語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【政治】選挙目当ての「所得倍増計画」 ~検証が必要~

2013年06月30日 | 社会
 (1)かつて池田勇人・首相(当時)は、「農業所得倍増計画」を打ち出した。
 安倍首相は、5月17日、都内における講演で「農業所得倍増計画」を発表した。4月19日発表の成長戦略(女性の社会進出、医療産業の推進など)を継ぐ成長戦略第二弾だ。

 (2)全国紙はいずれも、(1)の「農業所得倍増計画」を検証していない。この計画は根拠に欠ける、とは断言していない【注】。
 日本メディアは発表物を活字にする(記者クラブの弊害)、という認識が国際的に広がっている。今回も例外ではなかった。安部内閣の宣伝・広報紙と言われてもしかたない。

 (3)地方紙の中には、倍増計画を拒否するものがある。
 例えば、北海道新聞5月21日付け社説の見出しは「攻めの農業 掛け声だけで中身なし」。
  ・<政府と自民党から「攻めの農業」や「強い農業」を合い言葉に、次々と農業強化策が打ち出されている>
  ・<ところが、肝心の実現に向けた道筋は今後、関係閣僚でつくる「農林水産業・地域の活力創成本部」で練るというのである。野心的な目標も現時点では単なるスローガンだ。そもそも、これほど大がかりな構想を発表しながら、費用と財源の裏付けについて全く言及されていない>
  ・<農林水産物の輸出については、農林水産省が青果、牛肉、加工食品、水産物などを重点品目としている。だが、毎年5,000億円程度で推移する輸出額の内訳を見ると、たばこ、アルコール飲料、真珠、植木などの品目が上位に入っている>

 (4)例えばまた、宮崎日日新聞の社説はいう。
  ・<大規模生産者と小規模農家の間で農地の貸し借りを注解する「農地集積バンク」とでも呼ぶべき新組織を各都道府県に整備し、農地集約や耕作放棄地の解消を加速させるとも述べた>
  ・<中山間地を多く抱える本県では、こうした政策がすんなり進むとは言い難い。傾斜地が多く、分散した狭い農地を集約することは容易ではない。既存の組織が必ずしもうまく機能してこなかった理由も検証する必要があろう>
  ・<政府の手厚い支援策からは、TPP交渉参加に反対する農業団体などの理解を得、また参院選での得票につなげる狙いが見える。だが農家の高齢化や後継者不足、耕作地放棄地の拡大、目立つ小規模経営といった国内農業が直面する構造的問題を解決するには、農家や農業団体の自己改革を促すことが大切だ>

 (5)全国紙にも地方紙にも共通する弱点がある。それは、「自己反省のポーズ」だ。(4)で言えば、自己改革を促す件だ。
 安部首相が打ち出した「農業所得倍増計画」の実現可能性はきわめて不透明だ。したがって、この問題を論ずるのであれば、「安倍首相は、農業所得倍増計画を打ち出したが、それは実現不可能だ。その理由は以下のとおりである・・・・」と議論をたてればよい。原稿をうまく断言した形で追われないので、自己反省の形で終わってしまうのだ。
 日本の農業が具体的にどのような課題を抱え、その解決をめぐってこれまでいかなる議論がなされてきたか、十分に伝えられていない。
 選挙目当てで打ち上げられた「所得倍増計画」の行方を検証する農業記者の、長期的育成こそ、いま求められている。 

 【注】「食糧・農業・農村白書 平成24年版」によれば、農業総産出額は1984年の11兆7,000億円をピークとして、生産量の減少や価格の低下等により、全ての品目が減少傾向で推移している。2010年には、8兆1,000億円となった。

□神保太郎「メディア批評第67回」(「世界」2013年7月号)の「(2)あらたな「所得倍増計画」の登場」
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