語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【経済】ビジョン計画はあっても実行計画のないアベノミクス ~マネーゲームの誘発~

2013年06月27日 | 社会
 (1)日本株の上昇は、外国人投資家の買い越しによる【注】。
 外国人投資家の投資は、日本経済の再生やs産業力などを期待しての「育てる資本主義」の投資行動ではなく、短期的な投資利益の最大化にある。外国人投資家が買っている株は、「大型流動株」(換金容易な一部上場株)のみ。二部上場や技術志向の強いベンチャー企業の新興市場に投資されているわけではない。「売り抜く資本主義」の投資行動だ。
 外国人投資家の動きの中心には米国のヘッジファンドなどがいるが、中国マネーも入ってきている。
 外国人投資家の買い越しは5月17日までに累計9.8兆円にのぼり、投資余力は(海外市場との相関でもあるが)まだ10~15兆円程度と議論が分かれる。「アベノミクスにおける成長戦略」を見極め、金融・財政政策によるカンフル効果しかないと判断すれば、潮を引くように「売り抜く」危うさを孕んでいる。
 市中に潤沢になった資金が新たな産業や雇用を生み、創造的プロジェクトが生まれてきたと判断すれば継続的に投資されるかもしれないが、あだ花のようなマネーゲームに翻弄され、焼け跡に立ち尽くすことにもなりかねない。

 (2)世界的な超金融緩和とカネ余りの中で、BRICSなど新興国への過剰期待が色褪せ、行き先を模索するカネが「調整インフレ」に舵を切る日本に向かっているのが株高の基本構造だ。
 その危うさは、四半期ごとに訪れるヘッジファンドの決算のたびに現れる。5月末の日本株の乱高下はその予兆だ。

 (3)アベノミクスの結末を示唆する統計が発表されつつある。企業物価指数の4月速報値だ。実体経済の動きが反映される。
 昨年10月からの半年間で、「素材原料」が19%上昇、「中間財」は4%上昇、「最終財」は2%上昇だ。円安による輸入インフレの影響のせいだ。素材原料が2割近く上昇しても、最終財は価格転嫁できない(需要=消費者の購買力が弱いため)。
 「デフレからの脱却」には、素材原料の高騰が最終財に価格転換される過程で、消費者の購買力を支える所得がそれに見合う形で増えていくかが重要だが、とても企業が給与や労働分配を引き上げる状況にはない。
 なぜか。企業の表面業績は株価の高騰によって改善されているように見えるが、従業員が頑張って実現した業績だという認識は企業経営者に希薄だからだ。賃上げに気持ちが動かない。
 業績が上がっても、過去10年間に海外への収益依存構造が定着しているから、国内従業員の給与を上げようとはしない。
 企業業績は改善されても国民の所得はよくならない、という構造が数字で検証されはじめている。勤労者の「現金給与総額」の2012年10月から2013年3月までの半期に、時間外手当ても含めて前年同期比0.8%減少だ。勤労者家計可処分所得も同期間で前年同期比0.2%減少だ。
 勤労者家庭は、アベノミクスによって潤ってはいない。

 (4)肝心なのは「成長戦略」だ。市場に潤沢に溢れる資金を使って、日本の未来につながる産業を創成し、プロジェクトを組織し、安定した雇用を創り出すことだ。
 成長戦略のキーワードらしきものは抽出されかけている。「医療」「農業の六次産業化」「女性の活躍」・・・・これらは間違いではない。
 しかし、ビジョン計画はあっても実行計画は見えない。プロジェクトの責任主体と時間軸を持った推進手順など本当のグランドデザインは不透明だ。「列島改造」型の大型公共投資を推進する時代ではないが、防災列島をめざして「首都機能の戦略的分散」を図ったり、「環日本海の時代をにらんだ日本海国土軸構築」に向けた総合交通体系を整備したり、中央リニア新幹線の前倒し完工を図るなどのマクロエンジニアリング的構想を立てたり・・・・といったことが全く見えない。景気対策の積み上げ的性格に終始している。
 国民生活の基盤を底上げし、「格差と貧困」課題に向き合い、過剰なマネーゲームを規制して「分配の公正」に立ち向かう姿勢は全く見えない。

 (5)(1)で示したように、外国人投資家の投資目的は「値上がり期待の短期保有」だ。彼らがアベノミクスの帰趨を見極めるタイミングは迫っている。彼らは、日本のカネが株式市場に向かうよう意図的に誘導し始めるだろう。
 <例年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用資金100兆円。これまで6割以上が国債で運用されてきたが、現在1割前後の株式市場への運用を拡大できないか、模索する動きが出ている。
 「国債から株へ」の動きは、長期金利を引き上げるリスクを孕む。それが財政を圧迫し、住宅ローンなどにのしかかることは間違いない。

 (6)「国民経済」という視点に立ち、政府・企業・家計をバランスよく視界に入れた時、アベノミクスは財政破綻寸前の政府セクターによってはギャンブルだ。企業にとっては、業種・業態によっては別れるが、おおむね株高メリットによる業績好転が期待できるものの、資産家を除く勤労者家計にyとっては家計の窮乏化をもたらしかねない政策手法だ。

 (7)国際的視界からも、マネーゲームの誘発という意味で、新自由主義の悪夢を蘇生させ、「格差と貧困」を顕在化させる可能性が高い。
 相関性と相対性をみつめる「リベラル」という価値座標からすれば、リベラルの危機だ。歴史は、アベノミクスに呪術経済が跋扈した時代、という評価を与えるであろう。

 【注】「【経済】投機に翻弄される日本経済と金融市場

□寺島実郎「アベノミクスの本質と日本のイスラエル化 --リベラルの危機と再生(その2) ~脳力のレッスン第135回 特別篇」~」(「世界」2013年7月号)

 【参考】「【政治】安部外交の軋み ~日本のイスラエル化~
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