(1)7月9日に鬼籍に入った吉田昌郎・福島第一原発元所長が、生前もっとも懸念していたのが汚染水問題だった。
吉田元所長は、病牀でも汚染水問題を気にして、「一歩間違えると取り返しのつかない惨事になる」「レベル3や4の事故が再び起きてもおかしくない」と語っていた。
原子力規制委員会は、8月21日、国際原子力事象評価尺度で「重大な異常現象」を意味する「レベル3」に相当する、という見解を示した。吉田元所長の予言は、不幸にも的中した。
(2)東電はしかし、吉田元所長の遺言とでもいうべき警鐘を無視し、有効な対策をとらなかった。
その結果フクイチは、廣瀬 直己・東京電力社長のいわゆる「電力マンの誇り」を吹き飛ばし、危機的な状況に陥らしめた。
(3)8月19日、東電は、高濃度汚染水が貯蔵タンクから漏れ出た、と発表。その量は300トンにものぼり、推計24兆Bqもの放射性物質を撒き散らした。
のみならず、これに先立つ7月22日、東電は、原子炉建屋の地下に溜まった汚染水が地下水を通じて海に漏出し続けていたことを発表。それまで海への流出を頑固に否定していたにもかかわらず、8月21日までに漏出した放射性ストロンチウムが最大10兆Bq、セシウムは最大20兆qと、天文学的な数値を公表した。
(4)野ざらしのホースや急ごしらえのタンクの耐久性に問題があることは、すでに2011年の時点で指摘されていた。
しかし、状況は2年前と変わっていない。原発では、本来はネジ1本から特別仕様のものを使うが、今回の貯蔵タンクは緊急事態ということで品質にバラツキのある既製品で間に合わせていた。
タンクの一部は、コストの安価な鋼鉄製のものを使っていた。これがマズかった。汚染水は、原子炉の冷却に使用された海水なので、塩分を含んでいる。鋼鉄製は錆びやすいので、腐食し、穴が開いた可能性がある。コスト高になっても、ステンレス製にすべきだった。
さらに悪質なのは、使用したタンクの多くは、部材を溶接ではなく、ボルトでつなぎ、組み立てる構造にしていたことだ。ボルト式にしたのは、短時間で増設できるという理由だった。しかし、ボルト式は緩んだり、止水用パッキンが劣化すると汚染水が漏れる。この点は当初から懸念されていた。当初はともかく、その後、溶接された頑丈なものに交換すべきだった。
吉田元所長も生前、タンクについて危惧していた。「汚染水には、地震、津波の影響でがれきもまじっており、タンクの傷みが予想より激しい。耐用年数はかなり短くなるだろうな」
(5)今回、漏洩の起きたタンクの耐用年数は4~5年と言われていたが、わずか2年弱しか持たなかったわけだ。
なぜ、危ないと分かっていたタンクが交換されず、放置されたのか。
東電の誤算は、汚染水から放射性物質を除去する新装置「ALPS」(東芝製)にあった。ALPSは、試験中に水漏れを起こし、わずか4ヵ月で停止してしまったのだ。当初、東電本店は、ALPSを使えば汚染水の放射性物質を除去して海へ放出できるのでタンクは不要になる、と豪語していた。とろこが、ALPSの故障でタンク増設を余儀なくされ、交換できる状況ではなくなってしまった。
さらに、交換後に放射能で汚染された使用済みタンクやホースをどう処分するか、という問題もあった。東電には打つ手がなくなってしまった。
なし崩し的にタンクを使用し続けた結果、今回の汚染水問題が、起こるべくして起きた。
東電の「ケチケチ」体質にも原因があった。本店は、コストを削減したいから、耐用年数が切れる前のタンク・ホース交換を認めない。
(6)タンク問題と並んで東電を悩ませているのは、汚染された地下水だ。
フクイチの地下では、山側から海側へ、1,000トン/日の地下水が流れ込んでいる。うち、400トンは、原子炉建屋に流れ込んで汚染水となり、別の300トンは建屋周辺の汚染土壌の影響で汚染水となり、海へ流れ出ている(推定)。
東電は、当面100トン/日の汚染水を井戸から汲み上げる計画だが、残る200トンはたれ流しのままだ。
(7)長期的な対策としては、地下水の流れを防ぐ「遮水壁」を地下に設置することが計画されている。
5月末、政府の汚染水処理対策委員会は、周囲の土を凍らせて原子炉建屋への地下水流入を防ぐ「凍土方式」の遮水壁建設(案)をまとめた。これはゼネコンの鹿島が提案した方式で、400億円の費用がかかるが、効果は未知数だ。
