横須賀うわまち病院心臓血管外科

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心臓手術の既往のある大動脈解離

2020-07-11 22:34:02 | 心臓病の治療
 急性大動脈は命にかかわる疾患で、その場ですぐ救命手術をしないと命を助けることができない疾患の代表です。心臓血管外科の診療での緊急手術で最も多い疾患も、おそらくどの施設においても急性大動脈解離でしょう。では、過去に弁置換術など心臓手術を行ったことのある患者さんに急性大動脈解離が発症した場合はどうでしょうか?

 急性大動脈解離の死因の約7割は大動脈の破裂に伴う心タンポナーデと言われています。しかしながら心臓手術後は、心嚢内が癒着しているので大動脈からたとえ出血してもその出血が心嚢内を充満して心臓を圧迫する心タンポナーデにはなりません。すなわち、大動脈解離を発生しても7割の死因と言われる心タンポナーデにはならないので保存的に手術しないで治療しても死亡する可能性は低いということになります。過去に経験した心臓手術後の大動脈解離の症例はすべて、大動脈弁置換後の患者さんでした。それを考えると、心タンポナーデにはならないうえに、過去の大動脈切開のラインで解離の進展が止まり、大動脈基部=バルサルバ洞でまで解離が進展する可能性が低く、また大動脈弁置換されているため、大動脈解離のバルサルバ洞への進展が理由で発生する大動脈弁逆流が発生しません。こうして、発症後死因となる9割の病態が起こらないのが、大動脈弁置換術後の大動脈解離といえます。この辺のことも含めて教育がさらに必要と最近実感しました。

 初回の大動脈弁置換術の時に、あとで大動脈解離をおこさないかどうか検討し、必要があれば積極的に上行大動脈置換を併施することによって対処できます。

 最近当院へ搬送された大動脈弁置換術後に発症した大動脈解離の患者さんも、まずはワーファリンの効き目が切れるまで降圧管理を厳重にしてICU管理歳、発症4日目に緊急手術を行いました。

 過去の手術歴のある患者さんの新たな大動脈解離に関しては治療のタイミング、スケジュールが大事です。
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