細太郎の父のピカイチです。
夏休み前の三連休。台風と梅雨前線のおかげで、朝から雨が降っている。
どこにもでかけることができず、うちでゴロゴロしていると、雨で試合がなくなったけんちゃんが、
「パチンコ行くべ」
と誘ってきた。 俺はそんなものには興味はないが、
「仕事人やっぺよ、おもしれ~ぞ」
と、あんまりしつこいので仕方ないのでついていくことにした。 スカパー!で見ているせいか、ちらっと「仕事人」という言葉に心が動いてしまった。
というわけで、1時間後、俺はけんちゃんと並んでパチンコ屋の「必殺仕事人」の前に座っていた。どうしたらいいのかわからない俺に、
「ここに金入れるの、玉はここ狙え、ほんとはいけないんだけどハンドルに10円はさんで…」
と懇切丁寧に教えてくれて、
「あとはハンドル握ってれば台が勝手にやってくれる」
と、けんちゃんはタバコをふかしながら台とにらめっこを始めてしまった。
「そんだけかよ」
俺は文句を言ったが知らん顔だ。 仕方ないので、ハンドルを握ると玉が面白いように飛んで行き、画面では泥棒を捕まえ損ねた田中様が、「中村さんっ!!」を連発していた。と、あっという間に玉がなくなり俺はもう1枚千円札を入れるた。 画面は中村家の門前で中村主水が泥棒を捕まえ、食事の用意をした「せんとりつ」が映った。
「あ」
お馴染みの必殺のファンファーレが響きわたり、
「おっ」
気づいたけんちゃんが台を覗き込んだ。
「確変、大当たりだ」
けんちゃんは、 「この野郎」とつぶやくと自分の台に向き合ってしまった。
それから、確変は止まらず17連発。
確変にも仕掛けがあり、さらわれた女性を救い出すために悪役を倒すんだが、おふゆ、おあきと救い出した後に、なんと画面は「田中様さらわれる」となり、俺は吹き出してしまった。 しかし、2人めの悪役を倒したところで確変は終了。田中様は救い出せず仕舞いだった。
「ビギナーズラックだな」
けんちゃんは不機嫌な表情をして、俺のあまり玉でタバコを交換すると、
「八万以上も儲かったんだ、飯くらいおごれ」
と、煙を吹きかけてきた。
俺はこれで細太郎と旅行に…、と考えていたが、まあ、いいか泡銭だから、と考え直した。
しかし、気になって仕方ないんだが、さらわれた田中様、あとはどうなったんだろ。 「どうでもいいだろ、そんなこと」
けんちゃんの不機嫌は直っていないな。
細太郎に何を買ってやろうかなあ。