作業着に袖を通した。
大分市内の漬物工場。両手に全神経を集中させ、野菜と調味液を入れた袋を専用の機械で密封していく。
軽度の知的障害のある芝雄斗(ゆうと)(19)=由布市湯布院町出身=が習得を目指している作業の一つだ。「力の入れ具合が難しい。まだ完璧じゃない」
参院選が22日に公示されたことはテレビで知った。
「あ、始まったんだ」くらいにしか感じなかった。液晶画面の向こうで「大分から立候補したおじさんたちがマイクを持って何かワーワー言っていた」ことは覚えているが、内容までは聞いていない。
大分選挙区は現職1人、新人2人が1議席を争っている。
その3人がどういう人で、何を考えているのか。「演説を聞いてないし、会ったこともない。関心もない」
そもそもアベノミクスってどうなんだろう。大分市内の障害者就労支援施設で働き始めて1年3カ月。賃金は労働能力(最低賃金法の減額特例)で決まるため、時給は昨年から300円にも満たないままだ。僕の暮らしは一向に良くならない。
憲法を改正しようという動きは気になる。「変えることでみんなの生活がより良くなるなら分かるけど…」。社会保障などの福祉政策もしかり。「障害年金を増やしてほしいとか、生きることへの不安だとか、お願いしたいことはいっぱいある」
だけど、どうやって政治家を信用すればいいのだろうか。「いろいろ考えていくと……面倒になってくる」
9月で20歳だ。公職選挙法の改正で人生初の一票を手にしたけれど、参院選で投票に行くかどうかはまだ決めていない。
一日の作業が終わった。
作業着を脱いで車に乗り、施設横のグループホーム(寮)に帰る。夕食後、先輩たちとテレビのニュースを眺める。
今夜も国内各地で鉢巻き姿の「おじさん」「おばさん」がマイクで何かを叫んでいる。 =敬称略=
※この記事は、6月28日大分合同新聞夕刊11ページに掲載されています。