辛(しん)よ さようなら
金(きん)よ さようなら
君らは雨の降る品川駅から乗車する
李(り)よ さようなら
もう一人の李よ さようなら
君らは君らの父母(ちちはは)の国にかえる
君らの国の川はさむい冬に凍る
君らの叛逆する心はわかれの一瞬に凍る
海は夕ぐれのなかに海鳴りの声をたかめる
鳩は雨にぬれて車庫の屋根からまいおりる
君らは雨にぬれて君らを追う日本天皇を思い出す
君らは雨にぬれて 髭 眼鏡 猫背の彼を思い出す
ふりしぶく雨のなかに緑のシグナルはあがる
ふりしぶく雨のなかに君らの瞳はとがる
雨は敷石にそそぎ暗い海面におちかかる
雨は君らの熱い頬にきえる
君らのくろい影は改札口をよぎる
君らの白いモスソは歩廊の闇にひるがえる
シグナルは色をかえる
君らは乗りこむ
君らは出発する
君らは去る
さようなら 辛
さようなら 金
さようなら 李
さようなら 女の李
行ってあのかたい 厚い なめらかな氷をたたきわれ
ながく堰(せ)かれていた水をしてほとばらしめよ
日本プロレタリアートのうしろ盾まえ盾
さようなら
報復の歓喜に泣きわらう日まで
□中野重治「雨の降る品川駅」(『中野重治詩集』(岩波文庫、1978))
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【詩歌】中野重治「わかれ」」
「【詩歌】中野重治「あかるい娘ら」」
「【詩歌】中野重治「しらなみ」」
「【詩歌】中野重治「浦島太郎」」
「【詩歌】中野重治「豪傑」」
金(きん)よ さようなら
君らは雨の降る品川駅から乗車する
李(り)よ さようなら
もう一人の李よ さようなら
君らは君らの父母(ちちはは)の国にかえる
君らの国の川はさむい冬に凍る
君らの叛逆する心はわかれの一瞬に凍る
海は夕ぐれのなかに海鳴りの声をたかめる
鳩は雨にぬれて車庫の屋根からまいおりる
君らは雨にぬれて君らを追う日本天皇を思い出す
君らは雨にぬれて 髭 眼鏡 猫背の彼を思い出す
ふりしぶく雨のなかに緑のシグナルはあがる
ふりしぶく雨のなかに君らの瞳はとがる
雨は敷石にそそぎ暗い海面におちかかる
雨は君らの熱い頬にきえる
君らのくろい影は改札口をよぎる
君らの白いモスソは歩廊の闇にひるがえる
シグナルは色をかえる
君らは乗りこむ
君らは出発する
君らは去る
さようなら 辛
さようなら 金
さようなら 李
さようなら 女の李
行ってあのかたい 厚い なめらかな氷をたたきわれ
ながく堰(せ)かれていた水をしてほとばらしめよ
日本プロレタリアートのうしろ盾まえ盾
さようなら
報復の歓喜に泣きわらう日まで
□中野重治「雨の降る品川駅」(『中野重治詩集』(岩波文庫、1978))
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【参考】
「【詩歌】中野重治「わかれ」」
「【詩歌】中野重治「あかるい娘ら」」
「【詩歌】中野重治「しらなみ」」
「【詩歌】中野重治「浦島太郎」」
「【詩歌】中野重治「豪傑」」