(1)五輪誘致を機に、原発事故に対する政府の関わり方が決定的に変わった。国が積極的に出張って、カネも人も出す。事実上の国際公約にしたのだから。
ただし、万事解決するかというと、現実には難しい。メルトダウンした核燃料が今どうなっているのかすら、まったく分からない状態だから。手の打ちようがない。5、6号機の廃炉にしても、そもそも再稼働できる状態ではなかった。汚染水対策から目先を変えてリーダーシップを演出するネタに使ったまでのことだ。
事実、安部首相が「コントロールされている」と言ったそばから、
(a)貯水タンク近くの井戸の地下水から、ストロンチウムとトリチウムが検出された。
(b)数日後、トリチウムが15倍の4千Bq/リットルに跳ね上がった。
(c)9月11日、海からわずか150mの排水溝でも検出。
(d)9月13日、山下和彦・東京電力フェロー(技術顧問)は、「今の状況はコントロールできていないと我々は考えている」と、首相発言を真っ向から否定。
(2)このタイミングで国が対策に乗り出した理由は、五輪招致がすべてではない。別の「下心」があった。
つまり、銀行がこれまで東電につぎ込んだ4兆円の融資を守るために公費を投入し、すべてを国民につけ回すためだ【注1】。
「国が前面に出る」とは、「銀行を守る」ことにほかならない。
そのカラクリは次のとおり。
東電に融資している銀行団は、汚染水の流出を参議院選挙(7月)前から問題視していた。
東電は、(a)この10月に地方金融機関の中心に800億円の借り換えがあり、さらに(b)12月にはメガバンク中心に2,000億円の借り換えと、3,000億円(推定)の新規融資が予定されている。
汚染水問題は、これから先、どれくらいの資金が必要になるか、わからない。となると、東電は債務超過に陥る可能性が高い。
そんな企業に融資したら、それこそ特別背任だ。現に、北関東の地域金融機関の一つが、借り換えに難色を示している。だから、国という「保証人」が必要だった。
(3)東電を支えるため、銀行団から継続して融資を引き出す必要がある。そのため、「国の確約」がいる。だから、国は「汚染水問題は税金で対処するから、東電の負担はそれほど増えない」というポーズを示す必要があった。
そのタイミングが、(2)のとおり10月と12月。
それに合わせて、9月3日に「国費投入」が決定された。
事実上の政府保証(税金で支払う)がついた融資は、銀行にとっておいしい商売になる。リスクなしで利息が転がりこむからだ。4兆円なら、年利1%でも400億円。これほどボロい商売はない。
(4)「国費投入」は、震災直後に国が「東電は破綻させない」と決めた時からの規定路線だ。
2011年4~5月ごろ、東電を破綻すべきかどうかが議論されていた【注2】。当時、いちばんのポイントは、東電が事故の免責の主張をするかどうかだった。責任をかぶることを嫌がった政府は、勝俣恒久・東電会長(当時)を連日説得し、「東電は絶対に守る」という約束のもとで責任を認めさせた。
歪みは明らかだ。
(5)実は国は、すでに税金を東電に投入している。
(a)昨年7月末、原子力損害賠償支援機構を通じて、東電に1兆円の公的資金を注入した。この際、議決権の過半を握り、実質的に国有化した。にも拘わらず、かたくなに第三者を装ってきた。
(b)被災者への損害賠償について、原子力損害賠償支援機構を通じて、上限5兆円を貸し付け、今後の利益で分割払いさせる仕組みを作った。
(c)除染費用を国や自治体がいったん支出した後、東電に請求する仕組みも作った。
(d)廃炉費用についても、政府は研究開発費として2012年度補正予算から盛り込んでいる。地下遮水壁を「凍土方式」にしたのは、鉄板などを使った遮水壁では研究開発にならないからだ。貯水タンクについても同様だ。
(e)だから、現在、研究開発にとらわれず国費投入ができる特別措置法の制定が検討されている。
【注1】
「【原発】ウソだらけの汚染水「緊急」対策 ~安部首相の抽象論~」
【注2】
