古い倉庫を始末し、新しく設置した際、古い倉庫から出てきた本の一。
本書は17世紀から18世紀にかけてロシアに君臨したピョートル1世を主人公とする歴史小説。
ピョートル1世は、造船工学から砲術まで貪欲に近代科学ないし技術を吸収し、服装から教育制度まで西欧化を進めた。近代的軍隊を育て、スウェーデンのカール12世を打ち破った。
かくて大帝と呼ばれるにふさわしい業績を残したのだが、他方では平然と無茶な指令を発し、人命を軽視すること塵芥のごとくであった。お気に入りの側近さえ気分しだいで簡単に斬首し、叛逆者一党に対する処置は残忍きわまる。いわんや名もなき民をや。牛馬以下の扱いだから、新帝都ペトログラードの建設に当たっては、死屍累々となった。
要するに、大帝の性格は矛盾の塊だったのだ。そして、矛盾の統一は弁証法によらず、動物的な精力によった。パンタグリュエル的暴飲暴食、女とくれば手あたり次第の放埒乱脈な生活。常識とか節度とかいう文字はピョートル大帝の辞書にはなかった。
□アンリ・トロワイヤ(工藤庸子・訳)『大帝ピョートル』(中央公論社、1981/後に中公文庫、1987)
↓クリック、プリーズ。↓