凍土方式医は事故当時から選択肢にあったが、壁が地下の配管とバッティングする可能性とか、まだ技術が十分に確立されていないとか、不確実な要素が多く、採用するに至らなかった。なぜこの方式を採用するのか、オープンな場で議論すべきだ。【福山哲郎・元内閣官房副長官】
たとえ成功しても、問題は解決しない。原子炉が冷えるまであと何十年もかかる。遮水壁でせき止め続けると、行き場を失った地下水の水位が上昇し、周囲はいずれも汚染水の沼地となってしまう。貯水タンクを置く場所も、早晩足りなくなる。水での冷却を続ける限り、トラブルは止まらず、いたちごっこになる。【小出裕章・京都大学原子炉実験所助教】
(8)太平洋に大量の汚染物質をまき散らしている日本の現状を、海外メディアも注視している。
東電や経産省など、癒着した「原子力ムラ」に事故処理を任せ続けた安部政権の無策が最大の問題だ。ようやく「東電任せ」に批判が高まってきたが、遅すぎる。「原子力ムラ」以外の専門家や海外の企業も参加させたほうがチェック機能も働くはずだ。【マーティン・ファクラー・ニューヨークタイムズ東京支局長】
「原子力ムラ」以外の専門家による対案に、例えば、水の代わりに鉛を使う原子炉冷却方法がある。現在の水冷から空冷に転換できる。【山田廣成・立命館大学理工学部特任教授、小出助教】
だが、「原子炉は水で冷やす」という先入観にとらわれている政府や東電は、見向きをしない。
□今西憲之/小泉耕平(本誌)「原発汚染水たれ流し 「このままではレベル3の惨事になる」 故・吉田元所長の“遺言”を無視した東電の大罪」(「週刊朝日」2013年9月6日号)
【参考】
「【原発】政権の最優先課題 ~汚染水と廃炉作業~」
「【原発】責任不明確な国の汚染水処理体制 ~再稼働よりも汚染水対策を~」
「【原発】「汚染水」の本当の深刻さ ~東電のコストカットが一因~」
「【政治】安倍“異次元”政権の思想と行動 ~「馬脚をあらわす」兆候~」
「【原発】安部政権の演出と狙い ~高濃度汚染水の海洋流出~」
「【原発】福島第一原発で汚染水が海洋流出 ~漁民の被害は止まない~」
「【原発】福島第一原発周辺の海水汚染続く ~魚介累から放射性セシウム~」
「【原発】【食】東日本太平洋沖で獲れた魚介類8体からセシウム検出」
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吉田元所長は、病牀でも汚染水問題を気にして、「一歩間違えると取り返しのつかない惨事になる」「レベル3や4の事故が再び起きてもおかしくない」と語っていた。
原子力規制委員会は、8月21日、国際原子力事象評価尺度で「重大な異常現象」を意味する「レベル3」に相当する、という見解を示した。吉田元所長の予言は、不幸にも的中した。
(2)東電はしかし、吉田元所長の遺言とでもいうべき警鐘を無視し、有効な対策をとらなかった。
その結果フクイチは、廣瀬 直己・東京電力社長のいわゆる「電力マンの誇り」を吹き飛ばし、危機的な状況に陥らしめた。
(3)8月19日、東電は、高濃度汚染水が貯蔵タンクから漏れ出た、と発表。その量は300トンにものぼり、推計24兆Bqもの放射性物質を撒き散らした。
のみならず、これに先立つ7月22日、東電は、原子炉建屋の地下に溜まった汚染水が地下水を通じて海に漏出し続けていたことを発表。それまで海への流出を頑固に否定していたにもかかわらず、8月21日までに漏出した放射性ストロンチウムが最大10兆Bq、セシウムは最大20兆qと、天文学的な数値を公表した。
(4)野ざらしのホースや急ごしらえのタンクの耐久性に問題があることは、すでに2011年の時点で指摘されていた。
しかし、状況は2年前と変わっていない。原発では、本来はネジ1本から特別仕様のものを使うが、今回の貯蔵タンクは緊急事態ということで品質にバラツキのある既製品で間に合わせていた。
タンクの一部は、コストの安価な鋼鉄製のものを使っていた。これがマズかった。汚染水は、原子炉の冷却に使用された海水なので、塩分を含んでいる。鋼鉄製は錆びやすいので、腐食し、穴が開いた可能性がある。コスト高になっても、ステンレス製にすべきだった。
さらに悪質なのは、使用したタンクの多くは、部材を溶接ではなく、ボルトでつなぎ、組み立てる構造にしていたことだ。ボルト式にしたのは、短時間で増設できるという理由だった。しかし、ボルト式は緩んだり、止水用パッキンが劣化すると汚染水が漏れる。この点は当初から懸念されていた。当初はともかく、その後、溶接された頑丈なものに交換すべきだった。
