語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

書評:『スウェーデンはなぜ生活大国になれたのか』

2010年04月19日 | □スウェーデン
 スウェーデンの面積は約45万平方キロメートルで、日本の1.2倍あるが、人口は900万人強にすぎず、大阪府ほどの数でしかない。この小国が生活大国と呼ばれるのはなぜか。
 本書によれば、三段階のライフサイクルに応じた生活保障が体系化されている。すなわち、家族に未成年者(18歳未満)がいる世代、勤労世代(64歳まで)、退職した世代(65歳から)・・・・である。

 第一段階では、豊かな育児支援が特徴的である。育児休暇(手当は賃金の80%)や看護休暇(子ども1人につき年間120日間まで)があり、児童手当(16歳未満)や教育手当(高校在籍者)がでる。住宅手当も給付されるから、二世代家族にふさわしい大型住宅へ転居できる。保育所は完備し、教育費はすべて公費でまかなわれる。

 第二段階では、手厚い労働条件が特徴的である。5週間の年次有給休暇があり、通常夏季に一括して取得する(休暇期間中の手当は賃金の115%)。南国へ旅して日光を満喫する人も少なくない。長期間の休暇は、64歳まで働きつづけるエネルギーの源となる。

 第三段階では、地域生活の持続が特徴的である。それのみで生活可能な公的年金、入手しやすい良質な住居、きめ細かな在宅サービス、身体機能が低下したらサービス・ハウス、衰弱したら看護型ナーシング・ホーム、認知症が重度化したらグループ・ホームがある。
 年金を含めて公的サービスの財源は、すべて租税である(保険方式ではない)。所得税は、平均して収入の34~36%。一見おそるべき重税だが、可処分所得はすべて生活費やレジャーに充当できるから、「かなり沢山払っている」という程度の感覚である。スウェーデン人の家計簿に、貯金・教育費・医療費・生命保険の項目はない。

 1930年代から、社会政策と経済政策のバランスを巧妙に保ってきた。雇用創出、居住環境の充実にはじまり、低所得層を中間所得層へ押し上げて福祉への依存を減少させ、国民のすべてが自活できる階層まで成熟させる、という努力が重ねられてきた。
 独自の社会民主主義、草の根民主主義の風土がある。今なお高い組織率をほこる労働組合と全世帯の半数が加入する消費者組合。透明で不正を排除した政治。憲法で権威と地位を定められた国会オンブツマンと情報公開によって、これまたガラス張りの行政。そして、プラグマティカルな改革につぐ改革。
 スウェーデンも世界的な不況とEU統合の波に洗われて一時失速したが、出生率の微増、失業率の漸減、1998年度から国家財政の収支が黒字へ転じるなど、健闘している・・・・。

 本書は、スウェーデンが生活大国たるゆえんを多面的、総合的に解明して、間然するところがない。
 が、本書に記されるのは日本人研究者がみた20世紀末のスウェーデンである。その後10年余のスウェーデンは、ことにスウェーデン人自身のみるスウェーデン像は、別に求めなければならない。
 とはいえ、福祉が充実した国、というよりは「貧困をなくした生活大国」から学ぶに値するものは少なくない、と思う。ことに民意が国策に反映されやすいしくみは、いまの日本にもっとも必要とされているのではないか。
 ちなみに、スウェーデンでは政治に対する国民の関心が高く、総選挙投票率は8割を超す。投票しやすいシステム(郵便局投票、在外公館投票といった事前投票、これとセットの後悔投票)、比例代表制などの制度もさりながら、「信頼できる政治」 「国民ための政治」が国民の共通認識となっているからであるらしい。

 著者は、1936年台北生まれ。ストックホルム大学大学院(国際法専攻)卒。外務省専門調査員(在スウェーデン日本大使館)、ストックホルム大学客員教授、鹿児島経済大学教授、埼玉大学教授などを歴任した。

□竹崎孜『スウェーデンはなぜ生活大国になれたのか』(あけび書房、1999)
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