重度の知的障害などで心神喪失状態だったとして無罪を言い渡された半年後、前と同じ自動車盗を起こしたとする常習累犯窃盗罪に問われた京都市内の男(37)の判決が24日、地裁である。男の再犯は、盗みを繰り返さないよう地域の福祉関係者が立ち直りを支えていた中での出来事だった。刑罰か福祉か。支援者、被害者、様々な人が判決を注視している。
■服役7回
男の弁護人などによると、男は知的障害を持つ母親と2人暮らし。これまでに自動車盗などで度々逮捕されるなどし、2000年に初めて実刑判決を受けてからは服役を7回繰り返している「累犯障害者」だ。出所5日後の再犯もあった。
直近の出所から約7か月後の12年9月、自宅近くの中古車販売会社の展示場から軽乗用車を盗んだとして同罪で起訴された。初公判で起訴事実を認めたが、責任能力を争った。地裁は13年8月、男は精神年齢が「4歳7か月」とする鑑定結果などに基づき、責任能力を問えないとして無罪を言い渡した。
ところが、男は14年2月、同じ中古車販売会社の整備工場から乗用車を盗んだとして同3月に同罪で再び起訴されたのだ。
同8月には無罪判決が出た事件の控訴審で、大阪高裁が、男が警察官から受けた職務質問にうそをついたことなどから「違法性を認識していたことがうかがえる」などとして1審判決を破棄、懲役2年の実刑判決を言い渡した。現在、弁護側が上告中だ。
■見守り4年
男には約4年前から、障害者支援の公的機関が再犯を繰り返さないよう見守り活動を始めていた。
男はよく「車に乗りたい」と話していた。同機関の職員は「お金を貯めて、運転免許を取らないと乗れないよ」と諭した。それでも支援開始後、自動車盗を含む数回の再犯があった。
無罪判決後は職員が近隣の自動車販売店に「車に鍵が付いていると乗りたくなるので、抜いてください」とお願いして回り、障害への理解を求めた。男にも変化の兆しがあり、当初は乱暴だった物言いも和らいだ。自宅に来る数人のヘルパーとも映画や車、料理など、相手に応じた会話ができるようになっていた。
だが、職員らが手応えを感じ始めたとき、事件が再び起きた。「我々も手探り。何が最善かはわからないが、刑罰を科すことだけが再犯防止につながるとは思えない。社会の中で更生させることも大切ではないだろうか」。職員の1人は言う。
■説明届かず
被害を受けた中古車販売会社の社員も、支援が更生につながるとの考えは理解できるという。だが「もし盗まれた車で人身事故が起きたら、誰が責任を取るのか」とも思う。同社には男の障害について事前の説明はなく、盗難車両は鍵を差したままだった。「事前に知らされていれば、対処できたかも」。社員は唇をかむ。職員らが同社を訪れたのは今回の事件後のことだ。
検察関係者は「今の福祉による支援では犯行を防げなかった。本人には罪の意識がうかがえる。反省を深めるためには刑罰が必要だ」と話す。
公判で弁護側は心神喪失状態だったと主張。検察側は責任能力がある心神耗弱の状態だとして懲役3年6月を求刑している。