日ロ平和条約締結の大前提である北方領土に関する前哨戦が繰り広げられている。
プーチン大統領の呼び掛けに端を発した日ロ平和条約交渉は、ラブロフ外相の「ロシアが領土を手放すことは無い」との強硬発言で頓挫した感があることから先行きは絶望と考えてはいるが、その後にロシア側から実務者協議継続の提案がなされたことから、今回のロシアの戦略がおぼろげながら見えてきたように感じる。想像できるロシアの戦略は、北方4島のうち2島(歯舞・色丹)をソ連版”香港”とすることで、領土問題の棚上げ・恒久化を狙っているものと推測する。香港の返還を振り返れば、統治権はイギリスから中国に返還されたが、中国は香港市民懐柔のために「1国2制度」を容認して時間を掛けて香港の完全中国化を目指している。言葉が適当かどうかは分からないが、所有権は中国にあるが借地権を香港市民に与えるもので、ロシアの戦略も北方4島の所有権はロシアが持ち続けるが2島に限り日本に借地権(所有権が許容する範囲)を認めて、国後・択捉の2島については日本側の返還要求を取り下げることが最大の譲歩と考えているものと思う。ロシアの考えている1国2制度がどのようなものか、日本に認める権益がどの程度かは現時点ではっきりしないが今後の実務者協議の場で小出しにしてくるものと思われる。共同統治という概念は存在するが現実世界ではあり得ない。1000年以上にも亘って、多くの血を流して来た歴史を解決しようと企図したエルサレムの宗教に限った共同管理体制すらも破綻したのが現実であることを考えれば長続きしない方法であるとは思うが。
現在、日本ではロシアの平和条約交渉の態度を1国2制度の提案とは受け取られていないようで、4島一括返還の建前論と日ソ共同宣言に基づく2島先行返還の二者択一的に論じられているが、ロシアが受け入れる可能性が高いものの日本には到底受け入れられない2島放棄、2島での1国2制度という第3の選択肢も浮上してくるものと考えらる。政治家や有識者がこの論に与することは、政治生命や評論家生命を失うに等しく、誰一人として容認しないであろうが現実的な解決策として存在し続けるものと考える。