精神障害者らが自宅にいても交流できるインターネット上の当事者会「晴れのこ」が盛況だ。テレビ会議のように複数の人が画面で対話できるが、匿名で顔を見せず話を聞くだけでもOK。自分がホスト役となって臨時の当事者会を開くこともできる。
精神保健福祉の専門家は「社会から孤立した人にとって、ネットは社会との唯一の接点だ。『晴れのこ』で分かち合いの関係ができれば、社会に戻る第一歩になるだろう」(倉知延章・九州産業大教授)と評価する。
非営利の任意団体「晴れのこ」(東京都)が2018年9月に運営を始めた。Zoom(ズーム)という通話アプリケーションを使い、参加者はパソコンやスマートフォンの画面上で対話できる。参加費は無料だ。
「精神障害者の孤独をこの世からなくしたい」。代表の松浦秀信さん(30)はこう語る。鬱と躁を繰り返す双極性障害の当事者で、失業や入院を経験。仲間が離れてどん底を味わったが、居場所を持てれば怖くないことにも気付いたという。
病との付き合い方は医療機関からの情報だけでは分からず、途方に暮れる当事者は少なくない。生きた情報が得られる当事者会は重要だが、参加しやすい環境が整った地域ばかりではない。
そこで誕生したのが「晴れのこ」だ。当事者会には3種類ある。一つ目は毎週木曜日の昼と夜の定時に松浦さんがホストを務める「のこのこバー」。メールアドレスの登録は不要で、初心者向けだ。
二つ目は、バーに慣れた人たちが登録した上で、臨時のホストになれる「のこのこ公園」。自由な時間に「この指とまれ!」と声を掛け、興味を持った人が集まる。4月末時点で169人が登録済み。
三つ目は、自分の体験談を書いた人だけが参加できる「晴れのこクラブ」。自分と同じような体験をした人を探しやすくすることが狙いだ。4月末時点で58人が記入済みだ。
「当事者会というものがあると知らず孤独でした」。のこのこバーの常連で、高校生の息子がいる双極性障害の水月琉凪さん(42)は、1年ほど前までの自分をこう振り返る。
「子育て支援のサービスも知らず苦しんでいました。バーに参加してからは、激うつにならずに済んでいます。今はのこのこ公園でホストになり、同じような立場の人に自分の経験を伝えたいと思っています」
マイナスと思えた自分の経験が、誰かの役に立つことを知った松浦さんは言う。「今は自分の病が治るかどうか、どうでもよくなった。それほどわくわくしている」
5月18日午後2時からの、東京ボランティア・市民活動センター(新宿区)での講演でそのいきさつを話す予定だ。詳細は「晴れのこ」参照。
2019年05月13日 福祉新聞編集部