横須賀うわまち病院心臓血管外科

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僧帽弁手術後左室破裂に対する圧迫止血で最も有効な止血方法は? ⇒ハイドロフィット

2020-07-09 00:15:01 | 弁膜症
 僧帽弁手術で最も恐ろしい合併症はやはり、左室破裂です。これは人工弁や人工弁輪を固定するために僧帽弁輪にかけた糸を支点に左室心筋の一部が裂けて、そこから左室の外に大量に拍動性出血を起こす合併症です。僧帽弁置換術の約1%に発症すると言われ、小柄な高齢女性に起こしやすいとも言われています。一度発生すると死亡率は50-70%とも言われる、心臓手術で最も外科医が恐れる合併症です。
 万が一発生した場合の止血方法は二つあります。
① 縫着した僧帽弁位の人工弁をはずして、左室の内部から裂けた部分にパッチをあてて止血する方法
② 出血部位を左室の外から用手的に圧迫して止血する方法
 このいずれかです。

用手的に圧迫して出血が制御できる場合は、心臓を動かしたまま人工心肺を離脱して、カニューレ類を抜去し、ヘパリンを中和して圧迫を継続し、出血が治まるのを待ちます。
この際、最も有効な止血剤は、圧倒的にハイドロフィット(マツダイト)です。この一見セメダインのような止血剤は水と反応して固まるので、ヘパリン投与下でも固まって止血することが出来る唯一の止血剤です。他の種々の止血剤は基本的に凝固因子が働くのを主に助ける役目なので、ヘパリンを中和してからでないと有効ではありません。人工心肺補助しながらハイドロフィットで止血の目途をつけて、出血量を測定してから安定した状態で人工心肺を離脱する、という止血が理想的です。
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