吉田元所長も生前、タンクについて危惧していた。「汚染水には、地震、津波の影響でがれきもまじっており、タンクの傷みが予想より激しい。耐用年数はかなり短くなるだろうな」
(5)今回、漏洩の起きたタンクの耐用年数は4~5年と言われていたが、わずか2年弱しか持たなかったわけだ。
なぜ、危ないと分かっていたタンクが交換されず、放置されたのか。
東電の誤算は、汚染水から放射性物質を除去する新装置「ALPS」(東芝製)にあった。ALPSは、試験中に水漏れを起こし、わずか4ヵ月で停止してしまったのだ。当初、東電本店は、ALPSを使えば汚染水の放射性物質を除去して海へ放出できるのでタンクは不要になる、と豪語していた。とろこが、ALPSの故障でタンク増設を余儀なくされ、交換できる状況ではなくなってしまった。
さらに、交換後に放射能で汚染された使用済みタンクやホースをどう処分するか、という問題もあった。東電には打つ手がなくなってしまった。
なし崩し的にタンクを使用し続けた結果、今回の汚染水問題が、起こるべくして起きた。
東電の「ケチケチ」体質にも原因があった。本店は、コストを削減したいから、耐用年数が切れる前のタンク・ホース交換を認めない。
(6)タンク問題と並んで東電を悩ませているのは、汚染された地下水だ。
フクイチの地下では、山側から海側へ、1,000トン/日の地下水が流れ込んでいる。うち、400トンは、原子炉建屋に流れ込んで汚染水となり、別の300トンは建屋周辺の汚染土壌の影響で汚染水となり、海へ流れ出ている(推定)。
東電は、当面100トン/日の汚染水を井戸から汲み上げる計画だが、残る200トンはたれ流しのままだ。
(7)長期的な対策としては、地下水の流れを防ぐ「遮水壁」を地下に設置することが計画されている。
5月末、政府の汚染水処理対策委員会は、周囲の土を凍らせて原子炉建屋への地下水流入を防ぐ「凍土方式」の遮水壁建設(案)をまとめた。これはゼネコンの鹿島が提案した方式で、400億円の費用がかかるが、効果は未知数だ。
凍土方式医は事故当時から選択肢にあったが、壁が地下の配管とバッティングする可能性とか、まだ技術が十分に確立されていないとか、不確実な要素が多く、採用するに至らなかった。なぜこの方式を採用するのか、オープンな場で議論すべきだ。【福山哲郎・元内閣官房副長官】
たとえ成功しても、問題は解決しない。原子炉が冷えるまであと何十年もかかる。遮水壁でせき止め続けると、行き場を失った地下水の水位が上昇し、周囲はいずれも汚染水の沼地となってしまう。貯水タンクを置く場所も、早晩足りなくなる。水での冷却を続ける限り、トラブルは止まらず、いたちごっこになる。【小出裕章・京都大学原子炉実験所助教】
(8)太平洋に大量の汚染物質をまき散らしている日本の現状を、海外メディアも注視している。
東電や経産省など、癒着した「原子力ムラ」に事故処理を任せ続けた安部政権の無策が最大の問題だ。ようやく「東電任せ」に批判が高まってきたが、遅すぎる。「原子力ムラ」以外の専門家や海外の企業も参加させたほうがチェック機能も働くはずだ。【マーティン・ファクラー・ニューヨークタイムズ東京支局長】
「原子力ムラ」以外の専門家による対案に、例えば、水の代わりに鉛を使う原子炉冷却方法がある。現在の水冷から空冷に転換できる。【山田廣成・立命館大学理工学部特任教授、小出助教】
だが、「原子炉は水で冷やす」という先入観にとらわれている政府や東電は、見向きをしない。
□今西憲之/小泉耕平(本誌)「原発汚染水たれ流し 「このままではレベル3の惨事になる」 故・吉田元所長の“遺言”を無視した東電の大罪」(「週刊朝日」2013年9月6日号)
【参考】
「【原発】政権の最優先課題 ~汚染水と廃炉作業~」
「【原発】責任不明確な国の汚染水処理体制 ~再稼働よりも汚染水対策を~」
「【原発】「汚染水」の本当の深刻さ ~東電のコストカットが一因~」
「【政治】安倍“異次元”政権の思想と行動 ~「馬脚をあらわす」兆候~」
「【原発】安部政権の演出と狙い ~高濃度汚染水の海洋流出~」
「【原発】福島第一原発で汚染水が海洋流出 ~漁民の被害は止まない~」
「【原発】福島第一原発周辺の海水汚染続く ~魚介累から放射性セシウム~」
「【原発】【食】東日本太平洋沖で獲れた魚介類8体からセシウム検出」
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