14才のウニの日常が過ぎていくだけなのに胸が熱い、静かだけど素晴らしい作品。
キム・ボラ監督の長編映画初作品だそうですよ、本当に韓国映画ってレベル高いと思う。
舞台は1994年、韓国で社会現象にもなった「82年生まれ、キム・ジヨン」と同時代で、
女性に対する差別や、強烈な学歴社会が淡々と描かれながら普遍的なテーマが含まれている。
ウニは一見おとなしい印象で、いじめられっ子タイプかと思いきや、実は清楚な美人さんで彼氏がいるのよね。それも結構ウニの方が積極的でもある。
違う学校に通う友達がいて、ディスコ風な店やカラオケに行ったりもしてけっこう遊んだりもするし、同性の後輩に告白されて、それもこだわりなく受け入れて(あくまで博愛ね)、ストレスや悩みを抱えながらも、ちょっと悪いこともするし、彼女の日常は興味深い。
そして何より魅力的な女性として登場したのが、塾講師のヨンジ先生。
有名大学を休学中で彼女も悩みながら自分探しをしている人みたい。
彼女の立ち振る舞いや、言葉選びがとってもカッコよくてね。
声高に何かを言ったりしないんだよね、そばに寄り添って声をかけてくれる感じ。
暴力を受けてじっと耐える彼女に、「殴られないでほしい」という伝え方があまりにも素敵で惚れました。黙ってお茶を淹れてくれる姿も素敵で、あぁ、あんな大人の女性になりたいって思った。(自分の年齢はさておいて)
個人的にはユニの母親が意外と好き。
夫に当たり前のように従う妻、餅屋として店のきりもりと、家事と、たぶん毎日毎日疲れ切ってるんだろうね、だから時間があると横になって仮眠してる。
娘に話しかけられてもなんとなくどっちを見ているのかわからないように頼りなく見えるけど、
毎日の料理はおいしそうだったし、家の中もきちんと整理されて綺麗に暮らしてた。
従順に見えるけど、いざとなったら反逆するし(笑)
目を合わせない家族って言われても、でも喧嘩してもなんとなく仲直りして、彼女の人生も彼女が築いてきたものだと感じるから。
家父長として家庭内で君臨する父親、妹に暴力を振るう兄。
でも彼らも家族を大切に思っているし、むしろ社会の中で必死に餅屋を営む父と受験勉強ですり減る長男としてストレスと抱えて生きている弱い立場でもあって、男性優位の社会で苦しんでいるようにも見えた。
大好きな先生との出会いで、自己と社会の関わりに気付いたユニ。
自分が自分であることを確立する入り口にたったユニ、というラストの彼女の姿に、どうか幸せにと祈ったのでした。
当初、渋谷のユーロスペースのみの上映で、行きたいけどハードルが高いと思ってたのに、
コロナ渦のなかあっという間に上映館が増えて、なんと地元で鑑賞できたのはありがたかったです。
本当にいい映画でした。
はちどり(原題:벌새) 2018年 ☆☆☆☆☆
監督:キム・ボラ
出演:パク・ジフ、キム・セビョク、チョン・インギ、イ・スンヨン
驚異的な経済成長に沸く1994年の韓国、ソウル。14歳のウニは、両親、姉、兄と集合団地で生活している。小さな店の経営に追われる両親は子供たちと向き合う余裕がなく、兄は父に期待されている重圧から親の目を盗んでウニに暴力を振るっていた。自分に関心のない大人に囲まれ孤独感を募らせるウニは、通っている漢文塾で不思議な雰囲気を持つ女性教師ヨンジと出会う。