弁護士太田宏美の公式ブログ

正しい裁判を得るために

NSAの通話メタデータ収集は違法と連邦高裁が初判断

2015年05月10日 | 日記

NSAの収集活動はCIAの元コントラクターのエドワード・スノードンが
2013年6月に暴露して発覚したものですが、その違法性についての初めての
高裁判決がありました。ここをどうぞ。

NSAは、9・11の同時テロを受けて制定された愛国者法(the PATRIOT ACT)

215条に基づいて作成した大容量電話メタデータ収集プログラム(the bulk telephone
metadata collection program)により、毎日(on an ongoing daily basis)大量の
(in bulk)電話メタデータ(telephone metadata)を収集し、後日検索(query)できるよう
データバンクに纏めていたのです。

このような活動は法律違反であり憲法違反であるという原告・控訴人の主張に対し、
ニューヨーク・ベースの連邦高裁は高裁段階として初めて法律違反と認めたものです。
つまり、このようなプログラムは愛国者法215条の規定範囲を超える(exceed)と判断
したのです。ということで憲法違反かどうかを判断するまでもないとして、原審を取消し、
差し戻しにしました。 

根底には国家・国民の安全(テロからの)と個人のプライバシーの保護とのバランスを
いかにとるかがあります。 

前提事実について

メタデータは電話の会話の内容を含みませんので盗聴とは異なりプライバシーの侵害
にはならないと、オバマ大統領も擁護していました。
これについて、判決はまずメタデータとは何かを検討しています。
データ(通話の内容)そのものではなく、メタデータはデータについてのデータなのです。
つまりは通話の日時・長さ、発信者の電話番号・ 受信者の電話番号などです。

個人の名前や個人の特定は含まれていませんが、識別番号を通してユーザーを知ることは
可能です。また、ルーティングを通じて通話者の住所(general location)(通話をしているときの
特定の場所ではない)はわかります。
電話の利用者は電話を利用することによってこれらのネットワークに自動的に組み込まれて
しまいます。その結果、自らの情報を第三者にさらすことにならざるを得ないというわけです。

また、ホットラインのような一つの目的のための電話番号の場合(いろいろありますよね)は
個々の具体的な通話の内容は知らなくても、番号だけでその内容が「何に関するものか」は
わかります。 
また一方の当事者Aの情報が知れている場合、AとBの通話の具体的内容が分からなくとも、
通話はAの業務内容に関するものである可能性が高いと推測されるので、他方の当事者Bの
特定の一情報となり得るのです。

つまり、メタデータは情報処理技術の急速な進歩(現在も進行中)により、一見無価値に見える
情報がほかの情報と絡むことによって、個人を特定する貴重な情報に化けるという特性を持っている
ことです。そういう意味で従来型の情報収集とは全く次元が異なっていると判決は分析しています。
そして、現在の情報社会では、個人はメタデータを作らないで生活する方法がないということです。

 

NSAに情報収集の命令をするのは通常の裁判所(憲法3条の)ではなく、特別の裁判所
(the Foreign Intelligence Surveillance Court)ですが、
215条の規定は、その情報(ここでは電話のメタデータ)と捜査との関係(relevant)を示すこと、
つまり、「records be relevant to an authrized investigation
を求めています。
なお、この命令の効力は90日ですが、本件の場合、これまで41回更新されているということです。
いかに形式的かがわかります。 

次に、本件プログラムについて検討しています。
本件で問題となっているのは、さしあたりベライゾン(Verizon)だけですが、
その命令によると対象は、「all call detail records or telephony metadata」となっています。
メタデータ には電話番号、日時、長さはもちろんのこと、truck identifier や comprehensive 
communications rouing information を含みますので、上記のとおりいろいろな情報が
分かる仕組みになっています。
収集した情報を使用するのは、実際に外国のテロリスト組織との疑惑が起こったときです。
その場合は、最初の番号、次に最初の番号とコンタクトがあった番号、さらにその二番目の
番号とコンタクトがあった番号までクエリーできるとされていた(発覚後2番目までに限定)。


判断について

結局、NSAのメタデータの収集の目的は、いつか必要になるかもしれない捜査のために、
必要となった時に過去に遡ってきっかけを調べることができるように、
要するに膨大なデータベースを作ることだと、いうのが裁判所の判断です。
いつ起こるかわからない、そもそも起こるかどうかもわからない、また起こるにしても
そこでどのような形でかわからない、そのようなときのために必要となるかもしれない
捜査のため、というのです。
NSA側は要するに反テロ調査という一つだけの目的があると主張しているようですが、
これではやはり全く具体性がないですよね。
215条はそのような捜査をオーサライズしていないと判断しています。もっともです。
 

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日本でもそうですが、裁判というものは具体的ケースについての判断です。
高邁な法律論が聞かれればいいのですが、実際は着実で地味な事実の認定、
法律の分析、適用の作業です。
ということで、215条の条文の解釈が問題になるわけで、当然使われている「文言」
の細かな解釈が重要になりますが、あまり面白くないですよね。

ただ面白いのは、アメリカは判例法の国だからでしょうか、成文法の解釈をするにしても
日本よりも背景等について広く細かく論じる傾向があるようです。
そういう意味ではくどいかなと思うほど説得的です。 

もう一つ、民事であっても、可能な限り、事実及び法律解釈についてあらゆる主張を
しています。
私は、弁護とはそういうものだと理解していますが、日本の実情をみていると
かなずしもそうではないところもあるようで、ちょっと残念かなと思います。
逆に、何でもしてもいいと思っている例もあるようで、それもとても残念な動きです。

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時間もみてもう少し読み込んでみようと思います。