障害の有無にかかわらず全ての人が利用しやすい製品や施設、サービス。
ミライロ(大阪市)は、その設計思想「ユニバーサルデザイン」を広く社会に浸透させようと設立されたコンサルタント会社だ。
社長の垣内俊哉さん(25)は、生まれつきの病気で幼少期から車いす生活を送ってきた。「歩けない自分だからこそ、できることを」と、大学3年生だった2010年、現副社長の同級生と一緒にこの会社を設立した。資金は様々なビジネスコンテストで獲得した数百万円の賞金だった。
障害の当事者であり起業家――両方の視点を併せ持つのが強みだ。
例えば、手すりが張り巡らされ病室を連想させるホテルのバリアフリールーム、車いすから席に移りたいのに黙って椅子をどけてしまう飲食店の接客などへの批判は鋭い。「求められているのは、ちょっとした利便性の向上や声がけなんです。思いこみや行き過ぎたサービスは逆効果になることもあります」
同時に、「ユニバーサルデザインは企業の利益につながる」と訴える。施設内の段差解消やホームページの障害者向け情報の整理などを手がけた大阪府内のテーマパークは、障害者の来場数が2年間で2万人増加した。本当に必要な改善点を見極め、無駄な改修コストの削減も助言する。
「社会のユニバーサルデザイン化は、社会貢献への思いや、当事者の声だけでは進みません。もうかったり客が増えたりといったメリットを企業が感じれば、もっと早く進み、持続的なものになります」
率いるスタッフは24人。このうち、半数近くが車いす利用者や目が不自由な障害者だ。企業向けの研修には障害者のスタッフを派遣し、マナー講習などを行っている。「現実を知り理解を深めてもらう早道です」と明快だ。
会社設立からまだ5年だが、大学などの教育機関、結婚式場、霊園など顧客は増え続けている。「障害者に開かれた社会づくりを加速させたい」と意気込んでいる。(斎藤圭史)
【社員旅行】料理対決など 楽しく交流
事業が軌道に乗り忙しくなるのに伴い、飲み会などの社員同士の交流が減っていたことから、意識的にリフレッシュの時間を設けることを社員に勧めている。自らもできる限り、その輪に加わる。「心身が健康でなければ、良い成果は生まれませんから」
2年前の夏から、全社員で京都府北部へ旅行に出かける=写真、前列中央=。貸別荘で昼はバーベキュー、夜は2、3人1組のチーム対抗で「料理対決」などを行う。
「仕事は抜きで、飲んで、食べて、しゃべって。楽しいですよ」
部活動も盛んになってきた。カメラ部、ボードゲーム部、テニス部などに所属。昨年末はカメラ部の男性社員と2人で、大阪府内の動物園や通天閣に出かけた。「旅行や部活はリフレッシュになるだけでなく、社員とコミュニケーションを図る大切な時間になっています」
社員の大半は20代。「若さゆえの苦労もありますが、それ以上に応援してくれる人は多い」と垣内さん(右)
【道具】自分の講演を録音 次に生かす
2年ほど前から外部で講演する機会が増えた。障害者施策から起業の体験談、生き方までテーマは様々。全国の会社や学校などを月10件以上のペースで駆け回る。
その際に必ず携えるのが、ボイスレコーダー=写真=。90~120分の講演すべてを録音し、週末までには聞き直す。「『えぇ』『あのぉ』など『言葉のひげ』が出ていないか、構成は分かりやすかったかなどを確認して、次に生かしています」
さらに、「社員が営業する時の提案説明などに役立つかもしれない」と、録音データはすべて保存しておき、全員がいつでも聞けるようにもしている。
これまでにこなした講演数は約300回。今や原稿がなくても話せるようになり、話術にもたけてきた。「最近は、もう少し表現を変えたら笑いを取れるんじゃないか、なんて別の欲が出てきていますね」
かきうち・としや |
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1989年、岐阜県生まれ。骨が弱く折れやすい「骨形成不全症」という病気で、幼少期から車いすで生活。2010年、立命館大学経営学部3年生の時に同級生とミライロ設立。未来の「色(イロ)」、未来の「路(ロ)」が由来。 |