(1)プロ野球で、今シーズンの何時頃からかは不明だが、ボールが選手の知らぬまに変わっていた。
いや、現場はちゃんと見通していた。開幕後、ホームラン数や防御率の数字の昨年と違っていたからだ。
1試合当たりのホームラン数を見ると、統一球導入前は1.78本(2009年)、1.86本(2010年)、統一球導入後は1.09本(2011年)、1.02本(2012年)、変更のあった2013年は1.50本だ。防御率の推移も、ホームラン数と同様の動きをして、統一球導入の2年間は他の年に比べて小さい。
日本プロ野球選手会が実施したアンケートでも、7割以上のプレーヤーが「今季はボールが飛ぶようになった」と回答している。
にもかかわらず、加藤良三・コミッショナーをトップとする日本野球機構(NPB)は、その事実を選手から追及されるまで伏せていた。
なぜか?
(2)6月12日20時、公式戦が行われている最中に、加藤コミッショナーらによる記者会見が開かれた。だが、選手、ファン一同の疑問に全く答えていない。
「私は全く知らなかった。知っていれば公表した」
と言い逃れた。開き直った。そして、加藤はコミッショナーとして不適任ではないか、という疑問を聴衆に植えつけた。
(3)統一球導入(2011年)の提唱者は、その3年前に駐米大使から球界トップに転身した加藤その人だ。
かつてプロ野球の試合球は、12球団それぞれがメーカーと契約していた。対戦相手によって飛ぶボールと飛ばないボールを切り替える荒業をやってのけるチームさえあった。
2009年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で、日本選手が国際試合のボールに戸惑った。これを契機に、国際派を自認する加藤が、「国際基準」に近づけることを提唱し、ミズノ社が製造した低反発の統一球が採用される仕儀となった。
(4)球団ごとに使用するボールが異なっていては世界で通用しない。統一球はボールの縫い目など、WBCやメジャーに近づいた・・・・。
が、3連覇を逃した今年のWBCでは、ボールに適応できない選手が続出した。ホームランが公式戦で激減し、「つまらない」と批判された。
結果的には、統一球の導入は明らかに失敗だった。
だからこそ、NPBは途中で球を替えた。
事前に選手やファンに伝えていれば、何の問題もなく、むしろ歓迎されていたはずだ。
娯楽性を高め、ライトファンを取り込むには、飛ぶボールへの変更は良いはずだった。それを隠すから、こんな問題になっている。【並木裕太・『日本プロ野球改造論』の著者】
出来高契約を結んでいる選手が多い。ボールの変更は、この契約条件に大きな影響を与える。ボールが替われば、選手のフォームなどへの影響もあるし、投手の打者に対する攻め方も変わる。選手に知らせずに変更すること自体、現場を軽視した行為だ。【石渡進・選手会の弁護士】
(5)NPBは、なぜ隠蔽したのか?
ミズノが「用済み」となった統一球の在庫を大量に抱えていたからだ(疑い)。
12球団が年間に使用する試合球は24,000ダース(288,000個)。ミズノは、リスク回避のために常に3ヵ月分、10,000ダースの「在庫」を抱えていた。
(6)統一球を導入する前(2010年以前)は、ミズノ以外にアシックス、ゼット、久保田運動具店(スラッガー)の計4店の製品が公式球として認められていた。そのうちミズノだけが統一球のメーカーとして選ばれたのだ。
本来なら毎年入札してメーカーを替えてよいのに、独占しているから、規定値より低反発の不良品が出ても替えがきかず、使い続けなければならない事態になる。だから、「在庫」という問題が起きた。【井箟重慶・関西国際大学名誉教授】
隠蔽の背景に1社独占の弊害があったのだ。
ミズノ側から、公表前に「在庫を処理してくれないか」とNPB側に圧力があったのではないか。【メーカー関係者】
NPB側は、公表を控えた理由を
「新旧の球が混在しており、混乱を招かないようにするため」
と説明している。問わず語りに、在庫処理を優先したことを白状している。
(7)隠蔽工作が明らかになるまで、ミズノは一貫して「ボールに変更はない」と答えている。上場企業のコンプライアンスからして重大な問題だ。
今回の件では、NPBとミズノの関係が適切ではなかった(疑い)。これをきっかけに日本プロ野球界が再活性化するには、統一球をはじめ、NPBが関与した様々な契約関係について、その内容、適正に運用されているかを調べなおす必要がある。【大坪正則・帝京大学教授(スポーツ経営学)】
(8)(2)の釈明会見で、加藤は、統一球の変更は下田邦夫・NPB事務局長が独自に行ったもので、今回の騒動は「不祥事ではない」と言い切った。
そもそも、国際規格なんてないのに、何と合わせようとしたのか。素人のコミッショナー(資質が問題)が主導していたから、何も分からない。【江本孟紀・野球解説者】
NPBのコミッショナーには、実質的に大きな権限はない。任免権を持つ12球団オーナー会議が重要な案件について決めることが多い。
加藤は、存在感を示そうと、統一球の導入、巨人・阪神戦を来春に米国へ「逆輸出」するプランなど、さまざまなアイデアを出してきた。統一球は、加藤にとって数少ない「成果」で、されば一球一球にわざわざ加藤直筆のサインが刷り込まれている。しかし、完全な裏目に出た。
加藤の「暴走」を黙認していたオーナーたちの責任も避け得ない。
□本誌取材班「コミッショナーの滞在」(「AERA」2013年6月24日号)
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いや、現場はちゃんと見通していた。開幕後、ホームラン数や防御率の数字の昨年と違っていたからだ。
1試合当たりのホームラン数を見ると、統一球導入前は1.78本(2009年)、1.86本(2010年)、統一球導入後は1.09本(2011年)、1.02本(2012年)、変更のあった2013年は1.50本だ。防御率の推移も、ホームラン数と同様の動きをして、統一球導入の2年間は他の年に比べて小さい。
日本プロ野球選手会が実施したアンケートでも、7割以上のプレーヤーが「今季はボールが飛ぶようになった」と回答している。
にもかかわらず、加藤良三・コミッショナーをトップとする日本野球機構(NPB)は、その事実を選手から追及されるまで伏せていた。
なぜか?
