大動脈破裂は一瞬で大量の血液が胸腔や腹腔に流出するため、出血性ショックから心停止にいたる重篤な病態です。他に外傷による大動脈断裂や大動脈損傷も同様の病態となります。
心停止に至る原因が出血による左室内血液の充満不全から冠虚血に至ることなので、この状態から心拍再開させるためには、循環を回復しなければなりません。たとえ輸血で出血した血液を補っても、また破裂部位からすぐに出血して循環血液量がなくなってしまうので、心拍再開は不可能です。唯一の救命手段は人工心肺によって出血した血液を血管内にもどしながら、破裂部位を修復して出血を止めることです。もちろん、破裂部位を人工心肺を使わずに縫合糸血などすることで止血できればそれでいいのですが、心停止に至るほどの出血を人工心肺なしで止血することは通常不可能です。
一刻も早く手術室へ搬入して人工心肺を装着し、冷却して循環停止として胸部大動脈の場合は大動脈の人工血管置換をする必要があります。また、報告があるかは知りませんが、人工心肺装着して出血をサッカーで吸引して返血しながら、大動脈ステント挿入によって破裂部位を修復して止血するという方法も現実としては可能と思います。この方法では循環停止にしたり、大動脈遮断をする必要がないので、より低侵襲に治療が可能です。
破裂部位の上流で大動脈を遮断=腹部大動脈瘤破裂に対する下行大動脈遮断なども一時的には有効ですが、次の止血を瞬時に行わないと、救命は難しいと思われます。通常は下行大動脈遮断のあと、腹部大動脈瘤破裂部位の中枢側の近傍で遮断鉗子をかけなおして一刻も早く腹部臓器、脊髄、腎動脈などに血液を環流させないと救命は困難です。