はせがわクリニック奮闘記

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三好達治・昼

2016年06月10日 | 読書
一昨日、飲みながらテレビを観ていると、三好達治の有名な詩、” 乳母車 ” が紹介されていました。
高校生の頃の私は三好達治の大ファンでした。
私が最も好きだった詩を紹介します。



別離の心は反つて不思議に恋の逢瀬に似てあわただしくほのかに苦い。

行くものはいそいそとして仮そめの勇気を整え、
とどまる者はせんなく煙草を燻らせる束の間に、ふと何かその身の愚かさを知る。

彼女を乗せた乗合馬車が、風景の遠くの方へ一直線に、
彼女と彼女の小さな手提げ行季と二つの風呂敷包みを伴れてゆく。

それの浅葱のカーテンにさらさらと木洩れ日が流れて滑り
その中を蹄鉄がかはるがはる鮎のように光る。

ふつと、まるでみんなが、馭者も馬も、たよりない鳥のやうな運命に思はれる。

そして、それはもうすぐ、あのここからは見えない白い橋を
その橋板を朗らかに轟かせて、風の中を渡って走るだらう。

すべてが青く澄み渡った正午だ。

そして私の前を矮鶏の一列が石垣にそつて歩いている。

ああ時間がこんなにはっきりと見える!

私は侘びしくて、紅い林檎を買った。


20代の頃に、私は6年間一緒に暮らした女性と別れました。
彼女は卒業して、郷里である福岡に帰ることになったのです。
彼女の荷造りを手伝いながら、ふと、この詩を思い出しました。

そして、当然ですが、ゆっくりと煙草を燻らせながら、文学的なカタルシスを味わいました。

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