終齢幼虫が前蛹になる準備を始めました。それまでは餌を食べるのがたいせつな日課だったのですが,コップに挿した枝から離れて,箱の中を徘徊するようになったので,それとわかりました。
それで,撮影に都合がいいように篠竹に取り付けました。表面がツルツルなので,つかみにくそうにしていましたが,なんとかつかんでくれました。
やはり前蛹直前だったようで,幼虫は頭を下向きに変えて竹の表面に絹糸を盛んにくっ付け始めました。いわゆる糸座づくりです。頭をゆっくり右に,そして左に,また右に,左に,というように,時間をかけて丁寧に付けていきました。
最接近で写すと,口から出されたばかりの糸が見えます。
そうして,これでいいだろうと思ったのでしょう,からだを反転させて尾脚を先程くっ付けたばかりの糸座辺りにもっていきました。そこからはわたしが初めて知った事実です。
尾端をポンポンと数回,その辺りに打ち付けるような動作をしました。それはちょうど,野球グラブの内側を手で何度も強くあてがう動作にそっくりです。わたしはてっきり,糸がある辺りを探しているか,糸に肢を強くくっ付けようとしているか,そんなところだろうと思いました。それは瞬間の出来事だったからです。
しかし,その動作が終わり固定の様子を観察した直後,「アッ,そうなのか」と感じたことがありました。たぶん,これは間違いない真実でしょう。じつは,ポンポン打ち付ける動作は,尾端を糸座にしっかり付け,糸をできるだけたくさんくっ付ける作業だという点です。先に付いた糸が束状になっています。じつに巧みな作業です。
細かなことでも事実を観察して解釈するのは,動物の行動を理解していくうえでたいへん重要なことだと思われます。
こうしてひとつの仕事を終え,個体は一息つきました。