政治に自然科学に、立花隆の著作は多いが、どの時代でも青年に愛読されてしかるべきは『青春漂流』だ。若い職人、一国一城の主たち列伝だ。
「なでしこマイスター列伝」は、「週刊文春」の好企画。取材した裴昭(裴は原文では正字)は、「日本のものづくりを支える女性職人たちの賛歌」と題し、次のように記す。
いま、後継者不足で職人の技が失われつつある。伝統技術は、ひとたび断絶してしまえば、決して元には戻らない。
転換期を迎えた職人の世界だが、明るい光が差しこんでいる。若い女性たちが続々と弟子入りしているのだ。
彼女たちの経歴は様々だ。転職した人、最初からこの道を選んだ人。「職人の仕事に胸がときめいたから」と、みな口を揃えて話す。
仕事は大変だ。きつく、汚れる。女性には不向きと見なされる職場だ。体力は言うに及ばない。一瞬の判断力が仕上がりを左右するから、一時も気を抜けない。ベテランの職人は、「女には無理だと思っていた」と言う。
ところが、情熱とやる気は、むしろ若い男性たちより勝っていた。
むかしは、弟子は師匠から技術を盗み見て一人前になった。今は、ベテランが手取り足取り、分かりやすい言葉で教える。
女性ならではの効果もあった。どこも高齢化しているから、若い彼女たちが職場にくると、パーッと明るくなるのだ。
長引く不況もあって、職人として生活していくのは決して楽ではない。だが、その困難を上回る達成感が彼女たちを支えている。
●中井瑛実子(25歳、剥製師)
20歳でこの道に入り、日本人初の女性プロ剥製師として活躍している。
得意分野は、剥製の中でも特に表現力が要求される「鳥類」。世界の剥製師たちが2年に1度その技を競う世界大会で、2位に食いこんだ。
剥製の目的はさまざま。従来の標本以外に、ペットの死後いつまでも一緒にいたい飼い主からの依頼が増えている。喪失感に苦しむ人間の心も癒しているのだ。
●宮原梓(30歳、箱風呂職人)
23歳で弟子入りした。親方は実父で、100年前から箱風呂を造り続けている老舗風呂店の4代目だ。
ヒバ、ヒノキ、槙の清々しい香りに包まれる職場で、鑿や鉋を手に、湯船、風呂桶などを作る。
洋風のバスタブが主流の現代、贅沢な箱風呂はすべて受注生産だ。
この道に進むつもりはなかった。だが、一心不乱に仕事に打ちこむ父の姿に胸を打たれ、職人の道を選んだ。ひとりで箱風呂を作るのが目標だ。
●水野彩子(29歳、ダイヤモンド加工士)
服飾の立体裁断の仕事に就いていた。毎年流行に追われ、1年経てば捨てられる自分の作品をみて、転職を決意した。
気晴らしの旅行で訪れたベルギーのダイヤモンド街で目にしたダイヤモンドのカット技術に魅せられ、自分にはこの仕事しかない、と確信した。
女性技師の数は少ない。高級品だけに客の目はうるさく、確かなカット技術がなければ決して売れない。が、水野氏の作品は多くの顧客の支持を得ている。
●矢島美穂子(53歳、ルリユール作家)
44歳で単身渡仏。グーテンベルク時代から続く伝統の製本技術で大切な一冊を新たな装丁で甦らせるルリユールの魅力に取り憑かれたのだ。留学先の専門学校では、最年長だった。
情熱は確かな技術も培った。製本技術を競い合う世界大会では、見事に1位に輝いた。
自宅の2畳の納戸を仕事場とする。
電子書籍が席巻しつつある今でも、本当に大切な本はルリユールとして手元に残されるはずだ、と矢島氏は笑う。
●中島尚子(25歳、江戸切子職人)
就職難と後継者不足の解決を目的に自治体が始めた「伝統工芸職人弟子入り支援事業」を目にして、江戸切子の世界の門戸を叩いたばかりだ。
研修先は創業80年を超える老舗。修行は楽ではない。駆け出しの新米職人として、毎朝5時に起きて日々腕を磨く。
江戸切子はガラスを削る一瞬一瞬が勝負だ。片時も気を抜けない。でも、「じぶんのペースでやれるので、ストレスフリーですよ」。
以上、裴昭「なでしこマイスター列伝」(「週刊文春」2011年10月6日号)に拠る。
