コミュニケーションスキル・トレーニング
患者満足度の向上と効果的な診療のために
松村 真司,箕輪 良行 編
《評 者》江口 成美(日本医師会総合政策研究機構)
患者とのコミュニケーションを今一度,見直す機会に
日本でコミュニケーションスキル・トレーニングを医学教育に取り入れるようになったのは1990年以降である。それ以前に大学を卒業した医師の大部分は,コミュニケーションに関わる教育を受ける機会がなかった。本書はこうしたベテラン医師を対象に,患者とのコミュニケーションスキルの習得と実践について体系的な学習を可能とする,従来なかった手引書である。前半にコミュニケーションや患者満足度に関する解説があり,後半にスキルアップのための手法やトレーニングの内容,効果が説明されている。ベテラン医師が自身で学べると同時に,トレーニングコースの実践テキストとしても活用することができる。編著者らは,コミュニケーションスキル・トレーニングコース(CSTコース)の開発・運営に実際に携わる専門家で,編者のお一人の松村真司先生は,研究もこなしながら臨床の場で活躍されている先生である。
病気になれば誰しも不安で心細くなる。医療者と心の通う対話ができれば,患者は緊張や不安が和らぎ,診療を前向きに受けることができ,ひいては病気と積極的に向き合うことができる。一方,よいコミュニケーションは医師自身の達成感も向上させる。
本書は,診療を進める際に必要とされるコミュニケーションを「オープニング」「共感的コミュニケーション」「傾聴・情報収集」「説明・真実告知・教育」「マネジメント」「診断に必要な情報の授受」「クロージング」という7つの局面に分けて整理している。そして,それぞれの局面で日常の診療に必要な言動や対応の実践例を示している。トレーニングコースで実施した模擬診療場面の例を用いて,専門用語の多用や会話のさえぎりなど好ましくない対応や,その改善法を具体的に解説している点に大きな特徴がある。また,患者の不安に対する共感の表わし方や,患者が必要とする情報の適切な提供法など,目の前にいる患者といかに向き合うかという課題にも応えている。「……たとえ医師がその(患者の)不安を理解できたとしても,理解した旨を表現し患者に伝えられなければ患者の満足度は当然上がらない」という基本的な考え方も記されている。
いうまでもなく,医師と患者という立場の違いをはじめ,近年の多様な患者層,限られた診療時間など診療の現場を取り巻く環境は厳しく,コミュニケーションの向上は決して容易でないし,その評価も難しい。また,医師側だけでなく,当然,患者側の対応の問題もある。しかし,本書を読むことで,これまで実践してきた患者とのコミュニケーションを,今一度,見直すきわめてよい機会になるであろう。より多くの先生方に一読をお勧めする。
B5・頁184 定価3,675円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00450-3
患者満足度の向上と効果的な診療のために
松村 真司,箕輪 良行 編
《評 者》江口 成美(日本医師会総合政策研究機構)
患者とのコミュニケーションを今一度,見直す機会に
日本でコミュニケーションスキル・トレーニングを医学教育に取り入れるようになったのは1990年以降である。それ以前に大学を卒業した医師の大部分は,コミュニケーションに関わる教育を受ける機会がなかった。本書はこうしたベテラン医師を対象に,患者とのコミュニケーションスキルの習得と実践について体系的な学習を可能とする,従来なかった手引書である。前半にコミュニケーションや患者満足度に関する解説があり,後半にスキルアップのための手法やトレーニングの内容,効果が説明されている。ベテラン医師が自身で学べると同時に,トレーニングコースの実践テキストとしても活用することができる。編著者らは,コミュニケーションスキル・トレーニングコース(CSTコース)の開発・運営に実際に携わる専門家で,編者のお一人の松村真司先生は,研究もこなしながら臨床の場で活躍されている先生である。
病気になれば誰しも不安で心細くなる。医療者と心の通う対話ができれば,患者は緊張や不安が和らぎ,診療を前向きに受けることができ,ひいては病気と積極的に向き合うことができる。一方,よいコミュニケーションは医師自身の達成感も向上させる。
本書は,診療を進める際に必要とされるコミュニケーションを「オープニング」「共感的コミュニケーション」「傾聴・情報収集」「説明・真実告知・教育」「マネジメント」「診断に必要な情報の授受」「クロージング」という7つの局面に分けて整理している。そして,それぞれの局面で日常の診療に必要な言動や対応の実践例を示している。トレーニングコースで実施した模擬診療場面の例を用いて,専門用語の多用や会話のさえぎりなど好ましくない対応や,その改善法を具体的に解説している点に大きな特徴がある。また,患者の不安に対する共感の表わし方や,患者が必要とする情報の適切な提供法など,目の前にいる患者といかに向き合うかという課題にも応えている。「……たとえ医師がその(患者の)不安を理解できたとしても,理解した旨を表現し患者に伝えられなければ患者の満足度は当然上がらない」という基本的な考え方も記されている。
いうまでもなく,医師と患者という立場の違いをはじめ,近年の多様な患者層,限られた診療時間など診療の現場を取り巻く環境は厳しく,コミュニケーションの向上は決して容易でないし,その評価も難しい。また,医師側だけでなく,当然,患者側の対応の問題もある。しかし,本書を読むことで,これまで実践してきた患者とのコミュニケーションを,今一度,見直すきわめてよい機会になるであろう。より多くの先生方に一読をお勧めする。
B5・頁184 定価3,675円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00450-3