語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【読書余滴】中国人の行動特性、中国ビジネスの落とし穴

2010年11月06日 | 社会
 「週刊東洋経済」特集:世界vs.中国/KY超大国との付き合い方・・・・のうち、中国人の行動特性や中国の独特な(あるいは異様な)システム、そしてビジネス上のトラブルや落とし穴の記事を引く。

1 国民国家ではなくて皇帝システムの国
 インタビュー記事である。インタビュイーは、岡田英弘(東京外語大学名誉教授)および宮脇淳子(東洋史学者)。

 中国人の行動原理は、日本人とはまったく違う。
 たとえば、中国人は「家を出れば周りの人間はすべて敵である」という価値観をもっている。妻にさえ本当のことを告げない。弱みをさらすことになるからだ。
 中国人は、自らの正当性を主張するために、過剰ともいえる行動をとり弁論をふるう。尖閣諸島問題でも、こうした特徴が表れている。
 意見や利害が対立して当たり前だから、個人レベルでも、国家や企業レベルでも、交渉で激しく意見をぶつけてくる。相手から反発がなければ、もっと押してくる。押されて抵抗しなければ、ずるずる後退するだけだ。
 現在の中国を支配する共産党の本質は、国民国家のベールをまとった皇帝システムである。中国の王朝は、人民や土地を直接支配するのではなく、流通システムを握ることで統治してきた。王朝が交替しても、やり方は変わっていない。中国は、古来から総合商社のようなものだった。
 「中国は資本主義を進め、自由主義を受け入れる」と思う人は、歴史を知らない。


2 日本企業が直面する中国ビジネスの落とし穴
 北京在住のライター田中奈美による記事である。

(1)売掛金の未回収
 中国ビジネスの代表的なトラブルだ。契約書で期日を定めても、大概の場合、期日どおりに支払われないことが多い。支払いが遅れるだけならまだしも、未払いのまま相手が逃げてしまうこともある。
 あるコンサルティング会社(上海)の社長は、さらにひどい状況に陥った。本来「優良企業」のはずだった会社を買収後、会社の中国人社長が取引先と組み、回収した売上金を懐に入れていた・・・・らしいことが後でわかった。
 内田が経験した別の買収では、契約期限の切れた2年後、買収先の中国人社長が複数の部下を引き連れて独立し、競合会社を作った。過去の帳簿を調べると、多額の資金が社長の故郷の大手企業に支払われているなど、妙な点がいくつもある。相手企業もグルになり、独立のための資金を不正に引き出していた形跡もあった。が、証拠をつかめなかった。
 以上の2ケースは敵対的買収ではない。にもかかわらず、会社が自分のものでなくなると、とことん私利に走る。そして、契約の在任期間が終わる頃には、買収した会社が空っぽになってしまうのだ。
 別のケースでは、買収先の中国人社長を解雇したところ、会社の印鑑を持ちだされてしまった。そして、社長の身内の会社と勝手な契約を結ばれたうえ、契約どおりの支払いをしないから契約不履行だと言いがかりを付けられた。盗まれた印鑑で締結された契約だと立証するのは困難である。結局、カネを支払わされた。

(2)税務署や工商管理局の嫌がらせ
 外国企業にとって難しい問題は、訳書との付き合いや法律の運用、改正などの「公的リスク」だ。
 中秋節や春節前には付け届けをする必要がある、と現地法人(北京)のある責任者は語る。4~6千元の希望のものをさりげなく担当者に尋ねる。今ならアイパッドなどが最適。相手が40代以上なら、高級な酒や煙草など換金できるものを贈る。さらに接待の場をもうけ、日常的に良好な関係を保っておくことが、いざという時に厳しい処分を受けない予防策になる。
 だが、「イレギュラー」も発生する。3年に1度くらい、税務調査が入る。付き合いのない別管轄の担当者がくる。数年分の税務申告書をチェックされ、もっと儲けがあるはずだ、と多額の追納金を請求されることになる。
 こうした場合、担当者の人間関係を調べ、担当者に影響をもつ人物にコンタクトをとることになる。この人物に口をきいてもらい、追納金を減額してもらう(ゼロにはできない)。
 外資系企業の場合、年に1回、地方政府の工商管理局が経営状況の調査にやってくる。担当者と良好な関係があれば書類数枚を提出して終わりだが、日ごろ接点がないと調査が長引く。最悪の場合、営業許可が取り消される。

(3)グレー・ゾーン
 法律どおりにきちんと経営すればコネがなくとも何の問題もないはずだ。しかし、それは難しい。規定どおりに社会保険料(年金保険を含む)を払うと手取り給料の2.5倍から3倍ほど会社が負担しなければならない。起業したばかりの小さな会社では、こうした部分を手抜きすることになる。中国では、それが普通だ。だから、日ごろの関係づくりが重要になるわけだ。ただし、100%の保証にはならない。
 ある程度グレー・ゾーンに踏みこまないと商品販売で競争に勝てない。たとえば、関税の基準となる販売価格を低く申告して関税額を抑えたり、三ぷり品として関税を払わずに輸入したりすることで正規品より安く仕入れる。ある程度黙認されている。しかし、販売規模が大きくなり、目立つと当局がやってくる。

(4)「公的リスク」 
 中国では、同じ役所の窓口でも、担当者によって法律の解釈や運用が違う。それが普通だ。そして、地方ごとに法律の解釈や運用が違う。
 法律や、その他の制度が突然変わって、これまで問題のなかったことが急に禁じられることもある。
 たとえば、北京で、商業用と住居用の両方に用途が認められていたタイプのビルが、住居用に限る、と解釈が変わったことがある。解釈の変更前に「住居」階下に飲食店を出店するべく不動産契約を結び、営業許可を待つだけだった飲食店のオーナーは、開業直前にすべてがストップしてしまった。

(5)有力者への仲介は怪しいと心得よ
 (4)の飲食店のオーナーは、コネを使って営業許可を得たが、必ずしもすべてがコネで解決できるわけではない。
 しかも、中国では、許認可がらみの詐欺事件が多発している。有力者への仲介者を信用して、言われるままに資本金を出すと、そのままカネが消えてしまうのだ。損害は、数千万円から数億円にのぼる、という。
 曾我・瓜生・糸賀法律事務所の北京事務所代業、水野海峯弁護士は言う。「日本人は無防備に相手を信用しがちだが、それでは失敗する。中国では、相手の言うことをまず疑ってかかるくらいでないと、逆にばかにされるし、とことんだまされる。法的紛争を避けるためにも、相手のことをきちんと調べることが必要だ」

【参考】「週刊東洋経済」2010年11月6日号
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