ジャコウアゲハの幼虫の食草はウマノスズクサです。この草は蔓性の多年生植物です。草に含まれる成分アリストロキア酸を体内に蓄えて,身を守る生き方を身に備えてきたのは,よく知られた話。アリストロキア酸の持つ毒性が他の生きものに威力を発揮するのです。
それを好んで食べるとは,おもしろい昆虫です。ただ,ふしぎなのは「では,ウマノスズクサはなにかの点でいいことがあるのだろうか」という点です。共存しているとすれば,ギブ&テイクなのですから,そこに巧妙なバランスが成立していはず。
ところが,そんなバランスなどこかに吹っ飛んでしまうほど壮絶で,無残な結末を迎えるのが常なのです。葉はもちろん茎も食べます。茎など,成長点がある先端を平気で平らげます。まったくお構いなく! 律儀に順を追って食べるなんてこともありません。ひたすら食べるだけなので,葉の切れ端がボロボロと落ちていきます。勿体ない,勿体ない。
幼虫には,損得勘定はまるでないでしょう。
一方のウマノスズクサは食べられるだけ。ただし,アリストロキア酸は本来葉が食べられないようにするための防御策のはず。これを逆手にとったアゲハの所為でとことん犠牲になるとは!
これって,ウマノスズクサには完全なる害虫,加害者であるに過ぎないように見えます。実際,そうなのでしょう。
ウマノスズクサがなくなると,幼虫同士が共食いすらすることがあるといいます。しかし,わたしはそんな場面を目撃したことがありません。脱皮したあと,殻を食べるのが織り込みの習性なのですから,そうした場面があってもおかしくはありません。
それにしても,一方的な“食物連鎖”の世界です。