ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ファースト・マン

2019-02-05 23:56:44 | は行

「ラ・ラ・ランド」監督×ライアン・ゴズリング主演。

 

「ファースト・マン」71点★★★★

 

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1961年。空軍でテストパイロットを務める

ニール・アムストロング(ライアン・ゴズリング)は

危険ギリギリの飛行をこなし、家族を養っていた。

 

そしてある出来事から、彼は

NASAの宇宙飛行士に応募する。

 

テストを突破した彼は、宇宙飛行に向けての訓練を開始する。

 

想像を絶するハードな訓練のなか

ともに歩んできた友人が、訓練中の墜落事故で命を落とす。

 

辛さと苦しみのなかニールは訓練を続け、

ついに、アポロ計画の船長に任命されるのだが――?!

 

 

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1969年に人類初の月面探索をしたニール・アームストロングの物語を

「セッション」「ラ・ラ・ランド」の監督が映画化。

 

狭いコクピットに収まり、

「どうなるか、誰にもわからない!」前人未踏の世界に旅立つ、いう

宇宙飛行のドキドキをリアルに体感する

「体験型」ムービーなんですが

 

これが最先端アトラクションじゃなく

花やしきのレトロな乗り物のように

恐ろしくアナログ!なところがミソ。

 

いま見るとギャグか?ってほどに「ポンコツ」な宇宙船に乗せられ

モルモットのごとく

「国のため」に消費される宇宙飛行士を見るにつけ、

ホントによく行ったな・・・・・・!そう思わずにいられない。

 

デイミアン・チャゼル監督は、

そんな宇宙飛行士の悲哀、

なぜ、そうしなければならなかったのか――そこにあった宇宙開発の政治利用や、社会的背景を声高にはしない。

 

そうしたドラマを、エモーショナルに盛り上げるのではなく、

ファクトを積み上げる実直な方法で、この物語を描いている。

 

ともすれば「退屈」になるこの手法で

目だけでエモーショナルを表現できる俳優ライアン・ゴズリングが、

映画の感情の全てを担っているんですなあ。

 

これは

このコンビならでは、の功績といえる。

 

熱い感動!というのとはちょっと違うけど

「ものごとの最初」が、いかに大変で、大きなことなのか

そして

歴史的出来事に、新たな視点を与えたことには間違いない、と思います。

 

★2/8(金)から全国で公開。

「ファースト・マン」公式サイト

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眠る村

2019-02-02 19:27:13 | な行

怖い。この村が。人間の心が。

 

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「眠る村」70点★★★★

 

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1961年、村の懇親会で

ぶどう酒を飲んだ女性5人が死亡した「名張毒ぶどう酒事件」。

その真相を追うドキュメンタリーです。

 

事件の名前と、概要は聞いたことがあったけど

詳しくはまったく知らなかったので

非常に興味深く見ました。

 

 

事件が起こって6日後、村の男性・奥西勝(当時35歳)が逮捕される。

奥西という人は、村に妻と愛人がいたそうで

「その三角関係を清算するためにやった」と

一度は自白をするんですね。実際、奥さんと愛人は事件で亡くなってる。

 

でも公判で「自白は強要されたものだ」と訴え、

一審では無罪となるも、二審では死刑判決。

最高裁は上告を棄却し、1972年に死刑が確定した。

その後も奥西氏は毎日、毎日を「今日が執行の日か」とおびえながら

獄中で無罪を訴え続けたんです。

 

で、2015年に獄中で肺炎で亡くなった。享年89。

 

さあ、真相はどうなのだろう?と

制作者である東海テレビが検証していくんですが

ここまで推理小説顔負けのミステリーだとは知らなかった。

 

まず驚いたのは

ぶどう酒っていうから赤色かと思ってたら

白ワインなんですよ!

