横須賀うわまち病院心臓血管外科

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腹部大動脈瘤手術:腹部正中切開での後腹膜アプローチ

2019-08-01 16:16:01 | 心臓病の治療
 腹部大動脈瘤の手術において、通常は腹部正中切開での開腹による人工血管置換術を行うことが多いのですが、この方法だと、腸管をよけて、後腹膜を切開して視野を展開します。
 一方、開腹せず、すなわち腸管を触ることなく腹部大動脈瘤に到達する方法として後腹膜アプローチがあり、通常は左腹部の斜切開から内外腹斜筋を切開し腹横筋の内側で腹膜を露出し、この腹膜を開けることなく、腹部大動脈瘤へ到達するルートで視野展開します。これだと腸管を触らないので術後の腸閉塞の危険が無く、麻痺性イレウスなども起こらないので早期に食事が開始でき、速い回復が期待できます。また、過去の開腹手術の既往がある患者さんなどでは、腸管の癒着が予想されますが、開腹しないこの方法だと癒着は関係ありません。デメリットとしては、左の側方からのアプローチだと中枢側や右腸骨動脈領域の視野が悪く、広範囲な腹部大動脈瘤の手術には適応困難です。

 さてこの腹部正中切開によるアプローチと側方からの後腹膜アプローチのそれぞれのメリットを生かした方法として、正中切開からの後腹膜アプローチがあります。「正中レトロ」とも言われるこの方法は、正中切開でありながら、開腹しないため開腹歴がある患者さんなどで開腹しなくてすむ、中枢側の遮断や吻合に不安がある患者さんなどで行うことにメリットかあります。またこれに似た、傍正中レトロちう方法は、正中ではなく、やや左側の縦の腹部切開から腹直筋鞘に入り、そこから後腹膜アプローチへとつなげる方法です。これら後腹膜アプローチには剥離に時間が若干かかりますが、非常に有用な方法なので習得しておく必要があります。

 筆者は通常の腹部正中切開で開腹しようとしたのに、癒着がひどくて剥離困難でそれ以上腹部正中切開の手術が困難な患者さんに対して、途中で正中切開からの後腹膜アプローチに変更して手術を完遂した経験がありますが、これって一般的なConversionの方法なのか、報告などある方法なのか、知っている方がいたら教えて頂きたいものです。
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