「【震災】原発>握りつぶされた「東電解体案」 ~東電の政治力~」
「【震災】原発>経産省の原発推進&東電護持と天下りとの関係 ~経産官僚が守るのは自分の生活~」
「【震災】原発>息を吹き返す東京電力」
□鈴木毅(編集部)「安部政権、「汚染水」対策の真の狙いは-- 国費投入で銀行ボロ儲け」(「AERA」2013年9月30日号)
↓クリック、プリーズ。↓
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【参考】
「【原発】【食】関東の食材からセシウム ~安部首相的「安全」の実態~」
「【原発】最悪の事態を防いだ2つの幸運 ~失われた沃野と海~」
「【原発】汚染水を浄化できるか ~福島第一原発はどうなっているのか~」
「【原発】今、そこにある汚染水危機(3) ~次の震度6~」
「【原発】今、そこにある汚染水危機(2) ~汚染水は海で薄められるか~」
「【原発】今、そこにある汚染水危機(1) ~封じ込めは可能か~」
「【原発】安倍政権、「収束宣言」を撤回 ~汚染水~」
「【原発】廃炉費用を電気料金に上乗せ ~制度を変えた経産官僚は出世~」
「【原発】ウソだらけの汚染水「緊急」対策 ~安部首相の抽象論~」
「【原発】国の汚染水対策3つ ~「汚染水は海に流せ」?~」
「【原発】「東京五輪」を脅かすフクシマ ~ダダ漏れ汚染水地獄~」
「【原発】なぜ汚染水は漏れたか ~誤算・ケチケチ体質~」
「【原発】政権の最優先課題 ~汚染水と廃炉作業~」
「【原発】責任不明確な国の汚染水処理体制 ~再稼働よりも汚染水対策を~」
「【原発】「汚染水」の本当の深刻さ ~東電のコストカットが一因~」
「【政治】安倍“異次元”政権の思想と行動 ~「馬脚をあらわす」兆候~」
「【原発】安部政権の演出と狙い ~高濃度汚染水の海洋流出~」
「【原発】福島第一原発で汚染水が海洋流出 ~漁民の被害は止まない~」
「【原発】福島第一原発周辺の海水汚染続く ~魚介累から放射性セシウム~」
「【原発】【食】東日本太平洋沖で獲れた魚介類8体からセシウム検出」
ただし、万事解決するかというと、現実には難しい。メルトダウンした核燃料が今どうなっているのかすら、まったく分からない状態だから。手の打ちようがない。5、6号機の廃炉にしても、そもそも再稼働できる状態ではなかった。汚染水対策から目先を変えてリーダーシップを演出するネタに使ったまでのことだ。
事実、安部首相が「コントロールされている」と言ったそばから、
(a)貯水タンク近くの井戸の地下水から、ストロンチウムとトリチウムが検出された。
(b)数日後、トリチウムが15倍の4千Bq/リットルに跳ね上がった。
(c)9月11日、海からわずか150mの排水溝でも検出。
(d)9月13日、山下和彦・東京電力フェロー(技術顧問)は、「今の状況はコントロールできていないと我々は考えている」と、首相発言を真っ向から否定。
(2)このタイミングで国が対策に乗り出した理由は、五輪招致がすべてではない。別の「下心」があった。
つまり、銀行がこれまで東電につぎ込んだ4兆円の融資を守るために公費を投入し、すべてを国民につけ回すためだ【注1】。
「国が前面に出る」とは、「銀行を守る」ことにほかならない。
そのカラクリは次のとおり。
東電に融資している銀行団は、汚染水の流出を参議院選挙(7月)前から問題視していた。
東電は、(a)この10月に地方金融機関の中心に800億円の借り換えがあり、さらに(b)12月にはメガバンク中心に2,000億円の借り換えと、3,000億円(推定)の新規融資が予定されている。
汚染水問題は、これから先、どれくらいの資金が必要になるか、わからない。となると、東電は債務超過に陥る可能性が高い。
そんな企業に融資したら、それこそ特別背任だ。現に、北関東の地域金融機関の一つが、借り換えに難色を示している。だから、国という「保証人」が必要だった。
