島にカメラを向けたのか。

帰還困難区域に初めて足を踏み入れたときのこと――

そして、待望の次回作のことまで

お話を伺っております。

 

2/25発売予定です。ぜひ映画と併せて、ご一読くださいませ~

 

★2/15(金)からテアトル新宿ほか全国順次公開。

「盆唄」公式サイト

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女王陛下のお気に入り

2019-02-13 23:30:38 | さ行

 

「聖なる鹿殺し」ヨルゴス・ランティモス監督、最新作!

 

「女王陛下のお気に入り」73点★★★★

 

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18世紀初頭のイングランド。

フランスとの交戦で揺れる国家を

アン女王(オリヴィア・コールマン)が治めていた。

 

17人もの子どもに先立たれた女王は

幼なじみのレディ・サラ・チャーチル(レイチェル・ワイズ)が心の拠り所であり、

それを承知のサラは、陰で完全に女王を操っていた。

 

ある日、サラは宮廷にやってきたアビゲイル(エマ・ストーン)を

召使いとして雇ってやる。

 

が、あることから女王に気に入られたアビゲイルは

サラの立場を脅かす存在になってゆき――?!

 

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「ロブスター」「聖なる鹿殺し」のヨルゴス監督が

アン女王の寵愛を巡る、女の駆け引きを描いた作品。

かなりの部分、史実だそうで

 

うへえ、女って怖え~という(苦笑)。

 

監督、得意の不遜と皮肉で

馬鹿馬鹿しく愚かしい人間の営みを、まあ~期待どおりに(笑)

いや~な感じで描いてくれてます。

 

宮廷での権力争い、しかも女同士のマウンティング、という題材は普遍だし

過剰なまでに絢爛豪華な美術と衣装に

人間のバカバカしさ、愚かさが、よく映える。

 

十分におもしろいのだけど

 

ワシ的には、逆に時代をここにしたことで

痛烈な風刺性や

本来は社会に滲み出るべきではない、でも確かにそこにある汚濁や生臭さの露呈――といった

監督の持ち味が、若干薄れてしまった、気もする。

(だってこの時代、当たり前に社会も人間関係も汚泥ドロドロだもんねー)

 

が、それを含んでも、やっぱり

孤独でイケてないアン女王を演じた

オリヴィア・コールマンは必見すぎる。

 

フリルだらけのペチコートの下にある

ある種、腐敗や臭気まで感じさせ、

かつ哀しみにも同調してしまう、快演。

 

そして

権力者の寵愛を得るための、この争いの、勝者は誰なのか?

結局、従属の構図は、変わらないのか――?

 

その後味は、しっかり現代に通じていくのでした。

 

★2/15(金)から全国で公開。

「女王陛下のお気に入り」公式サイト

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ナポリの隣人

2019-02-09 23:27:49 | な行

 

「家の鍵」のジャンニ・アメリオ監督。

容赦ない。

 

「ナポリの隣人」72点★★★★

 

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南イタリア、ナポリ。

老人ロレンツォ(レナート・カルペンティエーリ)は

街中のアパートに独りで暮らしている。

 

妻はすでに亡くなり、

娘(ジョヴァンナ・メッゾジュルノ)や息子との関係も冷え切っていた。

 

そんなある日、ロレンツォは

若い女性ミケーラ(ミカエラ・ラマッツォッティ)が

アパートの階段に座っているところに出くわす。

 

最近、幼い二人の子と夫と向かいに越してきたというミケーラは

鍵を忘れて、家に入れずにいた。

 

ロレンツォは彼女を家に招き入れ、

向かいとつながっているバルコニーを開けて、彼女を家に入れてやる。

 

そんな縁で、ロレンツォは彼女の家族と

つかの間の交流を始めるのだが――?!

 

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「家の鍵」(04年)や

カミュの「最初の人間」(11年)など

人間を描いてきたイタリアの名匠ジャンニ・アメリオ監督の新作です。

 

偏屈じいさんの向かいに越してきた若い家族。

まあ普通なら

お隣との交流を通じて、じいさんにちょっとした変化が――?とかにいきそうなものですが

いや、ここには、安易な心の通じ合いなどないのです(キッパリ)。

 

 

じいさんも、若い家族も、じいさんの本当の家族も

誰もが心を真に明かすことはなく

触れ合いそうで、触れ合えない。

 

そんななか、「えっ?!」という事件が起きる。

 

 

クールなまでに容赦ない描き方なんですが

まあ、それが実際だよな、と思わずにいられない。

 

実際、ニュースでまさにいま

「いいお父さん」に見えていた人が子どもを殺しているのが現実ですから。

 

人と人とは、安易に通じ合えない。

人の心は簡単にはわからない。人と人は簡単には通じ合えない。

 

そのもどかしさ、コミュニケーション不全は、

まさに現実を生きる人間の息遣いそのもので

そのリアルが、

心にしみじみと深い波紋を残すんです。

 

そして、こんな世でも最後に、ごくごく薄く残るものが

「希望」だと信じたい。

と、思うのもまた、人間なんだろうな、と。

監督はすべてをわかっているようです。

 

★2/9(土)から岩波ホールほか全国順次公開。

「ナポリの隣人」公式サイト

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