急性大動脈解離において、救命のためには主にエントリーを切除して、そのエントリーを含む範囲を人工血管置換術することが必要ですが、その置換範囲をどこまでするか、ということは、特に深夜の緊急手術においては外科医の疲労具合、勇気などにも影響されがちですが、純粋に医学的見地から治療範囲を決めるべき、と常日頃から考えています。こうしたなかで、上行大動脈置換術で救命できる場合が多い一方、弓部分枝を再建する弓部大動脈置換とするのは、エントリー切除をするために必要な範囲が弓部分枝にかかる場合、下行大動脈の真腔が競作していてオープンステントを挿入するためなどの場合です。一方、中枢側に向かって置換範囲を拡大すると大動脈基部再建術となり、これには人工弁置換+バルサルバグラフトによるBentall変法や自己弁温存手術(David手術(Reimplant法)やYacoub手術(Remodeling法))などがありますが、この適応はバルサルバ洞がもともと拡大している大動脈弁輪拡張症に対して必要です。大動脈弁輪拡張症の特徴として上行大動脈に比較してバルサルバ洞がより大きくSTJ(Sino-Tubulae Junction=上行大動脈とバルサルバ洞の間のくびれ)がありません。こうした症例に上行大動脈置換術だけでその場しのぎをすると高率に大動脈弁逆流が術後に悪化したり、バルサルバ洞の更なる拡大をきたして再手術が必要になります。再手術での大動脈基部再建術の手術死亡率は少なく成績良好とも言えますが、たいへんな手術であることには変わりありませんので、初回の手術のときに大動脈基部再建術を行うことが重要です。たとえ深夜の手術であったり、外科医がつかれていたり、スケジュールが詰まっているから短時間で終わらせたい、と思ったとしても、ここは譲ってはいけない部分と思います。
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