それすら、間違ってたワシだけど、

なんだか検証を見ていると

それに似たような、嘘っぽい証拠や証言がボロボロ出てくる。

 

最初こそ「愛人と本妻ねえ・・・・・・」とか、若干色眼鏡で見ていたけど

(実際、コノ方、ちょっとした甘めの男前)

村人は割と性的にオープンで、こうしたことはよくあったらしく

三人の関係も「みんなが知ってたさ」と証言されるんです。

「じゃあなんで、殺す必要があったのか?」って疑問が出てくる。

 

さらに

「毒となった農薬」「その混入方法」「村人の証言」――

なんだか、よってたかって、奥西氏を犯人にしようとしてないか?

さすがのワシでも気づいてきますわな。

 

 

そして、だんだんわかってくる。

「“生け贄”が必要だったんだ」――ってこと。

村人は村の平穏のために、検察は手柄のために

彼を人身御供とすることにしたのではないか?と。

 

人間の心は、げに、怖い――。

50年以上経ったいまも、この事件を究明しようとする動きが止まない理由は

そこにある気がします。

 

それに100%彼が無実かだって、わからない。

彼じゃないならば、一体誰が、犯人なのか?

何のために?

 

結局、真相はいまも藪の中。

哀しきミステリーは、どこまでも黒く、だからこそ人を惹きつけるのかもしれません。

 

★2/2(土)からポレポレ東中野ほか全国順次公開。

「眠る村」公式サイト

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ともしび

2019-02-01 23:13:57 | た行

シャーロット・ランプリング主演。

そりゃ、観るしかない!と行くと衝撃かも。

 

「ともしび」72点★★★★

 

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ベルギーの小さな街に暮らす

初老の女性アンナ(シャーロット・ランプリング)。

 

いつものように夫と静かな夕食を囲んだ翌朝、

二人はある場所へ向かう。

そして、そのまま夫は帰ってこなかった。

 

ひとり家に帰ったアンナは

飼い犬に餌をやり、演技クラスに通い、プールで泳ぎ、

淡々と普段の生活を続ける。

 

が、その日常に生じた、かすかなひびわれは

じわじわと、彼女を侵食してゆく――。

 

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シャーロット・ランプリング主演。

老境にさしかかった女性の心象を描く点で

「まぼろし」(00年)、「さざなみ」(15年)の系譜につらなる、というのは

確かにそうなんだけど

そりゃ観るしかない!と、いさんで行くとけっこう衝撃かもしれない。

 

1982年生まれのアンドレア・パラオロ監督のアプローチは

かなり実験的というか、野心的なんです。

ギョッとさせる冒頭からして、挑戦的だしね。

 

老夫婦の夫が、ある朝どこぞに行き、そのままいなくなる。

その後は彼女一人の暮らしが淡々と続く。

 

なぜそうなったのか、なにがあったのか

なにひとつ説明されない。

 

セリフもほぼなく、究極にそぎ落とされ

そのなかで、身ひとつをさらしているのが

シャーロット・ランプリングなんです。

 

まあ、なにがあったか、おおよその見当はついてきます。

夫はどうやら何かの罪で収監されたらしい。

そのことで彼女は息子家族たちにも拒絶され、孤立していく。

さらに彼女のまわりからは

プールの会員権が消え、犬が消え、あらゆるものが失われてゆく。

 

枯れる花、プールの更衣室、浜に打ち上げられたクジラ――など

老いと若さの比較や、死のイメージも繰り返される。

 

意地悪いほどに突きつけられる「現実」のなかを

語らず、硬質な表情のまま、感情を見せず、ひとり歩く彼女の全身に

人生や老いなど、誰もに共振するテーマが映り込む。

それがひんやりと、静かに響くんです。

 

実際に肉体をさらすシーンも、ハッとさせて忘れがたく

なんだか全体的に

彼女の身体パフォーマンスアートを観たような感覚にもなりました。

 

シャーロット・ランプリングとイザベル・ユペールは

ワシにとって、もはや生きるための勇気であり、希望であり指針なんで、マジで(笑)

 

★2/2(土)からシネスイッチ銀座ほか全国順次公開。

「ともしび」公式サイト

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