昭和36年12月終業式の日。職員室の前に並び通信簿をもらう。後はこれをどうやって母ちゃんに見せるか。その難関さえ突破すれば、楽しいことがぎっしり詰まった冬休みに入る。
24日はクリスマスイブだった。お姉ちゃんがケーキを買ってきて、アメリカさんのまねでパーティをした。朝起きたら枕元におもちゃがおいてあった。百連発のコルト銃だ。サンタクロースの存在は半信半疑だ。
30日は早朝、暗いうちから皆で餅をついた。おいらはもち米を蒸す火の番。父ちゃんと下の兄ちゃんが搗き役。上の兄ちゃんが手返し。母ちゃんが搗きあがったもちを平たく伸ばす。家の中は湯気が一杯で、皆、額に汗がにじんでいる。
初めの5臼は、座敷に並べる。あとで、四角く切って雑煮や焼餅にする。それからお鏡餅を作る。小さいのはオイラも作るが、大きいのは、父ちゃんの仕事だ。さて、お楽しみの時間が来た。最後のひと臼は皆で食べる。菜っ葉の甘辛く炊いたのと、餡子と、黄な粉にそれぞれまぶして食べる。大仕事を終えた後に食べる搗きたての餅は柔らかくておいしい。
搗きあがったひと臼分をリヤカーに積んで、姉ちゃんと二人で親戚の家へ届ける。人っ子一人通らない薄明かりの町を、姉ちゃんがリヤカーを引き、オイラが押す。吐く息が白い。届け先では、おばちゃんが出てきてお菓子をくれた。よく一緒に遊ぶ、いとこの博ちゃんが寝巻き姿で起きてきた。お正月に遊ぶ約束をして帰る。町はすっかり明るくなっていた。
年末の町は、お正月用品を買う人でごった返していた。三が日はほとんどのお店が閉まってしまうので、ちょっと贅沢で、のんびりとしたお正月を過ごすのには、今のうちに買い込んでおかないと困ってしまうからだ。
31日の夜。担任の葛山先生に呼ばれて学校へ行く。お正月発行する「たけのこ新聞」を完成させるためだ。6年生の初め、葛山先生は熱い口調でこう言った。ある学校で学級新聞を毎日出しているところがある。だからお前達も作れ、と。
先生の情熱に負けて、オイラたちは新聞部を作り学級新聞を発行することになった。7名ほどの部員は、給食のあとの掃除は免除という特権を与えられた。代償として、部員一同は記事を集めて、せっせとガリ版に向かった。
夜の職員室は初めてだ。なぜ31日の作業だったのか?たぶん先生が宿直の日だったからだろう。新聞部員3名で仕上げにかかった。モーさんのお正月。これが、たけのこ新聞正月号のタイトル。新しい年は丑年だった。
モーさんの新年の挨拶で始まる。みなさん、あけましておめでとうございます。今年はうし年。ぼくの名前はモーといいます(中国人みたいだ)。これから親せきをまわってお年玉をあつめることにします。数軒挨拶に回るが、成績は思わしくなく、10円、5円と数えて嘆く。そんな内容だったと思う。
謄写版に書きあがった原紙を貼り付け、大きなチューブから出したインクをローラーに絡ませて、わら半紙に刷り上げていく。先生にも手伝ってもらい午後8時ごろに刷り上がった。学校近くから取り寄せたうどんをご馳走になって帰った。
まだ商店街はにぎやかだ。自分の店が一段落すると、まだ買い足りない正月用品の買出しに走る。今日ですべてが終わってしまうような雰囲気だ。
近くの諏訪神社を覗きに行く。数日前から用意されていた丸太に火がつけられていて、参拝の人で賑わっていた。遠くのお寺で除夜の鐘が聞こえる。
24日はクリスマスイブだった。お姉ちゃんがケーキを買ってきて、アメリカさんのまねでパーティをした。朝起きたら枕元におもちゃがおいてあった。百連発のコルト銃だ。サンタクロースの存在は半信半疑だ。
30日は早朝、暗いうちから皆で餅をついた。おいらはもち米を蒸す火の番。父ちゃんと下の兄ちゃんが搗き役。上の兄ちゃんが手返し。母ちゃんが搗きあがったもちを平たく伸ばす。家の中は湯気が一杯で、皆、額に汗がにじんでいる。
初めの5臼は、座敷に並べる。あとで、四角く切って雑煮や焼餅にする。それからお鏡餅を作る。小さいのはオイラも作るが、大きいのは、父ちゃんの仕事だ。さて、お楽しみの時間が来た。最後のひと臼は皆で食べる。菜っ葉の甘辛く炊いたのと、餡子と、黄な粉にそれぞれまぶして食べる。大仕事を終えた後に食べる搗きたての餅は柔らかくておいしい。
搗きあがったひと臼分をリヤカーに積んで、姉ちゃんと二人で親戚の家へ届ける。人っ子一人通らない薄明かりの町を、姉ちゃんがリヤカーを引き、オイラが押す。吐く息が白い。届け先では、おばちゃんが出てきてお菓子をくれた。よく一緒に遊ぶ、いとこの博ちゃんが寝巻き姿で起きてきた。お正月に遊ぶ約束をして帰る。町はすっかり明るくなっていた。
年末の町は、お正月用品を買う人でごった返していた。三が日はほとんどのお店が閉まってしまうので、ちょっと贅沢で、のんびりとしたお正月を過ごすのには、今のうちに買い込んでおかないと困ってしまうからだ。
31日の夜。担任の葛山先生に呼ばれて学校へ行く。お正月発行する「たけのこ新聞」を完成させるためだ。6年生の初め、葛山先生は熱い口調でこう言った。ある学校で学級新聞を毎日出しているところがある。だからお前達も作れ、と。
先生の情熱に負けて、オイラたちは新聞部を作り学級新聞を発行することになった。7名ほどの部員は、給食のあとの掃除は免除という特権を与えられた。代償として、部員一同は記事を集めて、せっせとガリ版に向かった。
夜の職員室は初めてだ。なぜ31日の作業だったのか?たぶん先生が宿直の日だったからだろう。新聞部員3名で仕上げにかかった。モーさんのお正月。これが、たけのこ新聞正月号のタイトル。新しい年は丑年だった。
モーさんの新年の挨拶で始まる。みなさん、あけましておめでとうございます。今年はうし年。ぼくの名前はモーといいます(中国人みたいだ)。これから親せきをまわってお年玉をあつめることにします。数軒挨拶に回るが、成績は思わしくなく、10円、5円と数えて嘆く。そんな内容だったと思う。
謄写版に書きあがった原紙を貼り付け、大きなチューブから出したインクをローラーに絡ませて、わら半紙に刷り上げていく。先生にも手伝ってもらい午後8時ごろに刷り上がった。学校近くから取り寄せたうどんをご馳走になって帰った。
まだ商店街はにぎやかだ。自分の店が一段落すると、まだ買い足りない正月用品の買出しに走る。今日ですべてが終わってしまうような雰囲気だ。
近くの諏訪神社を覗きに行く。数日前から用意されていた丸太に火がつけられていて、参拝の人で賑わっていた。遠くのお寺で除夜の鐘が聞こえる。