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「なでしこマイスター列伝」は、「週刊文春」の好企画。取材した裴昭(裴は原文では正字)は、「日本のものづくりを支える女性職人たちの賛歌」と題し、次のように記す。
いま、後継者不足で職人の技が失われつつある。伝統技術は、ひとたび断絶してしまえば、決して元には戻らない。
転換期を迎えた職人の世界だが、明るい光が差しこんでいる。若い女性たちが続々と弟子入りしているのだ。
彼女たちの経歴は様々だ。転職した人、最初からこの道を選んだ人。「職人の仕事に胸がときめいたから」と、みな口を揃えて話す。
仕事は大変だ。きつく、汚れる。女性には不向きと見なされる職場だ。体力は言うに及ばない。一瞬の判断力が仕上がりを左右するから、一時も気を抜けない。ベテランの職人は、「女には無理だと思っていた」と言う。
ところが、情熱とやる気は、むしろ若い男性たちより勝っていた。
むかしは、弟子は師匠から技術を盗み見て一人前になった。今は、ベテランが手取り足取り、分かりやすい言葉で教える。
女性ならではの効果もあった。どこも高齢化しているから、若い彼女たちが職場にくると、パーッと明るくなるのだ。
長引く不況もあって、職人として生活していくのは決して楽ではない。だが、その困難を上回る達成感が彼女たちを支えている。
●中井瑛実子(25歳、剥製師)
20歳でこの道に入り、日本人初の女性プロ剥製師として活躍している。
得意分野は、剥製の中でも特に表現力が要求される「鳥類」。世界の剥製師たちが2年に1度その技を競う世界大会で、2位に食いこんだ。
剥製の目的はさまざま。従来の標本以外に、ペットの死後いつまでも一緒にいたい飼い主からの依頼が増えている。喪失感に苦しむ人間の心も癒しているのだ。
●宮原梓(30歳、箱風呂職人)
23歳で弟子入りした。親方は実父で、100年前から箱風呂を造り続けている老舗風呂店の4代目だ。
ヒバ、ヒノキ、槙の清々しい香りに包まれる職場で、鑿や鉋を手に、湯船、風呂桶などを作る。
洋風のバスタブが主流の現代、贅沢な箱風呂はすべて受注生産だ。
この道に進むつもりはなかった。だが、一心不乱に仕事に打ちこむ父の姿に胸を打たれ、職人の道を選んだ。ひとりで箱風呂を作るのが目標だ。
●水野彩子(29歳、ダイヤモンド加工士)
服飾の立体裁断の仕事に就いていた。毎年流行に追われ、1年経てば捨てられる自分の作品をみて、転職を決意した。
気晴らしの旅行で訪れたベルギーのダイヤモンド街で目にしたダイヤモンドのカット技術に魅せられ、自分にはこの仕事しかない、と確信した。
女性技師の数は少ない。高級品だけに客の目はうるさく、確かなカット技術がなければ決して売れない。が、水野氏の作品は多くの顧客の支持を得ている。
●矢島美穂子(53歳、ルリユール作家)
44歳で単身渡仏。グーテンベルク時代から続く伝統の製本技術で大切な一冊を新たな装丁で甦らせるルリユールの魅力に取り憑かれたのだ。留学先の専門学校では、最年長だった。
情熱は確かな技術も培った。製本技術を競い合う世界大会では、見事に1位に輝いた。
自宅の2畳の納戸を仕事場とする。
電子書籍が席巻しつつある今でも、本当に大切な本はルリユールとして手元に残されるはずだ、と矢島氏は笑う。
●中島尚子(25歳、江戸切子職人)
就職難と後継者不足の解決を目的に自治体が始めた「伝統工芸職人弟子入り支援事業」を目にして、江戸切子の世界の門戸を叩いたばかりだ。
研修先は創業80年を超える老舗。修行は楽ではない。駆け出しの新米職人として、毎朝5時に起きて日々腕を磨く。
江戸切子はガラスを削る一瞬一瞬が勝負だ。片時も気を抜けない。でも、「じぶんのペースでやれるので、ストレスフリーですよ」。
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