恒例の敬老会が開催されて、マジックショウを楽しんで、飲んだり食べたり歌ったり
和やかなうちに終わった。
私はまだ招待されない、設営する裏方に徹している。
後2年で招待される側に立つことになる。
松本に向かう汽車が急勾配を喘ぎながら登り、それから鉄路を軋ませながらゆっくりスイッチバックして姨捨駅に停車する、わずかな乗客がホームに降りて改札口に向かって歩いて行く。
乗客を吐き出して一呼吸置くと汽車は動き始める。
しばらく走ると汽車は冠着トンネルに入る、その手前で機関手は鋭く警笛を鳴らすと、乗客は心得て窓を一斉に締める。
急勾配の登りトンネルである、気合を入れて石炭を投入し、馬力を最大限に引き出さないとこのトンネルは抜けられない。
窓のない機関室に瞬く間に煙が充満しする、機関助手泣かせといわれる所以である。
客室の中にも窓の隙間を通して、石炭臭く、喉を刺激する煙が容赦なく入り込んで、乗客はハンカチやタオルで顔を覆い、車内の視界は極端に悪くなる。
乗客はひたすら耐えた。
トンネルを抜けると乗客は先を争って鎧戸の様な重い窓を開けると、野の花が咲く別世界が開け、流れ込む新鮮な空気を思い切り深呼吸した。
ローカル線での電気機関車運行など夢の又夢であった。
当たり前のことだけれど、登山道は山腹にジグザグ模様を描くように作られている。
歩く距離は長くなるけれど、その分傾斜が緩やかになって歩きやすい。
鉄道が標高を稼ぐためジグザグに折り返しながら走行することを、スイッチバックという。
松本から長野に通ずる篠ノ井線姨捨駅は、その特異な駅名と共にスイッチバック駅としても知られている。
善光寺平から2.5%の急勾配を一気に駆け上がった標高551メートルからの眺望は素晴らしい。
この駅から九ヶ所の旧国鉄駅が見えるといわれたが、現在は新駅も増え、更に多くの駅舎が望めるはずである。
姨捨とは70歳を越えた棄老伝説によるといわれ、それは現代にも通じて物悲しい。
急斜面に作られた棚田は月の名所として古代より名高い。
水が張られた千枚の棚田の1枚々に月が映る、しかし一人が見ることのできる月は、一ヶ所の一つだけである。
9月19日(日曜日)徒歩で善光寺を目指すグループが姨捨駅に集う。
オクラは夏野菜の定番とし我が家にしっかり根付いている。
細かに刻んで生食し、味噌汁の具、揚げ物、漬け物、煮物等にして毎日せっせと食べても食べきれないほどの量が取れる。
栽培する本数を欲張って20本にしたのが間違いだった。
近所の野菜畑のオクラは何故かなよなよして儚げだ。
2メートル近く成長した我が家の瑞々しいオクラを、それらの家々に配って回る。
特有の粘り気はペクチン等の食物繊維でコレステロールを減らす効果があり、更にビタミン、ミネラルを多く含み夏バテ防止に効果があるといわれる。
調べによれば、熱帯が原産の野菜で日本には明治初期に渡来し、花の美しさから「秋葵」と呼ばれることもあるという。
我が家で栽培を始めたのはいつごろのことだろう、幼い時の野菜畑にオクラの記憶はない。
ヒマラヤの高地で紅い花の咲く蕎麦に出会い、心寄せてその種子を持ちかえった人がいる。
その種子は長い年月をかけ、信州伊那谷の風土に馴染むよう改良され、高嶺ルビーと命名された。
信州伊那谷ではいま、丘陵を紅色に染めて高嶺ルビーの絨毯が敷き詰められているという。
南アルプスと中央アルプスの狭間に天竜川が流れ、単線の鉄路がその川に沿ってうねりながら静岡県に向かう。
のどかな風景を訪ねる人が増えている。
そんな旅人になりたい心境である。