天空☆faya-y的毎天☆

~faye-yの日常~ 天空疊著層層的思念。

村木嵐『遠い勝鬨』

2012-03-27 20:40:26 | 
遠い勝鬨
クリエーター情報なし
文藝春秋


松本清張賞受賞の著者、二作目の長編歴史小説。

“知恵伊豆”この賢者なくして「徳川の平和」はなかった。老臣たちの権謀を抑え、江戸城下の建設に腐心する松平信綱に最大の試練「島原の乱」が迫る。松本清張賞作家が為政者の真の勇気を問う意欲作。amazonより

以下、ネタバレあり。要注意。


帯には、松平信綱が主役のように書いてありますが、真の主役は信綱が養子のように手をかけて育て上げた医師・健之丞だと思います。健之丞は、信綱の願いもあって西国・長崎まで蘭学を学びに行きます。しかし、幼児洗礼を受け、母親はキリシタンとして首をはねられた過去を持っていたことが物語の中盤以降明らかにされるのです。そして、時代は島原の乱に向かって動き始め…。
天正遣欧少年使節団が禁キリスト教の時代に生きた姿を描いた前作に続き、今作も禁教下の切支丹についての作品です。当時の「信仰」を描くことはとても難しいと思います。読み手である現代の私たちにとっては価値観も環境も違いすぎるのです。でも、この作品中においてはそのあたりが自然に描かれています。健之丞のとまどいを読者も共有できるからです。幼児洗礼でその後、母の死以外キリスト教に接していない(はずの)健之丞がなぜ自身を切支丹と言い切ることができるのか。私はそれを母への想いだったと受け取りました。健之丞にとって信仰は遠いものではなく、母への思慕から発したものであるからこそ、最終章につながったのでしょう。
最後、殉教という自己のための犠牲ではなく、命をつないだ健之丞の見た光景が映像のように広がり、物語に余韻を残します。
とても厚い歴史小説でした。
コメント (6)
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