(3)東電を支えるため、銀行団から継続して融資を引き出す必要がある。そのため、「国の確約」がいる。だから、国は「汚染水問題は税金で対処するから、東電の負担はそれほど増えない」というポーズを示す必要があった。
そのタイミングが、(2)のとおり10月と12月。
それに合わせて、9月3日に「国費投入」が決定された。
事実上の政府保証(税金で支払う)がついた融資は、銀行にとっておいしい商売になる。リスクなしで利息が転がりこむからだ。4兆円なら、年利1%でも400億円。これほどボロい商売はない。
(4)「国費投入」は、震災直後に国が「東電は破綻させない」と決めた時からの規定路線だ。
2011年4~5月ごろ、東電を破綻すべきかどうかが議論されていた【注2】。当時、いちばんのポイントは、東電が事故の免責の主張をするかどうかだった。責任をかぶることを嫌がった政府は、勝俣恒久・東電会長(当時)を連日説得し、「東電は絶対に守る」という約束のもとで責任を認めさせた。
歪みは明らかだ。
(5)実は国は、すでに税金を東電に投入している。
(a)昨年7月末、原子力損害賠償支援機構を通じて、東電に1兆円の公的資金を注入した。この際、議決権の過半を握り、実質的に国有化した。にも拘わらず、かたくなに第三者を装ってきた。
(b)被災者への損害賠償について、原子力損害賠償支援機構を通じて、上限5兆円を貸し付け、今後の利益で分割払いさせる仕組みを作った。
(c)除染費用を国や自治体がいったん支出した後、東電に請求する仕組みも作った。
(d)廃炉費用についても、政府は研究開発費として2012年度補正予算から盛り込んでいる。地下遮水壁を「凍土方式」にしたのは、鉄板などを使った遮水壁では研究開発にならないからだ。貯水タンクについても同様だ。
(e)だから、現在、研究開発にとらわれず国費投入ができる特別措置法の制定が検討されている。
【注1】
「【原発】ウソだらけの汚染水「緊急」対策 ~安部首相の抽象論~」
【注2】
「【震災】原発>握りつぶされた「東電解体案」 ~東電の政治力~」
「【震災】原発>経産省の原発推進&東電護持と天下りとの関係 ~経産官僚が守るのは自分の生活~」
「【震災】原発>息を吹き返す東京電力」
□鈴木毅(編集部)「安部政権、「汚染水」対策の真の狙いは-- 国費投入で銀行ボロ儲け」(「AERA」2013年9月30日号)
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【参考】
「【原発】【食】関東の食材からセシウム ~安部首相的「安全」の実態~」
「【原発】最悪の事態を防いだ2つの幸運 ~失われた沃野と海~」
「【原発】汚染水を浄化できるか ~福島第一原発はどうなっているのか~」
「【原発】今、そこにある汚染水危機(3) ~次の震度6~」
「【原発】今、そこにある汚染水危機(2) ~汚染水は海で薄められるか~」
「【原発】今、そこにある汚染水危機(1) ~封じ込めは可能か~」
「【原発】安倍政権、「収束宣言」を撤回 ~汚染水~」
「【原発】廃炉費用を電気料金に上乗せ ~制度を変えた経産官僚は出世~」
「【原発】ウソだらけの汚染水「緊急」対策 ~安部首相の抽象論~」
「【原発】国の汚染水対策3つ ~「汚染水は海に流せ」?~」
「【原発】「東京五輪」を脅かすフクシマ ~ダダ漏れ汚染水地獄~」
「【原発】なぜ汚染水は漏れたか ~誤算・ケチケチ体質~」
「【原発】政権の最優先課題 ~汚染水と廃炉作業~」
「【原発】責任不明確な国の汚染水処理体制 ~再稼働よりも汚染水対策を~」
「【原発】「汚染水」の本当の深刻さ ~東電のコストカットが一因~」
「【政治】安倍“異次元”政権の思想と行動 ~「馬脚をあらわす」兆候~」
「【原発】安部政権の演出と狙い ~高濃度汚染水の海洋流出~」
「【原発】福島第一原発で汚染水が海洋流出 ~漁民の被害は止まない~」
「【原発】福島第一原発周辺の海水汚染続く ~魚介累から放射性セシウム~」
「【原発】【食】東日本太平洋沖で獲れた魚介類8体からセシウム検出」