奈良県生駒市の土産品として人気のスイーツ「たけひめプリン」の事業が、市内にある障害者の就労支援事業所に無償譲渡された。知名度のある商品づくりに障害者が携わることに周囲は期待する。プリンは事業所隣のカフェで販売中だ。
たけひめプリンは、地元の造り酒屋の酒かすを使った「大人の味」のプリン。生駒の名産、茶筌(ちゃせん)の原料である竹の形をした容器が特徴だ。2012年に開かれた「生駒市の新しいお土産コンテスト」でグランプリに輝いた。考案した緒方亜希野さん(46)は14年に洋菓子をつくる会社を設立し、専門店をオープンさせた。
一方、一般社団法人「無限」の代表理事、石田慶子さん(45)は、長女に知的障害があることをきっかけに福祉に携わってきた。「障害があっても配慮と工夫で質の高い仕事ができ、仕事を通して成長することもできる」と強調する。
就労支援事業所では、競技ダンス用のバングル作りやバッグ用の布の裁断、ネット販売サイトへの出品作業などを手がける。「仕事が丁寧、同じ作業を長時間できる、細かいところに目が届くといった障害者の長所を生かせる仕事はあるのです」
石田さんは昨年、「地域と福祉をつなぐ入り口になれば」との思いで、事業所の隣にカフェ・メリメロをオープン。その際、ケーキの監修を緒方さんに頼んだ。一方、緒方さんも手がける仕事が忙しくなり、プリン製造のパートナーを探していた。
「カフェで働く障害者のトレーニングスタッフさんの仕事ぶりも質が高いと感じていた」と緒方さん。今年3月、プリン事業は譲渡することを決めた。「地域のビジネスとして、無限の広がりを感じました」
プリンのレシピはカフェの上田侑奈(ゆきな)店長(31)に提供。トレーニングスタッフの勢力(せいりき)佳津美さん(36)=生駒市=と西口哲平さん(26)=桜井市=の2人が、軽作業やカフェの仕込み作業などの仕事と並行しながら、上田さんから作り方も教わっていく。
「勢力さんは手早く、西口さんは仕事が丁寧。2人の長所を生かした作業を担ってもらいます」と上田さん。勢力さんは「大事な仕事を頂いたので、スキルアップを目指して頑張りたい」と意気込む。
石田さんは、福祉事業の新たな形に期待を寄せる。「『何かをしてもらう』ではなく『地域のために何ができるのか』。プリンを通じて、できることを実現していきたい」
プリンは1個250円(税抜き)。カフェ・メリメロ(0743・77・0805)は近鉄南生駒駅から徒歩5分。日曜・祝日休み。
2019年5月20日 朝日新聞