知的障害者の中には自分や他人を傷つけるなどの危険な行動を繰り返す人たちがいる。「強度行動障害」と呼ばれ、旧来の施設では職員が力で対抗することが少なくなかった。
行動障害の入所者は、湯沢市の皆瀬更生園のケースのように、虐待の対象になりやすいことが知られている。国は2013年度から、適切な対応を指導するなど対策に乗りだした。
<視覚に訴え成果>
秋田市の障害児入所施設「高清水園」。10代後半の男性Aさんは特別支援学校から帰ると、日常生活の介護や訓練を担当する支援員の部屋の前に来る。部屋の窓に掲げてあるAさん専用の日課表と「がんばる!カレンダー」を見るためだ。
1日のやることを記した日課表。午後3時の欄に給水器、4時半には、ほうきの写真がそれぞれ貼られている。水分補給と掃除の時間を意味している。無事に1日を過ごすと、カレンダーにフェルトペンで日付を消すように「/」のマークを入れる。
Aさんは言葉を数語しか話せない。さまざまな情報を整理して受け取るのは苦手。だが、日課表を見れば次にするべきことが一目で分かる。「構造化」と呼ばれ、視覚に訴える手法だ。
Aさんは高清水園入所の09年以降、他の入所者を引っかいたり、私物を持ち出したりするなどの問題行動が多かった。施設は13年度から日課表やカレンダーを活用した個別支援に力を入れた。
羽川毅郎・支援課長補佐(46)は「試行錯誤の段階だが、Aさんは先の見通しがつかめることでトラブルが減ってきた」と成果を実感している。
<全国で技能普及>
Aさんのような人を支援する技能を高めるため、厚生労働省が13年度に始めたのが「強度行動障害支援者養成研修事業」。研修を受けた受講者らが各都道府県で講師となり、研修会を開いて技能の普及に取り組む。
ことし1月、秋田市で165人が参加して開かれた研修会で、Aさんの事例が紹介された。報告した高清水園支援員の越後谷和子さん(39)は「いままでの取り組みを振り返るいい機会になった」と話す。
厚労省の調査によると、13年度に障害者施設(身体、精神障害を含む)で発生した虐待事例のうち、強度行動障害を持つ人が被害者になった割合は12%あった。
同省の曽根直樹・虐待防止専門官は「知的障害者の施設に絞ればさらに比率が高まる。支援員の対処技術を向上させ、虐待防止につなげたい」と意気込む。
<行動障害と虐待>湯沢市の皆瀬更生園で2013年4月、身体的・心理的虐待を受けた女性入所者は、他人に迷惑を掛ける行動障害があった。14年4月、男性職員から押さえつけられ平手打ちされた男性入所者は、興奮しやすく自分を制御できない傾向があった。職員たちはこうした行動障害への対応策を十分に習得できていなかったとされる。
Aさん専用に作った日課表を持つ越後谷さん
2015年02月21日 河北新報