我が尊敬してやまない「歌う人間国宝」山下達郎が、ネットで大炎上している。
事の発端はご承知のように、松尾潔氏がスマイルカンパニーとの契約を解除した件で
「山下達郎さんもこの件については…」
と突如達郎の名前が出て、様々な憶測が飛び交い物議を醸したため達郎の唯一の公式発言の場であるラジオ「サンデー・ソングブック」7/9放送分で7分間にわたり言及した事による。
私も山梨の旅から帰る途中のクルマで耳を皿にして聴いていたのだが、発言を要約すると
・松尾潔氏とは雇用関係になく、契約解除であり双方合意文書も存在する。
・ジャニー喜多川氏の性加害について、単なるミュージシャンの自分が知る由もないが、性加害そのものはあってはならない。
・ジャニー喜多川氏は恩人。多くの才能を持ったタレントと出会わせてもらったおかげで、ミュージシャンとして自分も成長させてもらった。
・「ジャニー氏に対する忖度」と思うなら別に構わない。そんな人に私の音楽は必要ない。
となる。
この発言直後からネットでは
「長年のファンなのに、見損なった」
「性加害者の擁護はセカンドレイプになる事もわからないのか」
などというコメントが相次ぎ、ツイッターでは一時「#山下達郎」がトレンド入りする事態となった。
「2ちゃんねる」創始者の西村ひろゆき氏が言うように、ネットにコメントする人はヒマな人で、大半の多忙な常識人はコメントを書き込まない、というのも当たっているのかもしれないが、私は達郎の毅然としたコメントに心の中で拍手を送っていた。
ジャニーズ事務所内の性加害は、随分昔から噂になっており、公然の秘密とされていた。
今回、英国BBCのドキュメンタリー番組により白日のもとに晒される結果となったのだが、大前提として性暴力はあってはならない。これは当然の事。
単なる芸能界の闇の問題ではなく、人権問題。
ではBBCが報じるまでダンマリを決め込んでいたのは、マスコミだけなのか?
一般人の多くも噂は知っていただろうに、BBCの尻馬に乗ってやれ日本のマスコミはヘタレだと罵る資格はあるのか。
一般人は、そこまで聖人君子なのか。
ジャニーズアイドルに熱狂するファンは、目の前で踊るアイドルがみな喜多川氏に性暴力を受けたうえでスターになったのを、薄々知っていたのではないのか?
「喜多川氏の擁護は、性犯罪者の擁護そのもの」
といった書き込みが多いが、コメント主は本当に人の話をよく聞かない人が多いので呆れる。
達郎は
「性犯罪は許されるものではなく、第三者委員会を立ち上げるべき」
と言明している。
これの、どこが擁護なのか。
これほどわかりやすい
「罪(=性犯罪)を憎んで、人(=喜多川氏)を憎まず」
はない。
切り取り、印象操作もひどい。
達郎はSMAPの解散、嵐の活動休止、キンプリの分裂などジャニーズの闇の部分にも触れており、こちらの意義は大きい。
喜多川氏の行動について、第三者委員会を立ち上げて真相究明せねばならないとまで言及している達郎の、一体どこが忖度なのか。
達郎は自らを「アーティスト」とは絶対に名乗らない。
1991年のアルバムタイトルのように、達郎は職人=アルチザンなのだ。
極端に言えば、職人は獄中から仕事の依頼があっても請ける。
請けたうえで、最高の仕事をする。
そしてその成果物に、何の罪もない。
それ以上でも以下でもない。
喜多川氏が所属タレントに性暴力を働いていたかを達郎が知る由もなかった、という発言の真偽のほどは定かではない。が1999年に東京高裁判決が出ているのを達郎が知らないはずもなく、ここには申し訳ないが達郎の逃げを感じてしまう。
が、知っていたとて達郎は作曲依頼を請けていたはずだ。
仮に達郎が保身に走るなら、性加害を機にジャニーズと縁を切っていただろうが、むしろその方がファンとしては残念だったろう。
私は、誤解を恐れず喜多川氏への義理を語った達郎の覚悟を称えたい。
そして今回の件でもし長年のファンが辞めるような事態になれば、むしろ今後チケットが取りやすくなるので大いに歓迎する。
コアなファンならわかると思うが、達郎はドロップアウトで音楽を始め、食えなかった時代も長かった。
ライブのMCでもおなじみだが、達郎は自らを「心情的アナーキスト」と称する、徹底した反権力だ。あの耳に心地よい声や音とは裏腹に、生き様はロックンロールそのものであり、いくら喜多川氏に恩義を感じようと喜多川氏におもねるような事はしない。
だからこその、第三者委員会云々の発言になるのだ。
性暴力については粛々と真相解明、被害者休載を進めるとして、今回の達郎叩きは終わってみれば義理と忖度の違いがわからない人が思いのほか多かった、というだけの事になろう…