語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

書評:『プロフェッショナルたちの脳活用法2 -育ての極意とアンチエイジング-』

2010年12月28日 | 医療・保健・福祉・介護
 副題にあるように「育て」が主題で、子ども、部下、自分の脳の育て方に前半の3章をあてる。後半の3章は、脳の老化対策である。
 子どもの育て方の基本は、自発的行動の尊重である。親や教師は、積極的に観察しながら辛抱強く待ち、見守る。与えるのは答えではなくヒントだ。そして、褒め上手は子どもの育て上手である。
 部下の育て方の基本は、任せることだ。上司は目標設定し、安全基地(セキュアベース)を提供するが、細部に口だししない。失敗した場合をふくめて、まるごと部下を受け入れること。まずは評価できる部分を褒めて、聞く耳を持たせること。そして、上司の聞き上手は部下の育て上手である。
 自分の育て方も基本的には子どもや部下の育て方と同じなのだが、自分にしかできないのは、後悔すること。失敗を点検し、次の機会に活かすのだ。将棋の感想戦では試合よりも時間を費やす。相手の視点に立つことで自分の長所や欠点が見えてくるし、思考の幅が飛躍的にひろがる。そして、逆境をバネにすること。脳に限界はない。自分に限界はない。
 脳の育て方は、逆にみれば脳の老化の防ぎ方となる。
 アンチエイジングに係る後半の3章に記される具体的な対処法は、読んだその日から実践できることばかりだ。たとえば、適度に体をうごかし、これを習慣にすること。家事にはアンチエイジング効果がある。あるいは、その日の出来事は、翌日思いだしながら記録すること。また、おしゃべりは脳を若返らせるし、おしゃれは脳を活性化する。そして、学習。好きなことを楽しく学ぶのだ。

 本書は、以上のように、最初は駆け足でざっと拾い読みするとよい。細かい理屈はとばして、何をするべきかに着目するのである。再読の段階で、行動と脳との関係に注意をはらうのだ。脳科学的根拠を押さえることで、なぜこうすればよいかが納得できる。そして、それぞれの「育て」に共通する要因、相互の関連も見えてくる。
 たとえば、後悔すること。ネガティブな感情だからよいことはなさそうに見えるが、脳科学的にみればそうではない。後悔するとき、眼窩前頭皮質が活発に働く。眼窩前頭皮質は、環境の変化に対する適応力を司る部位だ。後悔すると、神経回路のつなぎかえが行われ、次回は後悔しないですむよう脳が工夫するのである。
 前作『プロフェッショナルたちの脳活用法』は、新書にしては情報量が多く、いささか詰めこみすぎで、意余りて言葉足らずの感があった。この点、本書は手ごろな情報量だ。2本のTV番組をもとに、1冊の新書をこしらえたからだ。
 したがって、前作と本書は、刊行順に読むのではなく、本書を読んだあとで前作にもどるほうが、読者にとってはわかりやすいと思う。

□茂木健一郎・NHK「プロフェッショナル」製作班編著『プロフェッショナルたちの脳活用法2 -育ての極意とアンチエイジング-』(NHK出版生活人新書、2010)
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