◆重度精神障害者の地域生活をケアするACTとは。
◇専門家が訪問支援、チームで医療・福祉サービス 経営安定化が課題
重い精神障害のある人たちが地域で安心して暮らせるよう、医師、作業療法士、看護師、精神保健福祉士らがチームを組んで支える精神保健福祉プログラム「ACT(アクト)」。60年代後半に米国で生まれ、日本でも現在約10カ所で取り組みが始まっている。
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千葉県市川市にある訪問看護ステーションACT-J。7人のスタッフが登録した利用者の自宅や病院、職場を訪問し、必要な支援を提供する。利用者は60人。大半が重い統合失調症の人たちだ。
午前8時半過ぎ、スタッフと医師のミーティングが始まった。1時間ほどをかけて、それぞれが担当する利用者の前日の様子や電話でのやりとりを伝え合う。「掃除機を買いたいが、いくらかかるのか心配していた」という報告に、別のスタッフが「じゃあ金額を確かめて伝えよう」。日々の生活で困ったことがあれば、細やかに対応する。3人のスタッフが1人を担当するが、利用者に何かあれば24時間対応できるよう、個々の情報を全員が把握する。
午前10時過ぎ。スタッフが利用者の訪問へ。施設長の原子英樹さん(47)が訪ねた50代の男性は数十年に及ぶ入院生活をしていた。退院8カ月前からアクトの支援を受け、買い物や1人の時間の過ごし方などを練習し退院。今は週3日のヘルパー利用に加え、週3日アクトの訪問を受け、薬の管理や行政手続きなどのサポートを受ける。
男性が「気持ちが高ぶっているときにやること」と書かれたリストを見せてくれた。買い物をしたらすぐ帰る▽なるべく部屋で過ごす--。原子さんと2人で考えたという。スタッフだけでプランを立てるのでなく、利用者と話し合い、利用者の言葉で文書化する。本人の希望に沿った支援をするのが基本理念だ。
自分で初めて借りたアパートの居間で、男性は「病院には自由がなかった。機会があれば退院したかった」と話した。原子さんが「病院の方が楽だったこともあるんじゃないの?」と聞くと「今の方が自分のためになる」。症状が落ち着き、この1年で抗精神病薬が半分に減った。目標は「お年寄りや困っている人の役に立つ」こと。スタッフが可能なボランティアや研修会を探している。
午後5時。事務所に戻ってきたスタッフが10分間のミーティング。スタッフの一人がある利用者について「症状が安定しない。夜電話がかかってくる可能性が高い」と報告した。朝までの連絡用に携帯電話があり、その日の当番が持ち歩く。
原子さんは「アクトの特徴はチームで責任を持つこと。利用者は多様な視点でケアが受けられる。スタッフも抱え込んで燃え尽きることが防げる」と話す。ただ活動を広げるには課題もある。経営をどう安定させるかだ。自宅への訪問は診療報酬が請求できるが、行政機関への同行や家族支援、精神保健福祉士の訪問など「活動の3割は報酬の対象外」という。
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ACT-Jは03年度に国の研究事業として活動が始まり、08年4月からNPO法人に引き継がれた。研究班が利用者118人を対象に行った調査では、アクトを利用した人は利用していない人に比べ、入院日数が減った▽就労率が伸びた--などの結果が出た。
研究を担当した国立精神・神経センター精神保健研究所の伊藤順一郎・社会復帰相談部長は「アクトでは一人一人の個性を認め、支えている。その理念は誰にとっても生きやすい社会の実現につながるはずです」と話す。
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◇ACT
Assertive Community Treatmentの略。日本では「包括型地域生活支援プログラム」とも呼ばれる。重い精神障害のある人たちが頻繁に入退院を繰り返したり、退院後も自宅にひきこもることのないよう、訪問活動を軸に本人の希望に沿った形で安定した生活を支える。特徴はスタッフ1人に対して利用者は10人程度▽チーム全員が情報を共有する▽保健・医療・福祉サービスを直接提供する▽24時間体制--など。NPO法人地域精神保健福祉機構・コンボのACT-IPSセンター(電話047・320・3873)で研修などを行っている。
