語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【米国】大統領選の主役は「アウトサイダー」 ~トランプ=サンダース現象が生んだ亀裂~

2016年08月25日 | 社会
 (1)11月の米国大統領選挙に向け、共和党と民主党が全国大会を開いてドナルド・トランプ、ヒラリー・クリントンを大統領候補として正式に指名した。いよいよ火ぶたが切られたわけだ。だが、大統領候補指名の大イベントは、候補者選びでそれぞれの党に小さくない亀裂が走ったことを印象づける結果となった。
  (a)共和党・・・・混乱ぶりは、全国大会への出席を大物政治家がボイコットしたことに端的にあらわれていた。ブッシュ前大統領、ロムニー前回大統領候補らが欠席、ケーシック・オハイオ州(開催地)知事も姿を見せていない。
  (b)民主党・・・・党執行部の幹部がクリントンに肩入れをしてバーニー・サンダースの躍進を阻むために協議していたことを裏づけるメールが曝露され、党全国委員長が辞任に追い込まれた。

 (2)それぞれの党に亀裂を生じさせた①トランプと②サンダースには、「アウトサイダー」という共通点がある。
 ①は、「不動産王」と呼ばれる一方、政治経験がない。
 ②は、米国政治史上初めての「社会主義者の上院議員」だ。
 ①は、大統領候補指名の受諾演説で、サンダースの支持者たちに呼びかけるような物言いをした。サンダースの支持者は、クリントンではなく自分を支持するだろうと自信を見せ、その根拠について「私たちが彼の最大かつ唯一の課題、つまり、わが国から雇用や富を奪っている貿易の取り決めについて正すから」と述べた。
 自由貿易が党是ともいえる共和党の大統領候補としては異例の主張だが、確かに①はTPPを激しく攻撃した点で②と息が合っていた。②が多国籍企業の利益を守るための壊滅的な貿易協定だと批判したのに呼応するように、①は「米国の労働者を傷つけ、自由と独立を軽んじるいかなる貿易協定にも決して署名しないと誓う」と指名受諾演説で明言した。

 (3)フランシス・フクヤマ(政治学者)は、「2016年の政治的意味合い」(「フォーリン・アフェアーズ」2016年7月号)で、①トランプと②サンダースが予想外の支持を獲得したことを念頭に、次のように分析した。
 <経済格差が拡大し、多くの人が経済停滞の余波にさらされた数十年を経て、米国の民主主義がついに問題の是正に動き出した>
 フクヤマによれば、米国政治に
   「経済的な格差問題」(=「階級問題」)
が主要なアジェンダとして登場したのは今回の大統領選が初めてだという。アウトサイダーが支持を集めたのは政治の場に声を届けることができないでいた白人のブルーカラー層などを引きつけたからで、①や②の主張の是非とは別に、遅まきながら民主主義が機能し始めたと解釈している。

 (4)サンダースは大統領選挙の舞台から退場したが、トランプが「トランプ=サンダース現象」が生んだ大統領候補であるかぎり、「ポピュリスト」の一言で片付けることはできない。
 「トランプ=サンダース現象」が、貿易政策や移民政策の抜本的見直しを求める経済ナショナリズムに共鳴する人びとによって支えられていた事実は注目に値する。

□佐々木実「「トランプ=サンダース現象」が生んだ亀裂 米国大統領選の主役は“アウトサイダー”」(「週刊金曜日」2016年8月5日号)
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