(2)6月12日20時、公式戦が行われている最中に、加藤コミッショナーらによる記者会見が開かれた。だが、選手、ファン一同の疑問に全く答えていない。
「私は全く知らなかった。知っていれば公表した」
と言い逃れた。開き直った。そして、加藤はコミッショナーとして不適任ではないか、という疑問を聴衆に植えつけた。
(3)統一球導入(2011年)の提唱者は、その3年前に駐米大使から球界トップに転身した加藤その人だ。
かつてプロ野球の試合球は、12球団それぞれがメーカーと契約していた。対戦相手によって飛ぶボールと飛ばないボールを切り替える荒業をやってのけるチームさえあった。
2009年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で、日本選手が国際試合のボールに戸惑った。これを契機に、国際派を自認する加藤が、「国際基準」に近づけることを提唱し、ミズノ社が製造した低反発の統一球が採用される仕儀となった。
(4)球団ごとに使用するボールが異なっていては世界で通用しない。統一球はボールの縫い目など、WBCやメジャーに近づいた・・・・。
が、3連覇を逃した今年のWBCでは、ボールに適応できない選手が続出した。ホームランが公式戦で激減し、「つまらない」と批判された。
結果的には、統一球の導入は明らかに失敗だった。
だからこそ、NPBは途中で球を替えた。
事前に選手やファンに伝えていれば、何の問題もなく、むしろ歓迎されていたはずだ。
娯楽性を高め、ライトファンを取り込むには、飛ぶボールへの変更は良いはずだった。それを隠すから、こんな問題になっている。【並木裕太・『日本プロ野球改造論』の著者】
出来高契約を結んでいる選手が多い。ボールの変更は、この契約条件に大きな影響を与える。ボールが替われば、選手のフォームなどへの影響もあるし、投手の打者に対する攻め方も変わる。選手に知らせずに変更すること自体、現場を軽視した行為だ。【石渡進・選手会の弁護士】
(5)NPBは、なぜ隠蔽したのか?
ミズノが「用済み」となった統一球の在庫を大量に抱えていたからだ(疑い)。
12球団が年間に使用する試合球は24,000ダース(288,000個)。ミズノは、リスク回避のために常に3ヵ月分、10,000ダースの「在庫」を抱えていた。
(6)統一球を導入する前(2010年以前)は、ミズノ以外にアシックス、ゼット、久保田運動具店(スラッガー)の計4店の製品が公式球として認められていた。そのうちミズノだけが統一球のメーカーとして選ばれたのだ。
本来なら毎年入札してメーカーを替えてよいのに、独占しているから、規定値より低反発の不良品が出ても替えがきかず、使い続けなければならない事態になる。だから、「在庫」という問題が起きた。【井箟重慶・関西国際大学名誉教授】
隠蔽の背景に1社独占の弊害があったのだ。
ミズノ側から、公表前に「在庫を処理してくれないか」とNPB側に圧力があったのではないか。【メーカー関係者】
NPB側は、公表を控えた理由を
「新旧の球が混在しており、混乱を招かないようにするため」
と説明している。問わず語りに、在庫処理を優先したことを白状している。
(7)隠蔽工作が明らかになるまで、ミズノは一貫して「ボールに変更はない」と答えている。上場企業のコンプライアンスからして重大な問題だ。
今回の件では、NPBとミズノの関係が適切ではなかった(疑い)。これをきっかけに日本プロ野球界が再活性化するには、統一球をはじめ、NPBが関与した様々な契約関係について、その内容、適正に運用されているかを調べなおす必要がある。【大坪正則・帝京大学教授(スポーツ経営学)】
(8)(2)の釈明会見で、加藤は、統一球の変更は下田邦夫・NPB事務局長が独自に行ったもので、今回の騒動は「不祥事ではない」と言い切った。
そもそも、国際規格なんてないのに、何と合わせようとしたのか。素人のコミッショナー(資質が問題)が主導していたから、何も分からない。【江本孟紀・野球解説者】
NPBのコミッショナーには、実質的に大きな権限はない。任免権を持つ12球団オーナー会議が重要な案件について決めることが多い。
加藤は、存在感を示そうと、統一球の導入、巨人・阪神戦を来春に米国へ「逆輸出」するプランなど、さまざまなアイデアを出してきた。統一球は、加藤にとって数少ない「成果」で、されば一球一球にわざわざ加藤直筆のサインが刷り込まれている。しかし、完全な裏目に出た。
加藤の「暴走」を黙認していたオーナーたちの責任も避け得ない。
□本誌取材班「コミッショナーの滞在」(「AERA」2013年6月24日号)
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