横須賀うわまち病院心臓血管外科

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僧帽弁手術における視野をよくするコツ

2019-10-25 03:10:10 | 弁膜症
 僧帽弁の逆流に関しては現在は9割以上、自己弁を温存する形成術を行っていますが、この形成術を完璧にするためには良好な視野の確保が不可欠です。
 この僧帽弁を観察するための良好な視野確保のためにはいくつかのコツがあります。

 一つはアプローチ:胸骨正中切開か右側方開胸か。角度的には、僧帽弁は右側から見た方が左房から観察する外科医にとっては正面視することになるので観察しやすくなります。そのため、正中切開よりは右側方開胸がベターです。横須賀市立うわまち病院では僧帽弁手術の9割以上(可能であればすべての症例で)の患者さんで右側方開胸での僧帽弁手術を行っており、複数の弁手術が必要な場合も、たとえば大動脈弁+僧帽弁+三尖弁手術においても右小開胸での手術を実施しています。

 一つは左房への到達方法:右側左房切開か、中隔アプローチか、上方アプローチ(Superior Trans-septal approach, Transplantar approachともいう)か。どれも悪くありませんが、一般的には右側左房切開が最も多く採用されています。その他は視野は良好でも修復に時間がかかる難点があります。完全鏡視下手術においてはどのアプローチでもカメラのレンズの位置と向きで決まるので関係ないかもしれません。右側左房切開も胸骨正中切開で視野が悪い場合は、左房上壁を左心時の付け根まで、左房後壁を下大静脈の付近から奥に僧帽弁輪にコの字型に延長して拡大し、Retractorで大きく(力を入れて)押し広げることで視野を改善します。それでも最悪の場合は、奥の奥の手として、上大静脈を右心房から切り離すと右房が良好な視野が得られます。さらにそれでも最悪の場合、それに加えて上行大動脈を一時的に離断してしまえば、かなり改善するはずですが、そこまでした経験はありません。ただ、上行大動脈置換術を併施する場合に、僧帽弁の視野が著しく良好であることはしばしば経験します。

 一つはRetractorの種類、扱い方:複数の方向に左房切開からRetactorを挿入して展開するほうが視野が良好になります。横須賀市立うわまち病院では基本的に2本のRetractorでFibrous Trigonの方向に牽引展開して前尖が広がって全体が見えるように視野出ししています。右小開胸の場合はYozu-Adams開胸器のSをA1側、XSをA3側にかけて展開します。正中切開の場合はCosgrobe開胸器を使用して同方向に牽引します。

 一つは逆行性心筋保護併用の場合のカニューレ、バルーン:これらによって僧帽弁の後交連付近の視野が悪くなることがあり、バルーンを虚脱させたり、カニューレが牽引されているのを戻して位置調整したりすると改善することがあります。

 一つは、左房壁や弁輪に糸かけして、牽引:これによって操作部位を一か所一か所露出させて観察しながら手術します。

 最近、右小開胸で大動脈弁置換+僧帽弁形成術を行った症例で、右房切開して冠静脈洞から挿入した逆行性心筋保護用のカテーテルの為に視野が悪かった患者さんに対して、このカニューレの位置調整によって最終的に視野が改善した症例を経験しました。いわゆるMICS(低侵襲心臓手術)アプローチにおいて大動脈弁+僧帽弁手術を同時に行ったのは、この1年で4例目ですが、他の施設でまだやられていないこの手術、横須賀市立うわまち病院ではほぼ確立した術式という実感があります。
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