本日も「幕末単身赴任 下級武士の食日記」青木直己著(NHK出版)の本からであります。
万延元年旧暦の5月29日、紀州藩の酒井伴四郎は参勤交代で18日かけて江戸に到着します。見るもの聞くものが珍しく、6月1日に早速、伴四郎は連れ立って江戸名所を見に出かけます。すぐに仕事というわけでなく、観光から始めるところなど、いたってのんびりとしています。
まず、江戸城へ登城する壮観な大名行列の見物です。朝、登城した付き人達は、桜田門や大手門の前で殿様の帰りを待ちます。これを目当てに屋台が出ました。田楽・甘酒・清酒・すし・作り菓子などを食べ、おしゃべりをして時を過ごしたのです。この年の3月3日、桜田門で井伊直弼が殺されています。伴四郎たちはこの大事件に余り関心がありません。
6月17日には、愛宕神社から江戸の町の眺望を楽しみ、帰りに増上寺に立ち寄っています。甘酒とすしを食べ、お土産に子供の腹掛けと煙草入れを買い観光を楽しんでいます。紀州に居る子供を思い出した伴四郎でした。
6月21日。家老である安藤家へ、菓子折りを持ってご挨拶ですが、四谷の祇園天王社の御輿見物のために延期しています。曲太鼓や角兵衛獅子を見たりして、多少の日程変更はどうでも良い感じです。
6月24日、伴四郎たちは渋谷藩邸を訪れてご馳走になっています。あじの干物・からすみ・いさきと芋にぜんまいの甘煮とどじょう鍋(柳川鍋)でお酒をいただき、帰りに立ち寄って、汁粉2杯とすしを食べています。すごい食欲であります。
出勤日は6月3日からでした。午前中の2時間ほど。6月は6日間のみ。7月はなし。8月は4時間勤務が13日間。9月から10日間ほど出ているだけです。これでは時間も持て余し、江戸見物に余念がないのも当然です。
いったいどんな仕事をおおせつかっていたのでしょう。伴四郎の叔父、宇治田平三は膳奉行格衣紋方という役職で、いわばお殿様の装束に関する責任者でした。お殿様の登城に、装束には細かいしきたりが決められていました。忠臣蔵はそのトラブルが原因でしたネ。伴四郎はこの叔父に付いて衣門方の役をおおせつかっています。
11月24日。叔父と連れ立って江戸の豪商三井家で、お殿様に衣装を着せる稽古をしています。このあと接待を受けています。ぼらの味噌汁・蒲鉾・芋・なが芋・たまご巻・ぼらの刺身・貝柱・生海苔・大根で酒を飲み、蒲鉾の味噌汁・芹・椎茸・蒲鉾・麩で飯を食べ、菓子の土産付きでした。
年貢の上に胡坐をかいていた、武家社会の爛熟振りがうかがえます。切り詰めた収入で伴四郎の生活は、さほど豊かなものではありませんでしたが、好きな自炊を楽しんだり、三味線の稽古に出かけたり、湯屋の二階で話し込んだりして、結構持て余した江戸での時間を有意義に使っています。
ということで、今日はおしまいです。
万延元年旧暦の5月29日、紀州藩の酒井伴四郎は参勤交代で18日かけて江戸に到着します。見るもの聞くものが珍しく、6月1日に早速、伴四郎は連れ立って江戸名所を見に出かけます。すぐに仕事というわけでなく、観光から始めるところなど、いたってのんびりとしています。
まず、江戸城へ登城する壮観な大名行列の見物です。朝、登城した付き人達は、桜田門や大手門の前で殿様の帰りを待ちます。これを目当てに屋台が出ました。田楽・甘酒・清酒・すし・作り菓子などを食べ、おしゃべりをして時を過ごしたのです。この年の3月3日、桜田門で井伊直弼が殺されています。伴四郎たちはこの大事件に余り関心がありません。
6月17日には、愛宕神社から江戸の町の眺望を楽しみ、帰りに増上寺に立ち寄っています。甘酒とすしを食べ、お土産に子供の腹掛けと煙草入れを買い観光を楽しんでいます。紀州に居る子供を思い出した伴四郎でした。
6月21日。家老である安藤家へ、菓子折りを持ってご挨拶ですが、四谷の祇園天王社の御輿見物のために延期しています。曲太鼓や角兵衛獅子を見たりして、多少の日程変更はどうでも良い感じです。
6月24日、伴四郎たちは渋谷藩邸を訪れてご馳走になっています。あじの干物・からすみ・いさきと芋にぜんまいの甘煮とどじょう鍋(柳川鍋)でお酒をいただき、帰りに立ち寄って、汁粉2杯とすしを食べています。すごい食欲であります。
出勤日は6月3日からでした。午前中の2時間ほど。6月は6日間のみ。7月はなし。8月は4時間勤務が13日間。9月から10日間ほど出ているだけです。これでは時間も持て余し、江戸見物に余念がないのも当然です。
いったいどんな仕事をおおせつかっていたのでしょう。伴四郎の叔父、宇治田平三は膳奉行格衣紋方という役職で、いわばお殿様の装束に関する責任者でした。お殿様の登城に、装束には細かいしきたりが決められていました。忠臣蔵はそのトラブルが原因でしたネ。伴四郎はこの叔父に付いて衣門方の役をおおせつかっています。
11月24日。叔父と連れ立って江戸の豪商三井家で、お殿様に衣装を着せる稽古をしています。このあと接待を受けています。ぼらの味噌汁・蒲鉾・芋・なが芋・たまご巻・ぼらの刺身・貝柱・生海苔・大根で酒を飲み、蒲鉾の味噌汁・芹・椎茸・蒲鉾・麩で飯を食べ、菓子の土産付きでした。
年貢の上に胡坐をかいていた、武家社会の爛熟振りがうかがえます。切り詰めた収入で伴四郎の生活は、さほど豊かなものではありませんでしたが、好きな自炊を楽しんだり、三味線の稽古に出かけたり、湯屋の二階で話し込んだりして、結構持て余した江戸での時間を有意義に使っています。
ということで、今日はおしまいです。