◇専門家が訪問支援、チームで医療・福祉サービス 経営安定化が課題
重い精神障害のある人たちが地域で安心して暮らせるよう、医師、作業療法士、看護師、精神保健福祉士らがチームを組んで支える精神保健福祉プログラム「ACT(アクト)」。60年代後半に米国で生まれ、日本でも現在約10カ所で取り組みが始まっている。
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千葉県市川市にある訪問看護ステーションACT-J。7人のスタッフが登録した利用者の自宅や病院、職場を訪問し、必要な支援を提供する。利用者は60人。大半が重い統合失調症の人たちだ。
午前8時半過ぎ、スタッフと医師のミーティングが始まった。1時間ほどをかけて、それぞれが担当する利用者の前日の様子や電話でのやりとりを伝え合う。「掃除機を買いたいが、いくらかかるのか心配していた」という報告に、別のスタッフが「じゃあ金額を確かめて伝えよう」。日々の生活で困ったことがあれば、細やかに対応する。3人のスタッフが1人を担当するが、利用者に何かあれば24時間対応できるよう、個々の情報を全員が把握する。
午前10時過ぎ。スタッフが利用者の訪問へ。施設長の原子英樹さん(47)が訪ねた50代の男性は数十年に及ぶ入院生活をしていた。退院8カ月前からアクトの支援を受け、買い物や1人の時間の過ごし方などを練習し退院。今は週3日のヘルパー利用に加え、週3日アクトの訪問を受け、薬の管理や行政手続きなどのサポートを受ける。
男性が「気持ちが高ぶっているときにやること」と書かれたリストを見せてくれた。買い物をしたらすぐ帰る▽なるべく部屋で過ごす--。原子さんと2人で考えたという。スタッフだけでプランを立てるのでなく、利用者と話し合い、利用者の言葉で文書化する。本人の希望に沿った支援をするのが基本理念だ。
自分で初めて借りたアパートの居間で、男性は「病院には自由がなかった。機会があれば退院したかった」と話した。原子さんが「病院の方が楽だったこともあるんじゃないの?」と聞くと「今の方が自分のためになる」。症状が落ち着き、この1年で抗精神病薬が半分に減った。目標は「お年寄りや困っている人の役に立つ」こと。スタッフが可能なボランティアや研修会を探している。
午後5時。事務所に戻ってきたスタッフが10分間のミーティング。スタッフの一人がある利用者について「症状が安定しない。夜電話がかかってくる可能性が高い」と報告した。朝までの連絡用に携帯電話があり、その日の当番が持ち歩く。
原子さんは「アクトの特徴はチームで責任を持つこと。利用者は多様な視点でケアが受けられる。スタッフも抱え込んで燃え尽きることが防げる」と話す。ただ活動を広げるには課題もある。経営をどう安定させるかだ。自宅への訪問は診療報酬が請求できるが、行政機関への同行や家族支援、精神保健福祉士の訪問など「活動の3割は報酬の対象外」という。
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ACT-Jは03年度に国の研究事業として活動が始まり、08年4月からNPO法人に引き継がれた。研究班が利用者118人を対象に行った調査では、アクトを利用した人は利用していない人に比べ、入院日数が減った▽就労率が伸びた--などの結果が出た。
研究を担当した国立精神・神経センター精神保健研究所の伊藤順一郎・社会復帰相談部長は「アクトでは一人一人の個性を認め、支えている。その理念は誰にとっても生きやすい社会の実現につながるはずです」と話す。
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◇ACT
Assertive Community Treatmentの略。日本では「包括型地域生活支援プログラム」とも呼ばれる。重い精神障害のある人たちが頻繁に入退院を繰り返したり、退院後も自宅にひきこもることのないよう、訪問活動を軸に本人の希望に沿った形で安定した生活を支える。特徴はスタッフ1人に対して利用者は10人程度▽チーム全員が情報を共有する▽保健・医療・福祉サービスを直接提供する▽24時間体制--など。NPO法人地域精神保健福祉機構・コンボのACT-IPSセンター(電話047・320・3873)で研修などを行っている。