語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【悼】なだ いなだ

2013年06月11日 | 医療・保健・福祉・介護
 本名・堀内秀(作家/精神科医)、2013年6月6日逝去。享年83。
 晩年は神奈川県鎌倉市で執筆活動に専念する一方、2003年にインターネット上の仮想政党「老人党」を立ち上げ、ホームページで弱者が暮らしやすい社会づくりや平和を訴えた。

☆代表作
 『娘の学校』(中央公論社、1969。後に中公文庫)
 『お医者さん 医者と医療のあいだ』(中公新書、1970)・・・・毎日出版文化賞受賞
 『アルコール中毒  会的人間としての病気』(紀伊国屋新書、1966。後に『アルコーリズム』、朝日文庫、1966)
 『人間、とりあえず主義』(筑摩書房、2002)

   *

●追悼(加賀乙彦・談)
 <昨夏に軽井沢の高原文庫で開いた北杜夫展に参加してもらったのが最後になりました。いつもとちっとも変わらず、ユーモラスだった。なだと僕は同い年生まれで、境遇も似ていて、何かあれば電話をかけあっていました。「パパのおくりもの」以降の彼のエッセーはすばらしかった。鋭い社会批評で、時代時代の一番の欠点をついていた。晩年に彼がつくった「老人党」には僕も引き込まれて。なだのエッセーを集めれば、それがそのまま時代史になるという気がします。>

□記事「精神科医で作家のなだいなださん死去 「権威と権力」」(2013年6月11日付け朝日新聞)

   *

●追悼(内橋克人・談話)
 専門家の知ではなく、人々の磨き上げられた「常識」こそが人間を解放する。そんな信念を持った人でした。
 日本社会はしばしば、特定の価値観や指導者の旗振りに従う形で熱狂的な自己陶酔に流れます。なださんは常識への信頼を足がかりに、ひるまず、ユーモアも使いながら、時々の多数派の流れに警鐘を鳴らしてきた。経済の場で長く“主流”に批判を唱えてきた私にとって、その言動は「賢さを伴った勇気」の見本でした。
 精神科医としてアルコール依存症という厄介極まる問題に向き合った経験を通じて、なださんは人間存在についての認識をつかみとった。人間は本源的に病理とともにある、との認識です。病とともに生き続けている人間がどう秩序を作り出すのか。そういう考察が、なださんの文学に深みを与えていた。
(中略)
 なださんは繰り返し、コモンセンス、つまり常識が大事だと語った。医師として、専門家の知では癒やせない問題を前に、「患者に学ぶ」姿勢を採ってきた。水俣病に取り組んだ医師・原田正純さん(故人)とも通じあう態度です。人々の中に生きる、歴史を通じて磨き上げられた常識と、それに支えられた秩序への信頼が感じられました。「老人党」を設立する発想の根にも「老人の知恵は社会の宝だ」という常識があったと思います。
(後略)

□記事「常識信じ時代に警鐘 なだいなださんを悼む」(朝日デジタル2013年6月11日)

   *

●(天声人語)なだいなださん、逝く
 現実がよく見えた人だった。なだいなださんは、ネット上の仮想政党「老人党」をつくり、政権交代を目指した。(中略)現実を見すえつつ楽観主義を貫いた。名著『権威と権力』では、〈絶望的な状況でも、希望を失わない人間〉に自身をなぞらえる。そして理想とは〈たどりつけるもの〉ではなく、〈見つめるべきもの〉である▼権威も権力もない社会は来ないとわかった上で、状況への発言を続けた。第1次安倍政権のナショナリズムへの傾斜を「国家中毒」と批判した。いまのアベノミクスも疑い、先月末には〈浮いた気分も、もう終わりでしょう〉と書いた▼大切にした臨床での心得がいい。アルコール依存症は「治す」のではなく、患者と「つき合う」。医師の仕事は「人間というものがよく見えるし、自分自身のいいところ悪いところが鏡のように映る」(後略)

□天声人語「なだいなださん、逝く」(朝日デジタル2013年6月11日)
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【食】効能表示をしたい健康食品業界と歯止めをしたい消費者庁

2013年06月11日 | 医療・保健・福祉・介護
 (1)内閣府規制改革会議の中の健康・医療ワーキング・グループで、健康食品の効能表示の規制緩和問題が検討されている。
 会議は非公開だが、第2~4回WGの議事録が5月28日に公表された。健康食品の機能性表示に係る審査はほぼ終了したらしい。

 (2)健康食品の規制緩和について、論点は大きく3つ。うち、2つは現在の制度内での改善だ。現在国が認めているのは、
  (a)ビタミン、ミネラルなど必須栄養素を対象とした栄養機能食品。
  (b)栄養素以外の成分の効能表示を対象bとした特定保健用食品(「トクホ」)。
 (a)については、栄養機能食品の対象となる成分を現在のビタミン12種類、ミネラル5種類からさらに拡大すべきだ、という意見が規制改革会議の中で出ている。・・・・以前から消費者庁も拡大する方向で検討していたため、問題なく通りそうだ。
 (b)については、審査期間が長すぎるとか、効能表示の対象が狭すぎるとか、審査基準や内容が不透明だ、などという意見が出ている。事業者が積極的に申請しやすいような改善が求められている。・・・・消費者委員会から改善要求が出ている点とも重なるので、問題なく通りそうだ。

 (3)問題になるのは、
  (c)それ以外の「いわゆる健康食品」の取り扱い。
 現行法上、一般食品と同じ扱いで、効能表示は認められない。制度上、何らかの機能性を表示したいならばトクホを申請せよ、というルールだ。
 米国のように国がまったく関与せず、事業者の責任で効能表示ができる制度・・・・も規制改革会議では検討されたらしい。が、最終的には、第三者機関による認証制度(事業者団体である日本健康・栄養食品協会が提案した)を進める方向で検討している模様。
 米国でも、健康食品による被害が多発し、制度の見直しが進行中だ。
 第三者機関による認証制度ならどうか?

 (4)消費者庁はしかし、「食品の機能性表示の認証に関し、外部の第三者認証機関を導入している例は見受けられず、これを日本に導入することは困難」だと抵抗している。

 (5)いわゆる健康食品については、これまで、成分の安全性と品質管理(GMP)に関してのみ第三者機関が機能している。事業者団体としては、それをさらに効能表示についても拡大すればよい、という考えのようだ。
 しかし、健康食品は特定の成分を濃縮したものも多い。健康被害を起こす可能性が一般食品より高い。
 安全性確保や品質管理などについて、第三者機関をつくることが望ましい、といえる。
 しかし、効能表示の許可制度まで事業者団体にやらせるとなると、販売促進のために証拠不十分な成分までどんどん効能表示が進んでしまう可能性が否定できない。消費者庁としては、そこはどうしても認められない、ということらしい。
 6月5日に規制改革会議の答申が発表され、6月中旬には閣議決定される。
 いわゆる健康食品の効能表示の規制緩和は、どのような形で入るか。

□植田武智(科学ジャーナリスト)「効能表示をしたい健康食品業界と歯止めをしたい消費者庁」(「週刊金曜日」2013年6月7日号)
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