はせがわクリニック奮闘記

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百田尚樹・モンスター

2014年06月05日 | 読書


昨日は上記を読みました。
ヒロインは小さな頃から、ブス、バケモン、怪物、ブルドッグ、半魚人、ミイラ女、砂かけババアなどと呼ばれ、
やがては、ある事件を引き起こして、町中の人たちから、" モンスター " という蔑称を付けられます。
ヒロインは追い出されるように上京して東京の短大に入学します。
百田尚樹は、ヒロインが、物心ついて以来、ブスであることだけが原因で被る、ありとあらゆる悲惨で不幸なエピソードを羅列していきます。

高校時代にも醜い顔で苦しんだが、それはまだましだったと、東京へ来てわかった。
東京は「美しい」ということが田舎以上に価値がある街だった。
まさに「美人のための街」だった。
「美しくない女」は貶められる街でもあった。


街全体が叫んでいた。
「美しさこそ善」であり、「美しさこそ力」であり、「美しさこそ勝利」だと。
この街では「女」というのは「美人」のことだったのだ。

東京に来て感じたのは、若い女性が全員、美人コンテストに参加していることだった。
いや、みんな喜んで参加しているわけではない。
無理矢理に参加させられているのだ。

万人参加の美人コンテストでは、美人の参加意識は低かったのだ。
その意識が強かったのはむしろ中途半端なブスだ。
彼女たちこそ予選通過して美人の仲間入りをさせてもらえるかもしれないと苦しんでいたのだ。

しかし彼女たちも私ほどの惨めさは味わっていない。
私は最初からランク外だったからだ。


短大を卒業したヒロインは一般の会社への面接では、すべて相手にされず、結局、製本工場のラインに女工として就職します。

私はこの職場で、ブスを嗤うのは男だけではないと知った。
時には女の方がずっと残酷にブスを嗤う。


24歳の時にヒロインは二重瞼の整形手術を受けて感動します。
しかし、職場のトイレで、同僚たちが聞こえよがしに、"ブルドッグに目だけお人形さんの目くっついてるんだもん、おかしくって-"と言われます。
人生で初めて切れたヒロインは、同僚の髪の毛をつかんで鏡に叩きつけて正座させ、その肩を蹴飛ばします。
ヒロインは身長165cmで、結構ガタイが良かったのです。

トイレで怒鳴った時から私の中で何かが変わった。
それまでこそこそと隠れるように生きてきたのが、堂々と自己主張をするようになった。
言いたいことがあったら大きな声で言えるようになった。
どんな時にも怯むことはなくなった。


ここら辺のくだりが、百田尚樹の真骨頂でしょうか、胸のすくような展開です。

その時、私にシフトを代わってくれと頼んだ山岸は女子社員のリーダー格の人で、皆に恐れられている存在でもあった。
彼女は前日のトイレの一件を誰かに聞いていて、私に職場での序列を教えておこうと思ったのかもしれない。
「鈴原さん、来週の日曜のシフト代わってね」
山岸は更衣室で私とすれ違いざま、天候の話でもするように気軽に言った。
返事をしない私を見て、彼女は声を低くして言った。
「ちょっと-聞こえてるの?」
私は振り返った。
「どうしてお前のシフトを代わらないといけないんだよ」
更衣室にいた何人かが話を止めた。
山岸は顔を引きつらせたが、私を睨みつけて言った。
「その言葉遣いは何よ」
私は彼女の前に近づいて言った。
「ぶっ殺してやろうか」
山岸は唇を震わせたまま、一言も言い返せなかった。
その顔はみるみる青くなった。
その日以降、私に話しかける女子社員は誰もいなくなった。


やがて工場長に呼び出されて、協調性を持つようにと説教されますがヒロインは反発します。

「そういうことを言ってるとね、辞めて貰わないといけなくなるよ」
「クビですか」
「最悪の場合はね」
「私をクビにしたら、その足で労働基準局に行きますよ。
そしてあなたを職権乱用で個人的に訴えます。
新聞に投書して、大問題にしてやります。
あなたも会社にいられなくしてやります」
「待ってくれ。私は何もクビにするとは言ってない。あくまで最悪のケースの一つとして言ったまでで-」
「何でも言ったらいいというもんじゃないぞ」と私は怒鳴った。
「あんたが女子社員と不倫しているのを会社に言ってやろうか」
工場長は顔色を変えた。
「何も知らないと思ってるのか、ああん? あんたが稲森とできてることくらい知ってるのよ」
「大きな声を出さないでくれ」工場長は懇願するように言った。
私は足元の屑籠を蹴った。屑籠は壁の方に転がり、中の紙屑が部屋に散らばったが、工場長は何も言わなかった。
「すみませんでしたって言えよ!」と私は言った。
工場長は俯いたまま小さな声で、すみませんでした、と言った。
私は声を上げて笑いながら部屋を出た。

孤独になって初めて、私がずっと何を恐れていたのかがわかった。
他人に「これほど醜い顔をした女は、内面も醜いんじゃないだろうか」と思われるのが怖かったのだ。
思えば長い間、顔は醜くても心の中はそうじゃないということを周囲の人にわかってもらいたくて生きてきた。
でも、そんな生き方は間違っていた。
私がいい人になろうとすればするほど、周囲の人は私を馬鹿にし、見下していたのだ。
醜い女が謙虚な姿勢を示したり優しさを出したりしても、他人は「醜い女だから当然」と思うのだ。
むしろ普通の人と同じことをすれば、「何を思い上がっているのか」と思うのだ。
もう誰に何と思われようとかまわない。
どうせ私は醜い女なんだ。


ここら辺までが前半で、後半は徹底的な整形手術で素晴らしい美人に変身したヒロインの復讐劇が始まるのですが、
世の中が、いかに美人にとって、都合よく快適にできているかということを、前半の裏返し(表返し?)として記されていきます。
まあ、面白くはあるのですが、この作品のメインテーマは、"ブスの不幸" につきると思われます。
このような重たいテーマを、ここまで粘着的に掘り下げた作品は初めてです。

しかし、この作品を、もしもブスを自認する女性が読んだならば、怒りがこみ上げるのではないでしょうか。
事実が書かれているわけですが、それを、男である百田尚樹がズバリと指摘することに対して、腹が立つのではないでしょうか・
"事実だけど、不愉快だから指摘するなっ"と。

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