犀のように歩め

この言葉は鶴見俊輔さんに教えられました。自分の角を道標とする犀のように自分自身に対して灯火となれ、という意味です。

ロックフェラーの招聘

2017-05-07 10:03:58 | 日記

日清、日露戦争では軍事探偵として蛮勇を振るい、浪曲にもその活躍ぶりがうたわれた中村天風でしたが、太平洋戦争には終始批判的な立場を貫いたため、公安に睨まれる存在になっていました。要人に多くの弟子を輩出したとはいえ、敵国の将兵を特別扱いすることは、覚悟のいる行為だったはずです。
さて、天風が不時着したB29に載っていた飛行中尉を救った話には、後日譚があります。

GHQのアイケルバーガー中将が天風を訪ねた後ほどなくして、スター・アンド・ストライプス主催の、中村天風講演会が開かれることになりました。
この講演に、来日中のロックフェラー三世夫妻が同席しており、天風の話に深く感銘を受けた夫妻は、いっしょに食事をしたいと申し出ます。
ウォール街に君臨するロックフェラー家直系の大富豪であっても、悩みは尽きないのだと、食事の席で夫妻は天風に訴えるのでした。

夫人がため息をついて述懐します。
「悩みは、主なものでも百ぐらいあります。一番目が、自分たちがどれくらい財産を持っているのかわからないこと。二番目が、いつ死ぬかわからないことです」
そして、こう続けるのでした。
「いくら財産があろうと、病だけは予防できないで困っていました。ところが、あなたの講演を聞いて安心できる気持ちになりました」

講演のなかで天風は、心の大掃除をすることの大切さを説いていました。
「心の中を掃除しないで、汚れるままに放置しておくと、たとえどんなに学問をしようと、どんなに財産ができようと、毎日が少しも安心した状態で生きられないものだ。はた目には羨ましく見えても、本人にしてみれば惨憺たる人生でしかないのだ」
心のなかのネガティブな要素を掃除しないでいると、充実した人生を送れないばかりか、病さえも呼び寄せてしまうこと、そうならないための具体的な方法を、天風は講演で語っていました。その話が実践的であることに夫妻はいたく感銘を受けたのです。

ロックフェラー三世はその後、天風をロックフェラー財団に再三招聘しましたが、天風は日本での活動を最優先したいという思いから、これに応じることはありませんでした。
巨万の富を築いても、心をいつも掃除して負債を背負いこまないように、ロックフェラー夫妻にアドバイスして、丁重に断り続けたのだそうです。

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