海上幕僚長が、護衛艦いなづまの事故調査が終了したことを発表した。
新聞各社等の報道を総合すると、事故の原因は人為的ミスと結論されているようである。
いなづまは、2022年11月から5年ごとに行われる定期検査・修理に従事し、1月に発生した事故は検査後の機関全力試験開始直後に30ノットの全力で海図記載の暗岩に接触して推進器、舵装置と艦首のソナー装置を損傷したものと報じられている。
事故原因とされる人為的ミスについては、出港前の事前研究会が行われなかったこと、試験開始直前に艦長が予定航路を変更したこと、航海関係部署相互の連携が不十分であったことなどが指摘されているとされている。
事故発生直後にも書いたところであるが、定期検査中の乗員は船乗りよりもサラリーマンに近い状態に置かれるために熟練者と雖も練度は低下し、更には期間中の人事交代によって事故の起きた航海が”いなずま”での初航海という隊員もいた可能性がある。当然にチームとしての練度は大きく低下することは避けられないために、相互の連携に円滑を欠いたのは避けられなかったように思える。
事故報告書で指摘された「事前研究会」についても初航海の乗員にとっては「畳の上の水連」でしかなく、実際に行われていたとしても事故を完全に防げるものでは無く、事故機会を低減できる程度の効果しかないことは理解して欲しいところである。
自分の拙い経験であるが、艦の運航経験(艦橋勤務)が無い職域から、一通の電報で艦橋での操艦が必要な部署に転勤したことがある。操艦号令・海図の見方・艦位の把握すら候補生学校時の座学だけの知識であったが無事故で終われたのは、海千山千の信号長(航海科の先任海曹)と電測長(レーダ担当の先任海曹)のさりげないが断固たるサポートが大きかったと思っているので、チームワークは安全運航に欠かせない要件である。このチームワークは、検査後の慣熟訓練や各種行動などを通じて徐々に涵養されるもので、定期検査前の艦が最も精強とされている。
”いなづま”の修復には40億円と2年以上の期間が必要とされているが、船体の歪み(プロペタ軸心の歪み)是正なども必要であることや、何よりも注文生産が必要な損傷品の再取得に時間を要することから止むを得ないことであろうが、万が一、損傷品が外国製のブラックボックス付き武器であった場合には更に取得に長期間を要することも予想される。
岸田政権は防衛産業の育成に注力するとしているが、武器装備品の100%国産も目指して欲しいと願っている。