本名・堀内秀(作家/精神科医)、2013年6月6日逝去。享年83。
晩年は神奈川県鎌倉市で執筆活動に専念する一方、2003年にインターネット上の仮想政党「老人党」を立ち上げ、ホームページで弱者が暮らしやすい社会づくりや平和を訴えた。
☆代表作
『娘の学校』(中央公論社、1969。後に中公文庫)
『お医者さん 医者と医療のあいだ』(中公新書、1970)・・・・毎日出版文化賞受賞
『アルコール中毒 会的人間としての病気』(紀伊国屋新書、1966。後に『アルコーリズム』、朝日文庫、1966)
『人間、とりあえず主義』(筑摩書房、2002)
*
●追悼(加賀乙彦・談)
<昨夏に軽井沢の高原文庫で開いた北杜夫展に参加してもらったのが最後になりました。いつもとちっとも変わらず、ユーモラスだった。なだと僕は同い年生まれで、境遇も似ていて、何かあれば電話をかけあっていました。「パパのおくりもの」以降の彼のエッセーはすばらしかった。鋭い社会批評で、時代時代の一番の欠点をついていた。晩年に彼がつくった「老人党」には僕も引き込まれて。なだのエッセーを集めれば、それがそのまま時代史になるという気がします。>
□記事「精神科医で作家のなだいなださん死去 「権威と権力」」(2013年6月11日付け朝日新聞)
*
●追悼(内橋克人・談話)
専門家の知ではなく、人々の磨き上げられた「常識」こそが人間を解放する。そんな信念を持った人でした。
日本社会はしばしば、特定の価値観や指導者の旗振りに従う形で熱狂的な自己陶酔に流れます。なださんは常識への信頼を足がかりに、ひるまず、ユーモアも使いながら、時々の多数派の流れに警鐘を鳴らしてきた。経済の場で長く“主流”に批判を唱えてきた私にとって、その言動は「賢さを伴った勇気」の見本でした。
精神科医としてアルコール依存症という厄介極まる問題に向き合った経験を通じて、なださんは人間存在についての認識をつかみとった。人間は本源的に病理とともにある、との認識です。病とともに生き続けている人間がどう秩序を作り出すのか。そういう考察が、なださんの文学に深みを与えていた。
(中略)
なださんは繰り返し、コモンセンス、つまり常識が大事だと語った。医師として、専門家の知では癒やせない問題を前に、「患者に学ぶ」姿勢を採ってきた。水俣病に取り組んだ医師・原田正純さん(故人)とも通じあう態度です。人々の中に生きる、歴史を通じて磨き上げられた常識と、それに支えられた秩序への信頼が感じられました。「老人党」を設立する発想の根にも「老人の知恵は社会の宝だ」という常識があったと思います。
(後略)
□記事「常識信じ時代に警鐘 なだいなださんを悼む」(朝日デジタル2013年6月11日)
*
●(天声人語)なだいなださん、逝く
現実がよく見えた人だった。なだいなださんは、ネット上の仮想政党「老人党」をつくり、政権交代を目指した。(中略)現実を見すえつつ楽観主義を貫いた。名著『権威と権力』では、〈絶望的な状況でも、希望を失わない人間〉に自身をなぞらえる。そして理想とは〈たどりつけるもの〉ではなく、〈見つめるべきもの〉である▼権威も権力もない社会は来ないとわかった上で、状況への発言を続けた。第1次安倍政権のナショナリズムへの傾斜を「国家中毒」と批判した。いまのアベノミクスも疑い、先月末には〈浮いた気分も、もう終わりでしょう〉と書いた▼大切にした臨床での心得がいい。アルコール依存症は「治す」のではなく、患者と「つき合う」。医師の仕事は「人間というものがよく見えるし、自分自身のいいところ悪いところが鏡のように映る」(後略)
□天声人語「なだいなださん、逝く」(朝日デジタル2013年6月11日)
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晩年は神奈川県鎌倉市で執筆活動に専念する一方、2003年にインターネット上の仮想政党「老人党」を立ち上げ、ホームページで弱者が暮らしやすい社会づくりや平和を訴えた。
☆代表作
『娘の学校』(中央公論社、1969。後に中公文庫)
『お医者さん 医者と医療のあいだ』(中公新書、1970)・・・・毎日出版文化賞受賞
『アルコール中毒 会的人間としての病気』(紀伊国屋新書、1966。後に『アルコーリズム』、朝日文庫、1966)
『人間、とりあえず主義』(筑摩書房、2002)
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●追悼(加賀乙彦・談)
<昨夏に軽井沢の高原文庫で開いた北杜夫展に参加してもらったのが最後になりました。いつもとちっとも変わらず、ユーモラスだった。なだと僕は同い年生まれで、境遇も似ていて、何かあれば電話をかけあっていました。「パパのおくりもの」以降の彼のエッセーはすばらしかった。鋭い社会批評で、時代時代の一番の欠点をついていた。晩年に彼がつくった「老人党」には僕も引き込まれて。なだのエッセーを集めれば、それがそのまま時代史になるという気がします。>
□記事「精神科医で作家のなだいなださん死去 「権威と権力」」(2013年6月11日付け朝日新聞)
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●追悼(内橋克人・談話)
専門家の知ではなく、人々の磨き上げられた「常識」こそが人間を解放する。そんな信念を持った人でした。
日本社会はしばしば、特定の価値観や指導者の旗振りに従う形で熱狂的な自己陶酔に流れます。なださんは常識への信頼を足がかりに、ひるまず、ユーモアも使いながら、時々の多数派の流れに警鐘を鳴らしてきた。経済の場で長く“主流”に批判を唱えてきた私にとって、その言動は「賢さを伴った勇気」の見本でした。
精神科医としてアルコール依存症という厄介極まる問題に向き合った経験を通じて、なださんは人間存在についての認識をつかみとった。人間は本源的に病理とともにある、との認識です。病とともに生き続けている人間がどう秩序を作り出すのか。そういう考察が、なださんの文学に深みを与えていた。
(中略)
なださんは繰り返し、コモンセンス、つまり常識が大事だと語った。医師として、専門家の知では癒やせない問題を前に、「患者に学ぶ」姿勢を採ってきた。水俣病に取り組んだ医師・原田正純さん(故人)とも通じあう態度です。人々の中に生きる、歴史を通じて磨き上げられた常識と、それに支えられた秩序への信頼が感じられました。「老人党」を設立する発想の根にも「老人の知恵は社会の宝だ」という常識があったと思います。
(後略)
□記事「常識信じ時代に警鐘 なだいなださんを悼む」(朝日デジタル2013年6月11日)
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●(天声人語)なだいなださん、逝く
現実がよく見えた人だった。なだいなださんは、ネット上の仮想政党「老人党」をつくり、政権交代を目指した。(中略)現実を見すえつつ楽観主義を貫いた。名著『権威と権力』では、〈絶望的な状況でも、希望を失わない人間〉に自身をなぞらえる。そして理想とは〈たどりつけるもの〉ではなく、〈見つめるべきもの〉である▼権威も権力もない社会は来ないとわかった上で、状況への発言を続けた。第1次安倍政権のナショナリズムへの傾斜を「国家中毒」と批判した。いまのアベノミクスも疑い、先月末には〈浮いた気分も、もう終わりでしょう〉と書いた▼大切にした臨床での心得がいい。アルコール依存症は「治す」のではなく、患者と「つき合う」。医師の仕事は「人間というものがよく見えるし、自分自身のいいところ悪いところが鏡のように映る」(後略)
□天声人語「なだいなださん、逝く」(朝日デジタル2013年6月11日)
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